お名前、覚えてくださいっす
「───それでさ~、新しく配信された曲がすっごくカッコ良くて、ホント私の推し神って感じ!」
「わかる~!ダンスもキレが増してるし、最後のサビの高音がめちゃくちゃきれいだよね!」
昼休みの教室。昼食を食べながら女子高生数人が盛り上がっているのは、最近乗りに乗っているパフォーマンスグループについてだった。
「キャシーちゃん、ホントに可愛い~」
「シャオパンの普段ののんびりした雰囲気とパフォーマンスとのギャップも良くない?」
「ギャップで言うなら、ウィルとビルのお笑い担当でしょ!カッコ面白くて大好き!」
「私はティノ派~。みんなをまとめるお兄さんって感じがいい!」
「いやいや、ボルクのクールな表情に勝るものはないでしょ!」
「それを言うなら、ガオのワイルドな色気だってたまんないって!」
各々が自分の推しの良さを語る中、一人黙ったままのぬいぐるみに気づいた友人が声をかける。
「どうしたの?さっきから全然話に乗ってこないじゃん」
「あー、うん」
曖昧に笑う彼女に、別の友人があーと苦笑する。
「あんたぽってぃーのファンだもんね。ライバルの活躍は複雑なんでしょ」
彼女達が夢中になっているのはトルタ。大手芸能事務所ドルチェに所属する大人気グループである。リーダーのキャシーがプロデュースしたこのグループは歌やダンスはもちろん、メンバーそれぞれがドラマやモデル、バラエティなど多岐にわたって活躍しており、配信されるミュージックビデオは常に何千万回と再生されている。
対して一人黙っていた彼女の推しの名はでぃあ・ぽってぃー。キャシーとは同期で、彼女と同じく事務所から新しいグループのプロデュースを任されている。しかし、トントン拍子にグループを結成し瞬く間に人気を獲得していったトルタと違いメンバーの選出に苦労している、というのがファンの間での認識だった。
「でもさ、確かこないだぽってぃーもグループを結成したんだよね」
「あー、そうそう。それでステージデビューしたんでしょ?」
「!そう!そうなの!」
友人の言葉に、ぽってぃーファンのぬいぐるみは顔を輝かせながらスマホを操作して画面を見せる。
「これ!その時のステージのアーカイブ配信!もう最っ高だったの!」
画面には、ぽってぃーを始めとするメンバーのシルエットが次々とモニターに映し出されている。観客の拍手から会場の盛り上がりが窺えた。
そして音楽が止み、真っ暗になったステージに立つ影が六つ。パッと照明が当てられ、カラフルな衣装を身にまとったぬいぐるみ達が姿を現す。その中の一人、茶色いテディベアが勢いよく拳を突き上げた。
《ウィーアー!》
《 《 《 《 《フルータ!》 》 》 》 》
センターにいたレモン色の衣装の彼ぽってぃーに続き、他のぬいぐるみ達の声が重なる。そして始まった曲のメロディーに乗せて披露されるパフォーマンスに、映像を見ていた女子高生達は興奮気味に食いついた。
「うわ、何これ!」
「めっちゃいい曲じゃん!っていうか、どってぃー君やっぱりダンス上手~い!」
ぽってぃーによく似たオレンジ色のテディベアどってぃーはぽってぃーの実の弟である。くま子というガールフレンドとのNuiTubeのカップルチャンネルが話題を博しており、既にドルチェ主催のステージで個人でデビューもしている。ダンスの実力に定評があり、リンゴをモチーフにした衣装を活用して時折アレンジを入れては客席にファンサービスをする姿が映っていた。
「ちょっと待って!これくくちゃんじゃない⁉何でぽってぃーのグループにいるの⁉」
メロンを思わせる緑の衣装を可愛らしく着こなすのはくく。NuiTubeやNik Nok、ぬいスタなどSNSでカリスマ的人気を誇るインフルエンサーだ。"ちゃん"と呼ばれているが、一応性別は男である。
「あれじゃない?何かメンバーを選ぶために一般公募のオーディションするって言ってたじゃん。それに応募したとか」
「って事は、こっちの子も一般公募?めちゃくちゃ歌上手くない?」
くくと背中合わせにフォーメーションを組むウサギのぬいぐるみを指差した友人に、ぽってぃーのファンのぬいぐるみはでしょ⁉と身を乗り出す。
「この子ほっぷ・るっぴーっていってね、オーディション唯一の合格者なんだよ!くくちゃんはぽってぃーがスカウトしたんだって!」
「へー、確かに可愛いね」
「そうなの!だから、もうファンの間ではくくちゃんと二人でビジュ担当って言われてるんだよ!」
彼女の言う通り、るっぴーと紹介された彼はくくと同じくまるで女の子のように線が細い。華やかなくくと儚げな美少年のるっぴーといったところか。淡い水色の毛色に、どってぃーとは違った色合いのいちごの赤がよく映えている。
「ねぇ、こっちにはシロ様がいるよ!」
「マジ⁉シロ様歌って踊れるとかできない事なさすぎじゃない⁉」
トルタのメンバー、ボルクとガオのファンである女子高生二人が食い入るように画面を見つめる先では、他のメンバーが笑顔でいる中、涼しい顔でパフォーマンスをするシロの姿がある。現在、主にラジオや町をぶらつく類のロケをするバラエティー番組で活躍している彼はとても器用でミスターパーフェクトの異名を取り、リスナーからのお悩みに毎回深い言葉を残す姿が人気だ。ちなみに、その名言の数々はファンから"シロ様語録"と呼ばれている。
こちらはぶどうがモチーフと思われる衣装を翻して踊る姿を見ながら、一人が合点がいったとばかりに頬杖をついた。
「何ていうか、謎が解けたわ。最近のくくちゃん、ドルチェのタレントとコラボする事多かったもんね」
「あー、人気投票の時とか新人を紹介したりしてたよね」
「ぬいスタでもどってぃー君と撮った写真とかアップしてたし、あれグループ入りの伏線だったって事?」
「いやでもオーディションといい、カリスマインフルエンサーのスカウトといい、ぽってぃーってば思い切ったね」
「今までのドルチェになかった事をしたかったんだって。"これが今の自分の思う最高のグループです"ってステージの最後に言ってたよ」
「うわ、めっちゃ強気発言!」
「ぽってぃーって意外と熱いよね」
「でしょ⁉でもね、私このステージで一番感動したのはこの子なの!」
そう言って、ぽってぃーファンのぬいぐるみは画面を一時停止させる。映像はみかんをイメージした衣装を着たぬいぐるみがちょうどポーズを決めたところで止まっている。
「あれ?これって…」
「ゴロ君だよ!ぬいぬい印の焼きおにぎりのCMの!」
「あーそうだ!確か、ぽってぃーの家でハウスキーパーしてるんじゃなかったっけ?」
「最近バラエティー番組始まったよね?」
「そうじゃん、ガオが初回のゲストだったやつ!」
彼女達が話しているこのぬいぐるみゴロは、元々はぽってぃーのハウスキーパーとして田舎から上京してきた。それが紆余曲折あり、憧れのタレントぽってぃーがプロデュースするグループのメンバーとなったのである。彼が出演したCMにはシロも出ており、ファンの間では同じ四足歩行のぬいぐるみ同士"ゴロシロ"とセットで呼ばれる事も多い。
「実の弟にインフルエンサー、一般公募にミスターパーフェクト、果てには歌って踊れるハウスキーパーって…」
「今までにない風吹かせすぎでしょ、ぽってぃー」
パフォーマンスもさることながら、選びに選び抜いた人選、いやぬい選にポカンとする友人達に対し、ぽってぃーファンのぬいぐるみは嬉しそうにでしょ?と笑った。




