変わらぬ立場
新年あけましておめでとうございます。
年末年始は仕事が入って大変でしたが、今日から更新再開するので、どうかよろしくお願いします。
もはや恒例行事である、休日を利用した勉強会。最近は夜叉のアジトであり、喫茶店“ポラリス”で行われていた催しだ。
しかし店主たるマシロさんの本業──大手車両メーカー“逆波モーターズ”の一人としての仕事や依頼が舞い込んできた。設計や開発、整備に至るまで熟知する彼女の手を欲しがる者は非常に多いと聞く。
夜叉陣営のエンジニア、情報収集担当という立場。
個人活動の幅を広げて様々な分野に手を染めてはいるものの、本業を疎かにしては本末転倒。
苦渋の、それこそテレビ通話越しに見せられた歪んだ表情。
そこからポラリスの臨時休店を絞り出すように告げられた為、以前のようにオレの部屋でペンを走らせていたのだ。
「地球人はマギアブルの使用が許可されてる……でもシールド、身体強化はともかく攻撃魔法とかムズイでしょ。魔道具扱いでカドゥケウス使っちゃダメかな?」
「動力源のヤシャリクと殺生石にリンクさせてっから、変身しないで使ってもタダの棒きれでしかねぇぞ」
「どうしてそんなことを」
『安全面の問題』
一考の余地もなく提案を切り捨てられ、術式構成の解答用紙に突っ伏す。
「いやぁ無理だろ……マギアブルの簡易魔法起動から照準、弾道、弾速、発射角度の補正を口頭で入力して撃つ? 何を言ってる?」
『まあ、愚痴りたくなる気持ちは分かるがのぉ』
「だから必要な術式を暗記させてんだろうが。もう少し頑張れ」
「もっとこう、楽な方法ないの? 一瞬で術式を覚えられる魔法とか」
「あるにはあるが、時間経過で記憶からさっぱり消えるし脳に負担がかかる。つーか地球人のお前に効果が出るのは身体強化ぐらいだ」
「楽な道はないか……」
地球人とネイバーの身体的特徴の差異。
特に、体内に備わった魔力器官の有無は魔法分野において大きな後れを取らせている。マギアブルという情報デバイスを兼ねた外付け魔力タンクで補っていても限界はあった。
しかもリフェンスの言っている通り、地球人は元来魔力に適応していない為、効果の無い魔法もある。
よく多用するシールドは使用者の周囲に展開するタイプなので問題なし。だが、身体強化は肉体に作用するので適性が無ければ発動しない。
後は魔法によって生じた現象を認識できても、細かな機微を捉えることが不可能、と。そこを補助する為のマギアブルでもあるのだ。
故に、アナログな手法かつリアルタイムで手を加えなくてはならない。その知識と手順を頭に叩き込み続けていた。
顔を上げ、再び解答用紙に向き合い、その横でリクがカバンから書類を出す。
『マギアブルを通して魔法の汎用性、応用力、危険性を自覚する目的で実施される実技テスト。……昨今の怪人騒ぎに乗じて、自警団気取りの連中が増加しておることへの懸念、といったところかの』
「ゲート、インベーダーの出現、マギアブルの普及で緊急時の戦闘行為自体は法令で認められてる。ただ、あくまで限定的なモンだ。自衛の為とはいえ違法改造したり、アストライアで流通してるモンを非合法に入手して使ったりで、シャレにならん傷害を起こしてる奴らがいるからな」
『嘆かわしいよのぉ。自身に制御できん力を誇示して、無駄に被害を広げんとするのだからな。アキトのようにシールドで耐え忍び、避難し、アライアンス系列の武装部隊に任せればいいものを』
「むしろ“ネイバーに出来るなら地球人にだって”みたいな考えを持ってるヤツが多すぎんだよ。何の為にアライアンスと警察組織が連携してると思ってんだって話だろ」
『こないだのゲート出現では部隊に取り押さえられた者もおったのぅ』
「アイツら、アストライアの防衛活動を邪魔したとかでしょっ引かれてたな」
「書けたッ! これでどう? 魔法発動できる?」
リクとリフェンスの世間話を聞き流し、テスト用の術式構成を掲げた。
二人の目線が書面に向き、怪訝そうに眉根を寄せる。
『パッと見で異常はないが……』
「どういう内容か説明してみ?」
「マギアブルの魔力を消費して“炎の矢”を発射して“時速二〇〇キロ”で標的に飛来。そして“接触直後”に“炸裂”する……どうだ!?」
『魔力消費量は?』
「貯蔵量の三分の二。残りでシールドを二回展開できる計算だ!」
「ふむ……いいんじゃねぇか? 特に問題視されることもないだろうよ」
『後はこれを本番で言えるように覚えることじゃの』
二人からの太鼓判も頂き、ようやく納得の答えが出来た。
ああ、脳疲労がすごい。お茶請けの甘味とオレンジジュースを口に流し込み、即座に栄養補給をおこなう。
「ついでにイリーナ先生から貰ったプリシラのCDもかけちゃお」
ネイバーの結晶型蓄音機を流用して、より洗練されたディスク媒体の|CD《CrystalDisk》。
セイレーン族の世界的歌姫プリシラの歌声が記憶されたCDは、バラード調の音色に麗らかな声音を部屋に響かせ始める。
悲しげな印象とは裏腹に聞き手の心に寄り添い、手を差し伸べるような力強い歌詞が特徴の曲が染み渡っていく。
「お前、さては意外とハマってるな?」
『今まで飾りでしかなく、ホコリを被っていた再生機器を使い潰す勢いで聞いとるからのぅ。かくいう儂も気に入っておるんじゃが』
「そんなこと言ってる俺もヘビロテしてるぜ」
「「『へへへ……』」」
ものの見事にイリーナ先生のダイレクトマーケティングに乗せられたオレ達は笑い合い、勉強を終えての休憩時間に入る。
筆記用具を片付け、プリシラの曲を聞き、思い思いに過ごす中。
リフェンスが持ち込んできた漫画を読み漁るリクが不意に声を上げた。
『んお? マシロからデータが送られてきたぞ?』
「俺らのマギアブルじゃなくて、直接リクの姐さんにってことは……」
「ヤシャリクの秘匿回線を経由してか。内容は?」
『ふむ……先日に起きた総合病院での騒動に関するアストライア側の見解、ネビュラス関連──ヤシャリクの新しい形態変化の詳細情報とダウンロードじゃな』
「あの人、仕事してんじゃねぇのか? ってことはアストライア関連の業務に出張ってんのか。……どっちも気になるが、正直ナイトとメイジがある以上、何に突出させるんだ?」
「なんだろうね。どのみち神経伝達でスタイルの使い方はすぐわかるし、騒動について知りたいかな」
『うむ、ホログラムで展開するぞ』
室内の照明を消して、カーテンを閉め切る。
暗がりに沈んだ空間で、淡く光を放つリクの手によって空中に半透明のディスプレイが表示される。アストライアの報告会でまとめられた議事録のようだ。
表ではパフア校の学生として。
裏では学園島を守る夜叉として。
二重生活を続ける中で備わった思考の切り替えを駆使し、オレ達は目下最大の脅威となりつつある、ネビュラスについての情報を入手するのだった。




