やっぱり故郷は、大切な場所っす(前編)
「すみませんっす、ぽってぃー先輩。忙しい年末年始にお休みを頂いてしまって」
大きな風呂敷を背負ったゴロは、申し訳なさそうに眉を下げる。
「構へんで。休み言うても、半分は仕事やしな。もう長い事帰れてなかったんやし、ゆっくりしてきたらええわ」
「っす。冷凍庫におせちを作って置いてあるっす。解凍して、お正月に食べてくださいっす」
「おせちー!肉いっぱい入っとるんやろな!」
「もちろんっす。今回はくくさん監修の下、映えるおせちをテーマにローストビーフやグラタンなど洋の要素を取り入れてみたっす」
「ゴロ先輩のおせち、素朴で伝統的なものしかなかったから~、くぅが色々リクエストしてみました~、く♡おせちを食べる企画考えてるから、みんな撮影に協力してな~、く♡」
「さー。当然デザートも充実してるさー?」
「っす。それもくくさんに頼まれて和と洋どちらもご用意してるっす。シロさん用にとびきり甘く作ってあるっす。皆さんの分もそれぞれあるっすから、どうぞ楽しんでくださいっす」
「そ、それってわいの分も…」
「ぽってぃー先輩が食べ過ぎてしまわないように食事管理はお任せしますっす、るっぴーさん。遠慮は無用っす」
「は、はい!頑張ります!」
「るっぴー、お前着実にゴロの弟子ポジションを確立してきとるな…」
純粋な目で拳を握るるっぴーがここに来たばかりの頃のゴロに重なり、何とも言えない気持ちになるぽってぃー。
「では、そろそろ行くっす」
「土産買ってこいよ!」
「まんじゅうがいいさー」
「あんまり期待してへんけど~、エモいものがいいな~、く♡」
「お、お気をつけて!」
「おばあさん達によろしゅうな」
思い思いの言葉で送り出され、ゴロは久しぶりに故郷への道を行くのだった。
*
「う、噂には聞いてたけど、本当にすごい山奥だね」
「す、そうっすか?もう少し行くと村が見えてくるっす。頑張ってくださいっす」
息を切らすマネージャーを励ましながら、久しぶりの道を歩くゴロ。見慣れた筈の山道なのだが、ところどころが整備されて歩きやすくなっている。
(これなら車も通れたっすかね)
直前の町まではタクシーを使ってきた。山に入れば車など通れる道ではないので降りてしまったが、こんな事ならマネージャーのためにも来られるところまでタクシーのままで良かったかもしれない。色々と便利になったというのは祖母からの手紙で聞いていたが、これは想像以上だ。
そのまましばらく歩いていると、目の前が大きく開けた。そこに広がる光景を目にしたゴロは、驚きに目を見開いた。
前に帰省した時よりずっと大きくなった田畑。何もなかった筈の場所には、いくつかビニールハウスが建てられている。畑の隅には見覚えのない小屋があり、中にはトラクターなどの農業器具が止まっていた。
「これは…一体…」
「あ、ゴロ君。ほら、あそこ見て」
「す?」
マネージャーが指差した先を見ると、村の入り口に大勢のぬいぐるみが集まっていた。
「お、来た!来たぞ!」
「ゴロが帰ってきた!」
「おーい、ゴロー!」
見知った顔がいくつもこちらに向かって笑顔で手を振っている。その後ろには、"祝英雄の帰還 おかえりゴロ!"という横断幕が掲げられていた。
「す、す?」
状況が飲み込めないでいると、ぬいぐるみ達の中からいくつかの影がピョンと飛び出してきた。
「「「「兄ちゃーん!」」」」
「シンタ!ミヨ!フタバ!カズヒコ!」
突進するように抱き着いてくる弟達を受け止める。
「会いたかったよ、兄ちゃん!」
「みんな兄ちゃんの事待ってたんだよ!」
「今日はね、村のみんなで"うたげ"をするんだって!」
「美味しいご飯いっぱい用意してるんだよ!」
「す、わ、わかったっすから一度状況を整理させてほしいっす」
口々に色んな事を言われ、混乱で目が回りそうになるゴロ。その様子を見ていた村のぬいぐるみ達は、笑いながら説明した。
「ゴロの仕事っぷりはこの村まで届いてるんだよ」
「山奥の奥知事がゴロの活躍をぜひ故郷の俺達にも知ってほしいからって"もにたー"と"でーぶいでー"ってやつを貸し出してくれて、村のみんなですてーじの鑑賞会をしたんだ」
「す、そうなんすか?」
初めて聞く話に、ゴロは目をパチクリと瞬く。
「ああそうそう、焼きおにぎりのしーえむも大人気なんだってな。今、村の子供達の間であの歌が大流行してるぞ」
「あとあれも見たぞ。"都会で頂くほっこりご飯"、だっけか。随分シャレた料理を作るようになったんだな」
「でもばあさんの出汁巻き卵を作ってるのを見た時は、ああゴロだなって思ったよ。なぁ、ばあさん」
ぬいぐるみの一人が振り返った先には、ゴロが一番会いたかった人物の姿があった。
「ばあちゃん!」
「おかえり、ゴロ。立派になったねぇ」
優しい声がじんわりと胸に沁みる。穏やかな笑顔につられ、それまでオロオロしていたゴロもゆっくりと頬を綻ばせた。
*
「よーし、それじゃあ村一番の出世頭ゴロに乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
あちらこちらでグラスがぶつかり合う音が聞こえる。村長の家の大広間には、村中のぬいぐるみが集まっていた。
「いやあ、あのゴロが今やお茶の間の人気者かぁ。何だか信じられねぇなぁ」
「やっぱり芸能界には別嬪さんが多いのかい?」
「す、魅力的な方は男女関係なくたくさんいらっしゃるっす」
主賓のゴロは一番上座、村長の隣に座布団を敷かれ馴染みのご近所さん達に囲まれていた。
「まねいじゃーさんだったかい?あんたが仕事を取ってきてくれてるんだってな」
「ゴロがこんなに人気者になったのも、あんたの手腕のお陰だよ」
「いえいえ、私は自分の仕事をしているだけですよ。それに、私よりもぽってぃーさんの方がゴロ君の事をよくわかっていて次々に企画を考えてくれています」
「ああ、すてーじで一際輝いてたあのぬいぐるみかい」
「確かに歌も踊りも良かったけど、なーんか優柔不断そうな顔してたなぁ」
「そうそう。あとあれは絶対ムッツリだな。俺にはわかる」
「そんな事ないっす!」
すっかり酔っ払ったおじさん達の言葉に、ゴロはバッと立ち上がる。
「ぽってぃー先輩はいつも見るぬいぐるみがワクワクするような事を考えていて、お仕事に全力投球してるっす!おいはそんなぽってぃー先輩の力になりたいんす!ぽってぃー先輩が信じてくれるから、おいはハウスキーパーもレッスンも芸能界のお仕事も頑張れるんす!だから、だから、健康診断でメタボを指摘されてるぽってぃー先輩も、よくわからない雑誌を集めてるぽってぃー先輩も、おいは大好きなんすー!」
ゴロの渾身の叫びが、賑やかな大広間に響き渡る。その場にいたぬいぐるみ達は何事かとお喋りをやめ、全員ゴロに注目する。
部屋中から視線を集めたゴロはしばらく仁王立ちのまま固まっていたが、その体勢のままコロンと畳に倒れ込んだ。
「ゴロ君⁉」
「すー、すー」
マネージャーが慌てて駆け寄ると、聞こえてきたのは気持ち良さそうな寝息。
「あれまあ、ゴロったら酔っ払ってるねぇ」
「酔…?」
同じくゴロに近づいた祖母がのんびりと言った言葉に、キョトンとするマネージャー。
「あ、これじゃないか?大根の酒漬け」
一人がゴロの前に置いてあった皿を指差す。そこには大人達が酒の肴にしていた漬物が乗っていた。
「誰だー?ゴロに食わせた奴」
「俺は知らねーぞ」
「悪いな、まねいじゃーさん。ゴロの奴、とんでもなく酒に弱いんだよ」
「心配ないよ。明日にはちゃんと目を覚ますから」
「は、はあ」
そう祖母に言われ、マネージャーは心の中で"ゴロ君にお酒は厳禁"という情報を書き加えるだけに止まるしかなかった。




