表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

来た

作者: マスヨーニ

 来た


 実家で犬を飼っていた。親が家を建てた時にダックスフンドも飼い始めた。そう、あの胴が長く足の短い犬だ。名前はパル、来た時は両掌に乗るくらいの大きさだった。軟式の野球ボールを噛んでも掴めない大きさだ。トイレのしつけ、お手、お代わり、待て、すぐに覚える頭のいい奴だ。家に帰ってくると、頭を下げて「撫でて撫でて」と近寄ってくる。頭をなでると、尻尾が降り切れて飛んで行ってしまうのではないかと思うくらいに振りまくり、うれションを漏らす。

 幼犬の時、フレーク状の餌に牛乳をかけ食事を作っている最中に、突然、餌袋に顔を突っ込み直接食べようとした事があった。あわてて袋から引き出すと顔がフレークまみれになり、大笑いした事もあった。少し大きくなって散歩に連れて行けば、自分の何倍もの大きさの大型犬に走って行き吠えまくる事もあった。当然ながら大型犬は振り返り「バウッ」一言低い声で大きく吠えると、「キャン」慌てて戻ってくる。無鉄砲な面もあった。

 近くの他人の畑でかくれんぼをして遊んでいたら、なかなか見つからない。どうしたものかと思っていたら、少し離れた所で4匹の野犬に囲まれて吠えまくられていた。落ちたのか身を守る為か側溝に入ったのか分からない。大変だ! 急いで走り寄り野犬の首やお腹を狙い蹴散らした。パルを抱き上げたら震えていた。自分の足もがくがくと震えていた。パルの体を調べ、どこも噛まれていないし怪我もキズもない事を確認し安心した。パルも自分も無事でよかった。自分が4匹の野犬と戦うなんてその時まで思いもしなかった。誰かを守る為に自然と勇気が出る事を、その時に知った。

 家でたこ焼きを作っていたら、横で見上げているパルと目が合った。「これは餌じゃないよ」と無視して作っていたら、一個がはずみでパルの目の前に落ちた。すかさず飛びつき口に入れるが、パフっと熱くてすぐに吐き出す。「ワン!」熱いじゃないかと訴えるような目をしている。仕方がないから「待て」手に取り目の前でフーフーして冷ました。まだかまだかとお座りをして、たこ焼きをじっと見ている。「はい」手を突き出すと尻尾を振り振りこっちを見ながら美味しそうに食べた。ただしつけが甘かったのか、食卓の上からつまみ食いする癖があり、叱ってもなかなか止めなかった。

 仕事をするようになり散歩に連れて行かなくなったら、散歩に行く頻度が下がったせいか、家族の短い距離の散歩になったせいか、お腹が床に付くほど太ってしまった。パルは散歩に行くのも嫌がるようになった。最後はほとんど動かない。会社の同期と旅行に行く前日、パルはソファで横になり生き苦しそうにお腹で呼吸している。元気な時の様に目はぱっちりと開いておらずうつろな目をしている。耳は聞こえているのだろうか。おいおい大丈夫か、声を掛けながら体を撫でてあげると力なさそうに尻尾を振る。口がカラカラになっていたから、水に浸したタオルを持って来た。反対側から水が流れ落ちない様に手を添え、軽くタオル絞り口の中へ水を垂らしてあげた。舌を動かし水を飲んでいる。よかった。突然尻尾を強く振りだした。そんな事で体力を使わなくていいからとタオルを絞る手を止め、尻尾の動きを止めようとした。尻尾を振る力が手をグングン押し返す。思わず涙が出て来た。思ったより沢山水を飲んだ。会社の同期で軽井沢に借りたコテージでは、男女で分かれて部屋を使うが、男は仕切りのふすまを開けてはいけないルールだ。夕食もパーティ終わりのんびりとしていた頃、突然ふすまの角からガリガリガタガタと音が鳴りだした。女性陣は台所の後片付けでワイワイと全員の話声が聞こえる。何? 誰? 時刻は1時頃だ。男どもは全員顔を見合わせた。地震? 幽霊? まさか。しばらくして音は消えた。女性陣には部屋の隅で何をしていたかは、怖がるから聞けない。旅行から帰り、玄関でしばらくじっとしていた。何をしているんだろうと我に返った。パルが今朝旅だったよと、親から聞いた。じっとしていたのはパルを待っていたのだった。6時頃朝のトイレに出した後なかなか帰って来ず見に行ったら、庭の隅で門の方を向いて旅立ったそうだ。そう言えばあのガリガリガタガタの音は、パルが部屋に入る時のふすまやドアをこじ開ける音に似ていた。霊感は持ち合わせていないが生前霊だったのかもしれない。最後の挨拶に来たのかもしれない。


 実家では野良猫も飼っていた。1匹目は弟が仕事先の近くで拾ってきた、おでこに大きなこぶのようになった傷がある子猫だ。2匹目は野良猫が居着いたようだ。名前はどちらもチィ。どちらも白黒のトラ柄の猫である。なぜ同じ名前を付けるのか親のセンスが理解できない。おばあちゃんちのスピッツも世代が変わっても同じ名前だった。同時に同じ名前が存在しないから不都合ではないが、なんか違うと思う。

 どちらの猫も名前を呼ぶと「にゃ~」と返事をしながらスリスリ寄って来ていた。足首に顔をこすりつけてくる。寝る時に掛布団の内側を足先でこすると、耳を立て匍匐前進しながら近づいてくる。そのまま続けると、布団の中に突進して足首をひっかくから、足を広げ反対側の足で同じ事をして遊ぶ。右に行ったり左に行ったり、そのうちに私は寝てしまうが、猫は夜行性である。夜中に走り回り布団の上を駆け抜けていく。タンスの上から布団の上へダイブして走り去る。人間など存在していないかのようだ。その度に起こされる。朝方、気が付くと布団の上の足首のあたりで丸まって寝ている。寝顔を見ると夜中の一人運動会の睡眠妨害を許してしまう。朝、寝ていると頬をつんつんと肉球でつついてくる。なぜ起こしに来るのか分からない。猫は服を着て抱き上げると爪を立て服に引っ掛ける。夏など裸で抱きあげると爪を立てない。肉球がひんやりと気持ちいい。

 親は壁に穴をあけ猫用の出入り口を作った。正月に実家に帰ると、夜中に玄関で「にゃ~」 締めきったドアの前で「にゃ~」開けてくれと催促してくる。面倒くさい奴である。昼間の様に猫ドアを使ってくれ。人間は猫の召使いではない。わがままな奴だ。

 同じ猫でも性格がかなり違う。初代は座っている時に膝をポンポンと叩くと、遠くにいても走ってきて膝に飛び乗る。体をなでてもらうのが好きで、撫でている間はずっと尻尾を振っている。かなり甘えん坊だった。2代目は小さい頃帰宅すると、足首に噛みついてくる。甘噛みよりは少し強い。これでは足首が痛いし傷だらけになり、たまった物ではない。噛む度に「ダメ」と言いながら、頭を床に押し付けるようにした。何度か繰り返しているうちに噛まなくなった。なかなか聞き分けのいい猫である。しかし抱かせてはくれない。抱き上げるととても嫌がるのだ。手を緩めるとすぐに飛び降りる。しかしTVや本を読んでいると、部屋に入ってきてぎりぎり手の届かない距離まで近づきそこで丸くなる。もちろん一歩使づいて体をなでるのは許しているが、長くは撫でさせてはくれない。長く撫でていると、手に猫パンチをしてくる。なかなか気難しい性格であった。


 親は高齢だから実家でペットはもう飼えない。私はペット禁止のマンションだから飼えない。散歩しているペットやCMの猫はいやされる。ついつい目で追ってしまう。

 夜寝ている時に、寝返りをしようとすると足元に重みを感じる時がある。また来た。足元にいる。消えないように寝返りを打つのをやめる。今日はパルかな、チィかな。両方の時もある。重みを感じながらにんまり。きっと何度も寝返りを打つうちに布団が団子状になっているだけだと思うが、そんな事はどうでもいい。何年かに一度の幸せなまどろみである。


 昨日より素敵な明日に出来ますように


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ