出会いの裏で
「ひとまず形にはなり、残すは実証実験のみか……」
アスクレピアの研究施設にて。
怪人化したネビュラス構成員の治療用機器である吸収装置。幾何学的な紋様を表面に走らせる、小型のパラボナアンテナのような機材を前にして本郷博士は呟く。
その傍らでは性能調節と組み立てに尽力していたマシロがおり、疲れた身体をほぐすように背筋を伸ばす。
「うーんっ、久しぶりに歯ごたえのある仕事したなぁ~! 後はアストライアの方に任せていいんですよね?」
「うむ。これから実際に怪人化の後遺症を持つ構成員を配置し、人体からインベーダーの構成要素を吸い出し、分離させる。設計通りなら、全身が結晶化したインベーダーが出現するだろう」
「いつも夜叉が破壊してるアレですよね?」
「そうだ。夜叉は吸収能力で顕現させたのち、すぐさま破壊する為、経過観察など悠長な事は言っていられなかった。だが、この装置なら中断するか続行するかの判断が付けられる」
しかし人体の保護、インベーダーを構成する要素の破壊。
アストライアとして、すべてが未知の挑戦。夜叉のようにスムーズに事が進むとは考えにくい。
「不測の事態、ありとあらゆる危険性を考慮してニューエイジほか戦闘部隊を要所に置いての実験となる。参加者は私を中心とした少数の研究者達で実行する。協力してくれたマシロ君には申し訳ないが……」
「ダイジョブですよ。ただでさえ部外者なのにアストライアの機密、中枢に近づいてるのは事実ですし、上層部から睨まれそうだし。下手に人を巻き込みたくないんでしょう?」
「……すまない。夜叉のアクトチェイサー窃盗に続き、精神的な負担を掛けてばかりだというのに。後日、改めて礼をさせてくれ」
「これも仕事ですんで。それじゃ、お先に失礼しま~す!」
憔悴した他の研究者と比べて、明朗快活に。
ポケットから取り出したマギアブルをご機嫌な様子で見つめたまま、マシロは実験室を去っていった。
「一応、彼女も私達と同じ作業量と休憩時間で働いていたはずだが、あまりにも元気過ぎないか?」
「普段の徹夜作業の方が神経を酷使する、って言ってましたよ。それに比べたら新装置の開発なんて楽勝、とも」
「強いな、彼女は……」
年齢ゆえか、あるいは慣れの問題か。
本郷博士を含めた研究室の人員は目の下に隈を作り、どこか影があるというのに。そんな様子が一切見られなかったマシロへ羨望の情を抱く。
もっとも、マシロにとっては夜叉の整備と改造に役立つかもしれない! と。
自身の立場を利用してアダムスの研究資料およびノウハウを手に入れ、ポラリスのガレージにあるサーバーへデータを送信していたり。
ついでにお遊び感覚でアストライアのサーバーに無断侵入し、ネビュラスの情報を抜き取っていたり。
アストライアの統括AIたるロゴスの演算能力──リクと同等の性能を借りて、夜叉の新たな戦闘形態データを作り、秘密裏に送っていたり。
バレたら一発でお縄になるのは間違いないにもかかわらず、周囲の環境と己の才を全て利用して、公私を満たしていたのがマシロだ。
その充実さたるや、仕事の疲労感など微塵も抱かせず。
更に外部協力による業務形態という形にある為、残業を許さない休憩時間や睡眠時間が入り込んだ。
結果として、精根満ち足りたベストコンディションを維持させる事となった。故にこその言動であり、態度なのだ。
それを勘違いした本郷博士の気遣いは、まさに空回りの極みであった。
「……事を急いては仕損じる、か。ここ最近、満足に体を休められていないからな。少しばかり休んでから、吸収装置の実験に移るか」
そんな事実を露とも知らない本郷博士は、マシロの様相に納得し、室内にいる全員へ休息を取るように告げた。
各々が安堵したり、諸手を上げて喜ぶ様子を見渡し……自身のマギアブルが振動した事に気づく。
ポケットから取り出し、画面を覗けばニューエイジのグループメッセージに新着アイコンが付いていた。
内容は、天宮司アキトがアスクレピアに来訪している旨だ。マギアブルを握る手が、思わず強張る。
件の少女へ見舞いと面会の為に訪れたようだが、本郷博士にとっては直接アキトに無理なく接触できる、またとない機会だ。逃す手はない。
最高傑作と称された理由、生まれの秘密、経歴の確認。限られた時間の中で、本人の口から聞き出したいところだ。
──最悪、吸収装置の実験は私の代わりにニューエイジと研究者に任せ、彼との面談を優先するか。
研究畑の人間として間違った判断だが、アストライア内でアキトへの疑念を持つのは本郷博士とニューエイジのみ。
今後のネビュラスの動向に関与してくるなら、見逃せない。
意気揚々と仮眠室や談話室へ向かう人波に混じり、すぐさま行動を起こさねばと瞳を鋭くさせるのだった。




