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不意の提案

 勉強会を終え、何度かマギアブルを行使した魔法の練習を繰り返して数日後。

 ゲートやインベーダーの出現も無く、パフア校での日程を過ごし、期間中におこなわれた魔法実技テストも無事に終了した。

 放課後になり、ホームルーム中に返却されたテストの答案用紙を片手に。

 記載された点数を見て顔を輝かせる者、曇らせる者、この世の終わりとでも言いたげな顔で教室を出ていく生徒が後を絶たない。

 地球人はともかくネイバーの顔色が良くない……種族別で赤点ラインが定められているから、めちゃくちゃ厳しかったんだろうな。


「うーん、毎度恒例の光景とはいえ凄惨だな。アキト、結果は?」


 一喜一憂の感情が渦巻く教室を眺めつつ、リフェンスが机に寄ってきた。


「九十三点。実技は良かったとしても、使用した魔法の術式記述問題でダメだった。法令問題は完璧だったのに、速度と実際の効果の部分を間違えたな……ニアミスだ。リフェンスは?」

「一〇〇点。これぐらいじゃ赤点は取らん」

「さすがじゃん」


 得意げなリフェンスは答案用紙をヒラヒラと揺らし、口角を上げる。

 実際、彼のみならず、元来魔法を得手とするエルフ族や魔族、妖精族は問題なく高得点をキープし補習を(まぬが)れているようだ。


「とりあえず、お互い普段の生活を拘束されるような事態にはならなかったって訳だ。これで心置きなく遊べるな!」

「勉強以外に何もしてなかったし、今日くらいダラけてもいいか」

「おうおう、肩の力を抜こうぜ。そうだ、ポラリス行こうぜ? こないだ貰ったデータの中身、まだよく見てないんだろ」


 リフェンスが言うのは、ヤシャリクの新しい形態変化についてだ。

 先日の勉強会でアストライアがまとめた情報に関しては把握した。怪人化薬の詳細、ネビュラスの目的、指名手配された男“志島カリヤ”。


 人類の改革と称して精製した怪人化薬のデメリットは、完全に消せるものではない。土台、人類とインベーダーは相容れないのだ。

 どれだけ洗練し、練磨されようともインベーダーの血肉と細胞は種族問わず人体に悪影響をもたらす。


 世に出回る加工品のほとんども、厳正な安全規格を通した上で使われている。

 たとえ地球・ネイバーの技術を収斂(しゅうれん)し、活用したとしても、取り扱いを間違えれば害となるのだ。決して、人類を新たな境地へ至らせるものではない。


 無辜の命を脅かし、死を振り撒き、至らしめるネビュラスの存在を許してはならない、と改めて決意を抱いた裏で。

 リクのダウンロードが終わるまで放置していた形態変化の詳細には、ずっと触れていなかったのだ。


「落ち着いた場所で確認しようぜ。ついでに──マヨイ先生が妙にお前を気に掛けてる事も、推理した方がいいだろ」

「ああ……そうだな」


 教壇の近くで、職員室に戻らずイリーナ先生と話している彼女へ視線を移す。

 勉強会をおこなった日からずっと、マヨイ先生だけでなくニューエイジ達の様子がおかしかった。

 以前からよく話しかけられはしたが、その視線が怪しい物を見るかのように細められていた。気づかれないようにか、態度もソワソワしていて変だったし。


「オレ、なんかしたっけな? 特に悪い事した覚えは無いんだけど」

「うーん……そういや、女の子を助けた時に変身したって言わなかったか?」


 肩を組まれ、誰にも聞かれないように小声で話し合う。


「したけど、それがなに?」

「あの廃ビルは撤去作業に入ったおかげで、戦闘の証拠は残っちゃいない。だが、あの時の少女が虚ろな意識の中で“夜叉に助けられた”……そんな記憶が残っていたとしたら。もし目を覚まして、質疑応答中にポロッと溢しちまったら」

「……オレと夜叉が結び付くかはともかく、直近にいたオレが何か情報を持ってるかもしれない。そう思ってるのか?」

「ありえない話じゃねぇだろ。個人的に親交があろうと、迂闊に話題を振っていいかも分からないんだからな」


 リフェンスの仮説には納得できる部分が多い。

 元々ニューエイジとして活動する(かたわ)ら、教育実習生としてパフア校に籍を置いているのがマヨイ先生達だ。

 その目的はアストライア内でプロファイリングした情報から、夜叉の正体がパフア校の人間である事が高い為に潜入捜査している。それが実態だ。


 もしかしたら目の前にいるし生徒が、何食わぬ顔をしている教師が夜叉かもしれない。変に違和感のある行動を見せれば警戒されるし、実習生としての立場も怪しまれる。

 事実、夜叉の正体が初等部高学年の生徒であって、確信は得られない。

 最初の一歩を、軽々しく踏み出す訳にはいかないのだ。


「結構、的を得てるとは思う。これ以上、妙な勘繰りをされるのも、微妙な空気に揉まれるのも嫌だし……上手いこと誤魔化す必要があるかも」

「となれば、先手を打つべきだぜ」


 先手? と首を傾げるよりも早く。

 自信たっぷりにリフェンスは笑いながら、体を掴まれ席を立たせられる。

 そのままされるがままに、雑談するイリーナ先生の元へ連れてかれた。


「イリーナ先生、前に貰ったプリシラのCD最高だったぜ! 今まで聞かなかったのが損だと思ったくらいには! 他にもなんかオススメないっすか?」

「ほう、存外ハマっているようだな。お前もか、天宮司?」

「えっと、はい。勉強の合間とかにかなり聞いてます」

「そうかそうか、気に入ってくれたようで何よりだ! ファンの一人として布教した甲斐があったというものだ。お前達さえ良ければ、今度は私が厳選したセットリストのアルバムを持ってくるぞ!」


 会話に割り込んだにもかかわらず、イリーナ先生は快く反応してくれる。今まで見た事がないほどに輝いた笑顔で。

 オレの中で先生の印象ががらりと変わったなぁ。


「あざっす、楽しみに待ってます! ちなみになんすけど、前に俺らが探して連れてった女の子ってどうなったんすか?」

「ああ、その件でちょうど話が来ていたんだ」


 イリーナ先生は傍にいたマヨイ先生と顔を合わせ、頷き合う。

 コイツ話題の振り方うまっ……しれっと探りやがった。


「彼女は少し前に目を覚ましたようでな。療養は必要だが、意識ははっきりしていて受け答えも出来る。その上で、天宮司達に助けてもらった事を感謝したいと面会を求めているようだ。場所はアストライアの医療施設。近日の放課後、時間さえ合えば私が連れていくが、どうだ?」

「へー……貰えるモンは害あるモノ以外貰う主義だぜ。アキトも行こうぜ! どうせ暇だろ?」

「失礼だな、お前。まあ、関わった側として挨拶ぐらいはしておきたいかも」

「であれば、決まりだな。私の方から施設へそのように連絡しよう」

「お願いしまっす! そうだ、お見舞いの品とか持ってった方がいいっすよね? 花……よりは果物とか食いモンの方が嬉しいか?」

「心配するな、私の方で用意しておく。お前達は着の身着のままでいい」

「分かりました。……マヨイ先生達も来るんですか?」


 リフェンスにだけ苦労はさせまいと、こちらの方でも尋ねてみる。

 マヨイ先生はほんの一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに取り繕った。


「いえ、捜索に参加はしましたが実際に助けて、求められたのは貴方達ですからね。それに、一度に大勢で押しかけるのも負担になりますし、またの機会にします」

「そうですか」


 ……あんまり上手くいかなかったような気がする。

 でも話を聞いた感じ、あの子との面会で進展があるようにも思えた。マヨイ先生達がオレに何を思っているのか、分かるかもしれない。

 とはいえ、アストライアの本拠施設へ向かう事になるなんて……おかしな発言をしないように気を付けないとな。

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