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三柱の守護者

 学園島、商業区上空一〇〇メートル地点に発生した中型ゲート。不気味に漂う天災へ三つの飛翔体が向かっていた。

 体の線が浮き出るアンダースーツに、プロテクターのような装甲が各所に展開されたパワードスーツ。

 対インベーダー武装開発部兼戦闘部隊アストライアが設計した最新鋭機、フレスベルグを身に纏う三人編成の部隊ニューエイジだ。


『はー、めでたい初仕事の日だっていうのに、なーんで出てくるかなぁ! 空気読んでよ!』

『ぼやかないで、リン。偶発的なゲートの発生は、学園島じゃ珍しくもないでしょう?』

『そーだけどさー! 子ども達との大事な触れ合いの時間だよ? 任務の事もあるし、他の部隊に任せていいんじゃない?』


 その内の一人である如月真宵。

 教育実習生として初日から人気を博している彼女は、表と裏の同僚であり人族の門倉凛を諭すが、納得していないようだ。


『ゲートとインベーダーが、地球人とネイバーにとっての脅威である事実に変わりはない。守護の為、身を張ることに誇りを持つ』

『エイシャは真面目だねぇ。中等部がメインとはいえ、堅物すぎてパフアじゃ取っつきにくいとか言われるんじゃない?』

『むしろ冷めた顔で、蔑んだ目で見てほしいと懇願された。何の意味があるんだ?』

『いやー、エイシャにはちょっと早い話かなー……』


 ネイバーの中でも膨大な魔力と肉体強度を誇り、孤高の守り人と揶揄されるダークエルフのエイシャ。

 アストライアがニューエイジの一員として勧誘した彼女は、地球の環境に瞬く間に適応したが人の細かな機微に疎い。

 素朴な疑問に首を傾げるエイシャへリンは言葉を濁した。性癖について堂々と講釈を垂れるほどモラルに欠いた人物ではないのだ。


『三人とも、おしゃべりはそこまでだ。ゲートから一体のインベーダー反応が確認された、気を引き締めてくれ』


 通信機越しにやり取りを交わす最中、男性の声が響く。


『タカシ博士、近隣住民の避難は?』

『既に完了済みだ。建造物保護の結界も機能している。存分にフレスベルグの機能を発揮してくれ』

『了解しました』


 フレスベルグの設計者であり開発主任、そしてアストライア最高司令官の本郷隆。

 組織運営の手腕もさることながら、天才的な頭脳でインベーダーに対抗する武装開発も手掛け、鎮圧に出動した部隊のナビゲーターまで務める傑物だ。


『……いつも無理をさせてすまないな』

『気にしないでください。博士が開発した装備のおかげで、私たちは戦えるのですから』

『そーだよ。人類の平和を守る、可愛くて美人で愛嬌のあるニューエイジ! 希望の象徴なんだから!』

『無垢の民と自然を脅かす奴らに裁きを下す。傲慢な物言いになるが、そうでもなければ奪われる命の方が多い。殺戮を防ぐ武器を生み出した貴方は、誇っていい』

『……ありがとう。──ゲートの揺らぎを検出! インベーダー、出るぞ!』


 モニタリングしている博士の呼びかけで、目前のゲートに異変が生じる。

 煌びやかに輝く魔力反応の後に、勢いよくインベーダーが飛び出してきた。

 その全長はゲートと同程度の十五メートル。しなやかな体躯に鱗、発達した筋肉質の皮膚、長い尻尾。

 最も特徴的なのは腕部に相当する巨大な両翼。鋭利な鉤爪を携える特徴から導き出される答えは……


『飛行型インベーダー“ワイバーン”! 爪とブレス、体躯の差による距離感に気をつけてください!』

『ブレスは何の属性か分からない感じ?』

『あの見た目……森に居た頃、同胞たちと相手をした記憶がある。帯電器官から発せられる雷ブレスと、腐敗毒のブレスを吐く厄介な魔物だ。何人も、同胞たちが殺された』

『結界があるとはいえ、ブレスの発射を許せば商業区が汚染される……! 長時間の戦闘は避けて、短期決戦に持ち込んでくれ!』

『『『了解!』』』


 異世界の原生生物で中位の上澄みと言われるインベーダーだ。

 咆哮を撒き散らすワイバーンに対し、ニューエイジはフレスベルグの搭載武装。特殊波形振動ブレードを展開、連携軌道を取る。

 迂闊にブレスを吐かせないようにマヨイは顔の付近を。リンとエイシャは一撃離脱を徹底。

 フレスベルグの立体軌道を補助する思考操作型スラスター。どんな硬い装甲だろうと切り裂くブレードによって、着実にダメージを与えていった。

 歴戦の戦闘経験と知識にもとづいた戦術で、ワイバーンは瞬く間に体積を縮めていく。


『はぁああああっ!』


 翼膜を斬られ、バランスが崩れたワイバーンへ気合いの入ったマヨイの一撃が左目を抉る。

 蓄積されたダメージと視覚を失う激痛に、苦悶の咆哮を上げた。空気が揺れ、聴覚を麻痺させる。


『んーっ! フレスベルグを装備すると感覚が鋭くなるのは良いとしても、音響攻撃はキツいなぁ!』

『通信機の機能である程度、遮断はされるが貫通してくるからな……っ』

『頭が揺れる……! ワイバーンが死に際に何を仕出かすかわかりません、気をつけ──生体反応!?』


 耳を押さえるニューエイジのバイザーに、指令室からの新しい情報と博士の焦り声が送り込まれた。


『ニューエイジ、戦闘区域に逃げ遅れた住民がいるっ。救助は可能か!?』

『ええ!? 避難は済んだって話じゃないの!?』

『どうやら君たちの活躍を間近で納めるべく、メディア関係の者が潜伏していたらしい!』

『なんてことを……一瞬の栄華の為に、死にたいのか!』

『罵っている場合ではありません! 反応は、ここから南方一〇〇メート……!?』


 バイザーの情報から視線を向けたマヨイの目に飛び込んできたのは、高層ビルの屋上でカメラを構える命知らずな記者たちの姿。

 強化された視力は、フレスベルグの索敵能力を誤魔化す隠蔽装置を的確に捉えた。……インベーダーには何の意味も無い、むしろおびき寄せる音波を出す、禁制品を。

 今もなお起動中の装置に、負傷したワイバーンの首が向く。


 ──しまった……咆哮に気を取られたせいで、標的が変わった!


 マヨイが絶句から再起動するまでのわずかな時間で、ワイバーンは決死の力を振り絞り、飛行。

 隠蔽装置もとい、近くの動的目標に狙いを定め、蓄えていた器官から紫電を散らす。


『マズい……!』


 スラスターを稼働させ、全速力で追従。


『マヨイ!?』

『我らも続くぞ!』


 一瞬、遅れてリンとエイシャも後を追う。

 火事場の馬鹿力、死に追いやられた命の悪足掻きは、フレスベルグの推力ですら振り切ろうとする。

 マヨイはエネルギー保持の観点から掛けていた制限を解除し、再加速。肉体保護が弱まり、内臓を圧迫される感覚に顔をしかめながらも、記者たちの傍に着地。

 風圧で尻餅をつく彼らを横目に、ワイバーンの口腔に溜められた発射寸前のブレスを確認。

 連れて逃げるには人数が多過ぎる。フレスベルグの積載重量を超過してしまう。

 リンとエイシャはワイバーンを仕留めようと構えているが、指向性を失ったブレスは周辺に撒き散らされるだろう。結界があろうと、ここまで接近されては許容限界を超える。


 ──フレスベルグのアブソーブシールド。全力で張れば、被害は最小限で済むはず!


 人命と建物。どちらも守るにはそれしかないと瞬時に判断し、防御用属性シールドを展開。

 ハニカム構造な半透明な障壁は記者たちだけでなく、ビルの屋上全体を覆い尽くし、マヨイは来たる雷の衝撃に備えた……次の瞬間。

 コツッ……と響くはずの無い足音を聴覚が捉える。

 遅れてバイザーに反映された反応に視線を向ければ──そこに、夜叉が立っていた。

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