少女との再会
以前、諸事情で病院を抜け出した白髪の少女。
名も聞けないまま、しかしネビュラスの策謀によって、半狂乱した様子の彼女をアキトは夜叉として助けた。
その日から、五日が経過した現在。
救助に関わった面子としてリフェンス、イリーナ──ヴィニアは急な仕事が入ったため欠席──を伴って。
そして“何が起きるか分からんのだから連れていけ”と駄々をこねた、レイゲンドライバー状態になったリク、見舞いの品をバックに詰めて。
三人はパフア校が午前終わりである事を利用し、放課後に最寄り駅の魔導トラムへ乗り込み、目的地を目指していた。
「アストライアの医療施設“アスクレピア”。学園島の総合病院とは別に、一区画を専用の建造物・設備で整えている施設。対ゲート災害およびインベーダー被害に遭った者の治療・療養を目的としている、か」
「総合病院より専門的で、より特化してる訳だ。よほどの事情でもなければ世話になる事はねぇがな。後は……異世界関連の犯罪に手を染めた連中の厚生施設も兼ねてるんだっけか」
車窓を流れていく、各区画の街並みを横目に。
イリーナから渡されたパンフレットを片手に流し見ながら、アキトとリフェンスはアスクレピアへの理解を深めていた。
「やらかした連中が放り込まれた建物は区画の奥まった場所だ。厳重な態勢を取っているし、私達が出向くのは一般病棟。何のゆかりもありはせん……が、迂闊な発言に過敏な反応を見せる者がいるはずだ。犯罪者だろうと療養者だろうとな、気を付けろよ」
「はい、分かりました」
「件の少女も本来はアスクレピアの預かり予定だったんすよね?」
事前に共有された情報を忘れないように。
リフェンスは降車口の近くで背を預けるイリーナに問い、彼女は頷く。
「前にホーネッツとクイーン、デュラハンライダーが出現した事があっただろう? その時、ゲート発生に巻き込まれ地球に流出してしまったそうだ。しかし当時はそういった事情を当人の口から語れる状況にあらず、怪我の容態もインベーダー由来のものはなかった為、総合病院に搬送されたのだ」
「という事は、あの子ネイバーなんですね」
「きちぃな。頼れる身内もいねぇのに、一人で地球側に来ちまったなんて」
「だが、悪い事は連続して起こるものだ」
自身も体験してきたが故の厭世的な表情を浮かべ、イリーナは降車ボタンに手を掛けた。
「彼女の故郷は異世界側の山村であったようだ。しかし、クイーンの軍団どもが押し寄せ、横入りでデュラハンライダーも襲撃。後にアライアンスが出向いて調査したところ、村は焼かれ、人は死に、壊滅状態……付近に生命体の反応は無く、生存者は彼女のみという話らしい」
「……唯一の生き残り、か。そんな事情があったってんなら、アキトが言ってた通り錯乱してたのも無理ねぇわな」
夜叉として、手の届かない場所で引き起こされた悲劇。
地球にとっても、異世界にとっても。普遍的でやるせない末路。平穏と安寧を容赦なく奪い尽くす侵略者の魔の手は、到底防ぎ切れるものではない。
「……知らずに、無責任なこと言っちまったな」
『アスクレピア第一停車駅で降りる方は、降車ボタンを押してください。繰り返します、アスクレピア第一停車駅で──』
アキトはかつての少女に思いを馳せ、誰にも聞かれないよう独り言ちて。
目的地に近づいて流れ出した自動アナウンスに応じ、降車ボタンを押したイリーナの後に続いて魔導トラムを降りる。
神話の神になぞらえた施設は、総合病院に負けず劣らずの設備が整っていた。
駅舎はアスクレピアの敷地内に点在しており、アキト達が降りた付近にはコンビニや花屋といった様々な店舗が置かれている。
道行く人々はそこで見舞い品を購入し、アスクレピアの病棟へ足を運ぶ。その人波に混じり、アキト達も目当ての病棟へ向かう。
リハビリ用の設備や、それに励む患者の姿。付き添いの家族や看護師、巡回するアストライアの警備隊など。
総合病院に比べてどこか物々しい雰囲気を肌で感じながら、イリーナ先導のもと【アスクレピア第一病棟】と銘打たれた建物に入る。
清廉で潔白な印象を抱かせるエントランスホールを進み、総合受付で訪問した理由を明かす。
対応した職員が差し出した来院者用のネームカードをそれぞれ身に着けて、少女が待つ病室へ。
アスクレピアの雰囲気に呑まれたように、無言のまま歩いて。
辿り着いた、一人用病室の横に備え付けられた機械。インターホンを兼ねたそれに、イリーナはネームカードをかざし、用件を伝える。
室内にいる者の声が応え、開いた自動ドアの先で。
入り込む風で柔らかくたわむカーテン。誰かが持ち込んできたであろう花の香りと、混じった消毒液の匂いがアキト達を出迎える。
そして。
「えっと、初めまして……じゃないや。お久しぶり、です……?」
助けた当初と比べ、いくらか落ち着きを取り戻した少女と邂逅する。




