女子(?)会、開くっす
「初めまして!あなたがくくちゃんね!いつも動画見てるわ!直に会っても可愛いのね!」
「え~、天下のキャッツ・キャシーさんにそんなん言うてもらえるやなんて恐れ多いです~、く♡キャシーさんこそ毛並みふわふわでめっちゃ可愛い~!今日はよろしくお願いします~、く♡」
(お二人の周りにお花が見えるっす)
ソプラノの声が楽し気に飛び交う中、ゴロはひとまず上がってもらおうとキャシーに声をかけるのだった。
「───くとくを合わせてキラキラリン☆くっくチャンネルのくくで~す、く♡今日は~、何とトルタのキャッツ・キャシーさんがゲストで来てくれてはりま~す!ほな、早速お呼びしますね~。キャシーさ~ん♡」
「こんにちは、キャシーです。今日はよろしくね、くくちゃん」
お決まりのフレーズで始まったNuiTube撮影。くくはもちろんだが、キャシーもキャシーでカメラ慣れしており、とても自然な感じでオープニングは進んだ。二人の前にあるのは、ひらひらとしたフリルの敷かれたローテーブルに置かれた真っ白なティースタンド。そこにはサンドイッチにスコーン、そしてカラフルで可愛らしいマカロンやケーキの数々が並んでいる。
─キャシーさんが~、デビューステージのバクステ映像にいいねしてくれはったんです~、く♡くぅ、ファンやからめっちゃ嬉しくて~。ダメ元でゲストで出てもらえませんか~ってDM送ったら、まさかのOK貰えました~!
ある日の夕飯時、見るからに興奮気味なくくの言葉にぽってぃーが玄米ご飯を吹き出したのも無理はない。いくらくくが有名なインフルエンサーとはいえ、キャシーは事務所の大先輩だ。そんな相手にマネージャーも通さずに直接声をかけた、しかもいきなり自分のチャンネルにゲストとして出てくれというのは本来なら大変な失礼にあたる。
幸い、キャシーはそういう事は全く気にしない性分だし、殺人的なスケジュールをこなしながらも仕事を選ぶような事もしない。二つ返事で受けてくれた礼を言うため、ぽってぃーはライバル意識バシバシの相手に送るメッセージの内容を一晩悩みに悩んだ。この時ばかりはゴロも彼を不憫に思い、いつもなら絶対選ばないチョコレート(ただしカカオの配合量が高いものである)を差し入れた。
そんなこんなで迎えた撮影当日。わざわざ家まで来てくれたキャシーの厚意で見学させてもらう事にしたゴロは、くく達とカメラを挟んだ反対側に鎮座して撮影を見守っている。
"可愛い衣装を着て本格的なアフタヌーンティーで女子会してみた"というコンセプトの下、くくはいつも以上に気合いの入ったコーディネートをしていた。リボンとフリルたっぷりのワンピースは、くく自身の手でスカート部分がぽわんとした裾のパンツにリメイクされている。緑を基調とした色合いは、先日デビューした時に決まった自分のイメージカラーを意識しているのだろう。
対するキャシーはというと、淡いピンク色のドレスを衣装に選んでいた。くくと比べると控えめなデザインに思えるが、彼女の正統派ヒロインのイメージにこれ以上ないほど合っている。
「キャシーさんの衣装めっちゃ可愛い~!お姫様みたいで今回の企画にピッタリですね~、く♡」
「ありがとう。可愛いお茶会がテーマだから、昔の貴族をイメージした衣装にしてみたの。くくちゃんもとても素敵だと思うわ。可愛い王子様って感じで、私達お似合いね!」
「お、王子様…?嫌やわぁ。キャシーさんってば、今日は女子会ですよ~、く♡」
ああ、やっぱり。
くくの頬がヒクリと引き攣るのを見たゴロは、己の不安が的中したと天井を仰ぐ。隣で一緒に見学していたぽってぃーも同じ気持ちのようで、片手で顔を覆っている。
今回の話を最初にくくから聞いた時、まず危惧したのは事務所からお叱りを受けないかどうかだった。先述した通り、キャシー自身は純粋に後輩の番組に出られる事を喜んでいたが、マネージャーを始めとする事務所のぬいぐるみは違う。勝手な事をしたくくと、監督不行き届きという事でぽってぃーに何かしらお咎めがあってもおかしくはなかったのだが、デビューしたてでこれからグループの認知度を上げていきたいというのは事務所も同じ意見だったようで、幸いそれは回避できた。
残る問題は、単純に二人の相性である。可愛いものが大好きという一見するとお似合いのキャラに見えるが、くくは"可愛いものが大好きな可愛い自分が大好き"なぬいぐるみなので隙あらば自身の可愛さをアピールする事に余念がない。今回の企画も、キャシーがゲストというキャッチーな話題で自身のチャンネルの再生回数を上げようという思いと、あわよくばそのキャシーを食い、彼女目当てで動画を見てくれる視聴者に自分の方が可愛い事を知らしめようという野望があったのだが、彼は一つ大きな誤算をした。
「や~ん。くぅ、お鼻にクリームつけてしもた~。恥ずかしい~、く♡」
「あらやだ、私もほっぺにクリームがついちゃったわ!ふふ、お揃いね!」
「そ、そうですね~」
随所随所で自分が可愛く見える演出を入れるくくだが、キャシーはそれを大きく超えてくる。流れてくるコメントを見ても、キャシーについて言及する声が多い。恐ろしいのは、それが計算されたあざとさではなく天然の産物だという事だ。彼女は今、純粋にこの撮影もとい女子会を楽しんでいる。
「そうだわ!くくちゃん、今度一緒にショッピングしましょう!私がプロデュースさせてもらったお洋服が本当に可愛くてね、ぜひくくちゃんにも着てみてもらいたいわ!」
「あ、ほ、ほんならくぅがコラボさせてもろたお洋ふく♡もキャシーさんに着てほしいです~、く♡絶対似合いはると思います~、く♡」
「本当?じゃあ、私の専属スタイリストさんもご一緒してもいいかしら?いつも素敵なコーディネートをしてくれるのよ」
「せ、専属スタイリスト…や~ん、う、羨ましいわぁ」
「あれがわざとやったらって、わいも何度思た事か…」
くくのHPがじわじわ削られていっているのが見ていて伝わる。隣から聞こえた哀愁の漂った声にも、敢えて何も反応しなかった。ゴロにとってのキャシーはぽってぃーと同じくらい憧れの存在だが、彼女をライバル視するぬいぐるみにとっては非常に手強い相手だという事が今回の事で十分すぎるほどわかった。
そしてもう一つ、キャシーがくくの投稿にいいねをしてくれたのは無事デビューを果たした後輩にこれから頑張ってねという純粋なエールであって、くく自身を推しているとかそういう特別な意図は全くないのだろうなという事をゴロは何となく思っていた。何なら、そのいいねは先輩として以上に同期のぽってぃーへの称賛の意味合いの方が強いのではないかとすら思う。くくには口が裂けても言えない事だが。
こうしてくくの野心に満ちたお茶会は、キャシーの天然で純粋な性格によるキャシー無双モード動画として視聴者に届けられたのだった。
*
「とっても楽しいお茶会だったわ!良ければまたやりましょう!そうね、今度は私のおうちにご招待するわ!色んな紅茶を取り揃えてるから、くくちゃんにも飲んでみてほしいの!」
「あ、はは、か、考えときます~、く♡」
それじゃあね!と玄関のドアが閉まった瞬間、くくはその場に崩れ落ちた。
「く、くくさん?」
「…く」
「く?」
「悔しいいいいい!」
四つん這いの体勢のまま、バンバンと床を叩いて涙を流すくくの肩にぽってぃーがそっと手を添える。
「まあ、何や、相手が悪すぎたな。これに懲りたら、キャシーには今後安易に張り合おうとせん方が…」
「くぅは絶対諦めへん!いつか絶対超えたるからな!」
「…あ、そう」
あれだけ完敗しておいてまだ戦う意思があるのか、とゴロは感心した。実際彼女とは公私共に交流を持つ事になるのだが、それはまだ先の話。




