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密なる談合

「なんっ、いや お前やっぱり覚えて……!」

「リフェンス、病院ではお静かに」


 スケッチブックに書かれた文言を見て腰を浮かせた親友に注意すれば、気まずそうに首を掻きながら椅子に座る。

 怒られる、もしくは詰め寄られるのかと。その様子を見て、胸元に手を寄せたシャリアはホッと息を吐いた。


 さて、あの状況では忘れているだろうとタカを括っていたが。ある意味やはりと言うべきか、軽率だった夜叉への変身はバッチリ見られていたようだ。

 思い返せば変身する直前まで問答は出来ていたし、本当に気絶していたか確認しなかったオレが悪いか。

 リフェンスとの関係性もバレたし、どうにか内緒にしてもらうようにお願いしないと……しかし、だとしても解せない。


 “貴方は夜叉なの?”

 “いえ、そうでなくても気をつけて”

 “アストライアが、貴方を調べてる”


 改めて見直したスケッチブックの内容は、まるで警告文だ。

 どちらかといえば夜叉というよりは、オレについてアストライアが行動を起こしていると、そう思わせる文が並んでいる。

 夜叉=オレという図式が成り立っている訳ではないように見える。……“天宮司アキト”という存在に、目を付けている理由があるのか?


 加えて、しきりに病室の一点を気にするような仕草。

 そこにあるのはオレ達以外にシャリアの見舞いに来た誰かが、持ってきたと見られるクマのぬいぐるみ。

 持ち主が抱きかかえるのを待つように、テーブルに座る何の変哲もないぬいぐるみへ、シャリアは何度も視線を向けていた。


「……なるほど」


 事情は分からないが、質問する必要がありそうだ。


「シャリア、オレも何か描いてみたいんだ。鉛筆を貸してくれないか?」

「……? っ!? わかった。はい、これ」


 意図を察してくれたのだろう。

 差し出された黒の色鉛筆を受け取り、さらりさらりと書いてリフェンスに見せてから、シャリアにスケッチブックごと返す。


「せっかくだし、絵しりとりでもしようか。手番はオレ、シャリア、リフェンスの順番で……焦らずゆっくり考えていい」

【君の疑問は当たっている。その上で問いたいが……声を聞かれてる可能性があるんだろう? これなら誤魔化せるはずだ。日本語が難しいなら、異世界の文字でもいい。リフェンスが書き直してくれるから、そのまま渡して】


 今までに抱いた違和感。恐れや不安がもたらす“もしも”の例えが真実であっても、これなら問題は無い。

 新たに追加した文章を読み終えたのだろう。シャリアは、おもむろに顔を上げて力強く頷いた。


「……ったく。まっ、どんな難題でもいいぜ。完璧に返してやるよ!」


 最初は面食らっていたリフェンスも細く息を吐き、いつものお調子者な表情で親指を上げる。そうして──言葉を介さない密談は始まった。

 事の違和感は、病室にやってきたアストライア職員とのやり取りから。

 シャリアの容態と地球にやってきた経緯、加えて今後の進路についての相談など。クマのぬいぐるみを始めとして、様々な見舞い品を持ってきた男性。


 始めは親切心や不安を感じさせないように、と配慮しての行動だと思った。

 しかし、彼は事あるごとにクマのぬいぐるみに触れては設置し直したり、極めつけにはやたらとオレについて聞き出そうとしていたらしい。


 何の話か分からず、曖昧な返答でも男性は納得してくれてはいたが、シャリアの心に不審を抱かせるに十分だった。

 そうして誰もいない時間にぬいぐるみを調べたところ……精密に、巧妙に隠された、魔法術式の刻印を発見。

 魔法関連に知識がなければ、盗聴の物だと気づけなかった。(つたな)くも親の教えが功を奏した瞬間であったのだという。


【盗聴魔法は隠蔽魔法と同等の難易度を誇るシロモノだ。隠密性と内包する魔力の少なさが両立してるせいで、熟練の魔法使いでも察知するのが難しい。特に地球人が気づくのは無理だろう】


 しりとりで悩むフリをしながら、リフェンスはクマのぬいぐるみを観察。

 おもむろに舌打ちし、ぬいぐるみを定位置へ。それからこんなもんだろ、と回してきたスケッチブックに目を通す。


【……反面、エンチャントの類に近いからか、魔力媒体と複数文の特殊な術式構成さえ理解できていれば、地球人でもネイバーでも仕掛けられる。その男がやったか、依頼したかにしろ……たかが女の子に何をやってんだか】

「なるほどね。そういう感じか」


 呆れ気味の文章を読み、考え込む。

 アストライアの誰かがシャリアを通してオレを調べてるのは確定らしい。となると、オレらがアスクレピアに来た事を知られているかもしれないな。

 とにかく、強硬手段に出られる前に、対策は練っておくべきだ。


「これ……これであってるか? 果物だよな、たぶん」

【シャリアは変わらず、夜叉にもオレについても無知を貫いてほしい。変に事を荒立てれば、酷い手を使うかもしれない】


 誤魔化しの言葉と、シャリアの境遇を考慮した文面に、彼女は肩を震わせる。


【そうならない為にも、手早く疑いを解消させた方がいい。──直接、オレがその男と話す。だから調査してる人の名前とか特徴は分かるか? 君との面会が終わった後、アスクレピアを探してみる】

「えっと、うん、大丈夫。伝わってるよ」


 どういった要因で、何が原因で。

 不明な点ばかりだが、こうなったら面と向かって対応するしかない。

 天下のアストライア、しかもアスクレピアで下手なマネはしないと予想して、こちらから打って出る。

 何かロクでもない事しようとしてんな……的な目線をリフェンスが向けてきて、紙面を眺めて深くため息を吐いた。


【このままじゃ進展が無いのは間違いないが……止めても仕方ねぇか。ただし、バッグの中身は探られるなよ? 大事なモンが入ってんだから】


 少しして回されたスケッチブックには警戒を(うなが)す一文。

 レイゲンドライバーを、リクの存在をアストライアに見られてはならない。

 常から気に掛けている事柄に頷き、シャリアが記してくれた男の名前を読もうとして──ピンボーンッ、と。

 不意に、病室のインターホンが鳴った。思わず、スケッチブックから顔を上げて、扉の方に視線を向ける。


『失礼、本郷だ。定期回診に当たっていた看護師に代わってきたのだが、入ってもいいか?』

「き、きた。この人だよっ……!」

「本郷だと……? まさか」


 突然に病室へ入り込んだ声の主が告げた名。

 マシロさんやニューエイジ関連の資料でたびたび見聞きして、この間の総合病院で起きた騒動でも少しだけ見かけた人物。


「探す手間が省けたな……シャリア、応えてやって」

「い、いいの?」

「大丈夫。なんとかする」

「……分かった。どうぞ!」


 リフェンスが目を細め、鋭く扉を睨むのを手で制して。

 インターホン越しに了承の返事を得た事で扉が開き、姿を現したのは。


「おや、君達は……」

「初めまして、じゃないですね。こないだ病院でマヨイ先生達と一緒にいるのを見ました。オレは天宮司アキト、こっちは友達のリフェンスです」


 アストライアにおける武装開発、及び生体研究者の権威。

 新型パワードスーツ“フレスベルグ”によって構成された小規模戦闘部隊、ニューエイジの総指揮官。

 そしてゲート・インベーダー災害の黎明期にヤシャリクを生み出した張本人。

 本郷タカシ博士は、先に名を告げたオレを見て、わずかに目を見開いた。

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