推しとの出会い、感激っす(後編)
「───ほんでな、ほんでな、ウィルとビルが即興で漫才始めてエミリーとめっちゃ笑っとってん!マネージャーに言うてライブのMCでまいらがコントできるようにしたい!あんちゃん、ええやろ?」
「エミリーの事務所がOK出すかどうかによるけど、ええんとちゃうか?マネージャーに話通しとくわ」
「やたー!」
兄の賛同を得たどってぃーは、上機嫌で唐揚げにかぶりつく。彼のユニットのメンバーはウィルとビル、それから彼の推しサニーを演じているエミリーの四人だ。一度だけレッスンをご一緒したが、各グループの元気担当が集まっているだけあって明るくポップな曲が印象的だった。
おかわりのご飯をよそいながら、ゴロはシロにも話を振る。
「シロさんのところはどんな様子っすか?」
「さー。まずまずさー。ボルクもユーリもレベルが高いさー。さすがおらの見込んだぬいぐるみさー」
ユーリというのは、シロが推しているカトリーナの声優である。こちらもこちらで仲良くしているボルクに加え、推しが同じユニットというのでレッスンが始まってから(非常にわかりづらいが)ずっとテンションが高い。このユニットは全体的にあまり自分からコミュニケーションを取るタイプのぬいぐるみがいないのだが、一匹狼気質のシロとボルクにひたむきな性格のユーリの組み合わせがいい化学反応を起こしたらしくこれはこれで上手くやれているようだ。
新しく揚げた唐揚げを追加し、今度はぽってぃーに尋ねる。
「ぽってぃー先輩は…」
「控えめに言って最高や」
皆まで言う間もなく、グッと拳を握る姿に言いかけた言葉が宙ぶらりんになる。
「元々わいはゲームから入っとるからナンシーの事は後から知ったわけやけど、あの自信に満ちたパフォーマンスにそれを支えとる影の努力。まさにエリスを体現したようなぬいぐるみや。でも休憩中には気さくに話もしてくれて、そのギャップがまた堪らんというかまた印象の違う笑顔がもう女神の微笑みとしか思えん美しさなんや」
「あんちゃんオタク全開、ウケる」
「え、ええやろ別に!ファンなんは事実なんやから!」
「キャシーさんとはどうなんすか?同じユニットでパフォーマンスをするのは随分久しぶりだと聞いたっす」
助け舟のつもりで聞いてみたが、さっきまでの浮かれようが嘘のようにズーンと重い空気をまとうぽってぃーに何か聞いてはいけない事を聞いてしまったらしいと悟る。
「いや、うん…何ちゅーか、パフォーマーとしての実力は相変わらずすごいんやけど、事あるごとにくっついてくるんや。お陰でナンシーには誤解されて、何か絶妙に気ぃ遣われてしもてな。ほんまに、あの抱きつき癖はどうしたらええんかわからんわ」
「そう、っすか」
同期同士で仲がいいのは良い事だと思うのだが、この二人の場合キャシーがぽってぃーに向ける同期愛が強すぎてバランスが取れていないのが難点だ。ぽってぃーもキャシーの事は認めているし、嫌っているわけではないのがまた第三者が安易に口を出していいものではない気がして難しい。
「そういえばるっぴー、お前んとこどやねん」
「る?」
兄の複雑な心中を察したのか、それともただ浮かんだ疑問を口にしただけなのか(恐らく後者である)、おかわりの唐揚げを平らげたどってぃーが珍しくるっぴーに声をかける。
るっぴーもこのタイミングで話を振られるとは思っていなかったようで、耳をピンと立てて目を瞬いている。
「何やねん、ちょっとぐらい話聞かせろや。おかわりなくなって暇やねん」
「お前の中でメンバーの話はメシより優先順位低いんか」
「え、えっと、頑張ってます!最初はとても緊張していたのですが、お二人ともとても優しくてレッスンが楽しいです」
「そうか、ほんなら良かった。けど、まさかるっぴーまできゅんスプやっとったとはな」
ぽってぃーの言葉に、るっぴーがポッと頬を染める。
そう、今回の話が出た事でゴロも初めて知ったのだが、るっぴーもきゅんスプのファンだった。それもただのファンではない。アプリがリリースされた時からプレイしているので、歴で言えばぽってぃーよりも長かったのだ。彼の推しマリンを担当しているぬいぐるみベルは、今回組むユニットのメンバーでもある。
それ故、るっぴーの今回の仕事へのモチベーションは過去一番と言えた。ただ、同じくらいプレッシャーも大きかったのだが、それを解決してくれたのがもう一人のメンバーティノだった。ドラマで共演して以来、面倒見のいいティノの存在はゴロにとってのガオと同じくらい頼れるものとなっていた。ベルもティノも歌に定評がある事で有名だ。そこにるっぴーが加わった事で、発表する曲は思わず涙ぐんでしまいそうな素晴らしいバラードとなっていた。
「みんなええな~、楽しそうで」
一人口を尖らせるのはくくである。彼はこの中で唯一、きゅんスプ未プレイだった。しかし、話を貰ったからにはと今はアプリをダウンロードしてコツコツとレベルを上げている最中である。こういうところに彼のプロ意識が垣間見えるのがカリスマインフルエンサーたる所以なのだろう。
「でも、くくさんは今のところ二コラさんがお好きっすよね?」
「まあそうやけど~。みんなみたいな好きじゃなくて、くぅみたいに可愛いから推せるっていうか~。一緒におるとくぅの可愛さが引き立つし~、く♡」
((((ああ…))))
「ゴロ、ご飯おかわり!」
くくの言葉にどってぃー以外の心の声が一致する。彼の(一応)推しである二コラは、N-Wish随一の可愛い担当なのだ。自らを"宇宙一可愛いぬいぐるみ"と称しており、くくとは性別が違うだけで似通っている部分がたくさんある。演じているシエルは全く真逆のタイプらしく、バチバチにやり合うつもりだったくくは肩透かしを食らったようで不満らしい。
「くくに二コラ、ほんでトルタからはシャオパンか…」
「一番何が起こるか予想できない組み合わせさー」
「き、きっと素敵なユニットになると思います!」
それぞれの感想にゴロも同意だ。普段はのんびりとしているが、シャオパンはステージの上ではある意味るっぴー以上に化ける。そして、シエルも役に入れば別人のようになるのが魅力だ。彼らの楽曲を聞かせてもらったが、歌うメンバーの三分の二が男とは思えないような可愛い曲だった。出来上がりが一番見えるようで見えない不思議なユニットである。
その時、ぽってぃーのスマホが着信を告げた。
「ちょっとすまん」
一言断りを入れて画面を確認したぽってぃーは、ヒクリと頬を引き攣らせる。
「出ないんすか?」
「あー、うん…うん…」
スマホを持っているのとは逆の手で額を覆ったり天井を仰いだりとしばらく悩む素振りを見せたぽってぃーだったが、意を決したように通話ボタンを押した。
「もしも…」
《こんばんは、ぽってぃー!今大丈夫かしら?》
食い気味に聞こえてきた声がよく通る。お陰で、その場にいた全員が先程までのぽってぃーの不審な様子の訳を知るのだった。
用件はどうやらライブの演出についての相談のようで、ステージの雰囲気や衣装の事など矢継ぎ早に話題が変わっていく。
「ちょちょ、待て。今書斎に行くから」
そう言って椅子から下りると、ジェスチャーで「すまんな」と伝えられたので、ゴロはコクコクと頷く。
「ぽってぃーさんもキャシーさんも、ライブの演出まで任されてとても忙しそうですが、大丈夫でしょうか」
「リーダーはやるとなったらやる男さー」
「できるやろ。まいは余裕やけどな」
「くぅも演出やってみたいな~、く♡」
各々の意見を聞きながら、ゴロもぽってぃーの事を案じていた。だが一方で、ぽってぃーなら大丈夫だという確信もあった。
ライブまではまだあと少し。それまでに自分にできる事は、パフォーマンスに磨きをかける事だと気合を入れ直すのだった。




