表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

第8話 エピローグ:傾国を、超えて

あれから数年。

世界は変わった。


ある国際会議では、

西の超大国の大統領は、珍しく10分前に到着した。

東の覇権国の最高指導者は、部下に「笑顔の練習」をしてきたらしい。


会場はいつも通り。

ただ、空調の温度もコーヒーの濃さも、あかりの好みに寄っていた。


そう、中央の席に、黒瀬あかりが座っていたからだ。


あかりの提示したExcelの配分モデルは、再配分と再構築という名の奇跡をもたらした。


●飢餓地帯だった地域にドローン配送と栄養支援の拠点が整い、

●ワクチンや医療機器の需要曲線がなだらかに落ち着き、

●かつて“不可能”とされていた温室効果ガスの協調削減が、静かに軌道に乗っている。

●そして何より、貧困率が3年連続で過去最低を更新中。



休むまもなく依頼の飛び込むあかりの予定表は、週単位で色分けされた“人類の問題カレンダー”と化している。


「こんなにも早く“人を救う”時代が来るなんて……」

専門家たちは口を揃える。


ただ、その最初のきっかけは──

男性たちが「あかりに会いたいから」だった。


* * *


シーン転換:アルプスを望む山岳リゾートの書斎。

かつて魔女たちの集会で、あかりに言葉を残したあの魔女――月館は、暖炉の前で静かに映像と紙面をめくっていた。

窓辺には、季節外れの紫の草が揺れている。

長い年月が流れても、その眼差しだけは変わらない。


テレビでは、国際会議での首脳たちの握手が映る。

ノートPCには、国際経済誌の特集記事。

傍らのテーブルには『The Economist』『Foreign Affairs』など、各国の雑誌や新聞が山のように積まれている。


「黒瀬あかり」という名が、さまざまな言語で見出しを飾っていた。


ある記事は、貧困率と医療支援の劇的改善を。

あるレポートは、国家間の協調と再分配の新潮流を。

ある評論は、“民間出身の若き女性”が世界をどう変えたかを。


どのメディアも“なぜ”までは語れない。

ただ、あの会議の場に黒瀬あかりがいた──それだけは、共通していた。


「……かつて“傾国の魔女”は、恋に呑まれ、情熱で世界を沈めた。

けれどこの子は、理を操り、構造で世界を浮かび上がらせた。

同じ“傾き”でも、その傾きは、滅びではなく光へ向かっている。

しかも本人は、モテてることにすら無頓着で……」


月館は、少し寂しそうに笑った。


「私の見込んだ通り、傾国を超えたわね、あかり。

あなたは、“傾界の魔女”。人類を静かに動かす新しい魔女のかたち」



暖炉の火が静かに揺れる。

そして今日も、あかりのExcelから始まる1日が、地球を少しだけマシにする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ