『黄金のプレスマンと一目千両』
奥州は、金の産地であったから、黄金製のプレスマンというものがあった。ある男が、黄金製のプレスマンをあり金はたいて仕入れて、江戸まで売りに来て、三千両をかせぎ出した。そのころ、世の中で一番美しい女が江戸にいて、一目見るのに千両かかるということだった。男は、一目千両で女を見せてくれる店を探し出し、千両払うと、座敷に通され、次の間との間にある障子が開いて、一瞬だけ女を見ることができた。確かに美しかったが、何かちょっと、不完全燃焼感があったので、もう千両払って、もう一瞬、見た…つもりだったが、うっかりまばたきをしてしまい、ほとんど見られなかった。男は、勢いづいてしまい、もう千両払って、もう一瞬女を見た。三度目に見た女は、少しほほ笑んで見えた。世の中で一番美しいという触れ込みは、決してうそではなかったが、三千両も払ってしまったことが正しくなかったと思い直して、呆然としていると、次の間にいた女が、座敷にやってきて、千両払って一度見て、腹を立てて帰る者がほとんど、もう千両払ってもう一度見る者はまずいない。ところが、お前様は、三千両払って三度見てくれた。何をそんなに呆然としていらっしゃるのか、と尋ねるので、男が、商売のかせぎをみんな吐き出してしまって、帰る路銀もない、それで呆然としているのだ、と答えると、女はにっこり笑って、では、もう、きょうでこの商売はしまいにするので、これまでのかせぎを持ってお前様の女房になるから、一緒に連れていってくれと言うので、翌朝、女の金で江戸の普通のプレスマンを買えるだけ買って、奥州に戻り、プレスマン屋を開いたが、奥州では生涯に五十両もかせげなかった。
教訓:女房の財産が、何十万両とあったので、全く困らなかったという。