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変身

「お前が初めて遭遇し、接触を試みてきたアストライアの連中だったか。最近本土からやってきたってのは嘘で、実際は数か月前から学園島にいたんだな。アキトが顔を見て思い至らなかったのは、フレスベルグのせいか?」

「あの時は深夜だったし、初めてのことだらけで混乱してたのもある。……それ以降、何度か接近されたけど逃げてたし」

「なーるほどねぇ。んで、改めて聞くがどうする?」


 マヨイ先生の秘密に気づき、ヒソヒソと言葉を交わしていたリフェンスが笑みを浮かべる。


「言いたいことはわかるが……リフェンス、オレは別に好きでやってる訳じゃないんだ。必要に駆られてるだけで」

「でも、このままゲート被害の収束を待ってたら、今日は半ドンで家に帰れるか分かんねぇぞ? 現場調査の時間は取られるし、通行規制がいつ解けるかも分からん。お前の姉さん、メシ作って待ってんじゃねぇか?」

「それは……そうなんだけど」


 意地の悪い詰め方に、ため息を吐く。

 続々とシェルターに入っていく生徒の顔は、異常事態に適応してはいるものの不安や恐怖が滲んでいる。

 いくら時が進み、対抗策や予防策が確立していても、命の危機は常に隣り合わせ。力を持たず、学ぶ最中の平穏は、迫りくる脅威に容易く揺るがされる。

 その事実を見せつけてくる光景に、拳を握り締めた。


「それに商業区は居住区に隣接した区画だ。無闇にインベーダーを放置させて居住区にまで影響が及んだら事だし、さっさと終わらせれば被害は抑えられる」

「……分かった、分かったよ」


 諭すような言い分に応えて、人波の流れに踵を返す。


「言い訳は任せた」

「おう、存分に暴れてこい!」


 胸元に忍ばせていたマギアブルを片手に、人混みに紛れて走り出す。

 認識阻害、隠密魔法を簡易的に発動させ、人の目が無い学校の敷地、屋上へ向かう。

 その最中マギアブルに登録している連絡先一覧から、とある人物を選択。


「もしもし、いま起きてる?」

『んー? なんじゃあ、アキトか。そろそろ帰ってくるのかえ?』


 眠たげな女性の声がマギアブルから聞こえてきた。

 彼女はリク。一身上の都合でオレや姉さんと共に生活している人だ。


「いや、商業区でゲートが発生した。リク、オレの部屋から確認できるか?」

『おー……あるなぁ。ありゃ中型か? 儂が寝こけとる間に出てきたようじゃのう。して、学校に行っておきながら、わざわざ連絡してきたということは……儂の力が必要なのかえ?』

「野放しにしてたら昼飯に間に合わない。それに、姉さんを心配させたくないんだ」

『カカカッ! 相変わらず利己的とでも言おうか。しかし、そのエゴ……悪くない!』


 図星ではあるので、からかうような口調に言い返さず。

 階段を駆け上がって屋上の鍵を外し、扉を開く。吹き荒ぶ風と遠方に見えるゲートの位置を確認。


『そういうことならばよかろう。周りに人目はおらんな? 転移するぞ』

「ああ、頼む」


 そう言うと、マギアブルの通話が切れる。次の瞬間、左隣の空間が水あめのように湾曲し、楕円の形に変化。

 ゲートとは反する真っ白な色味の転移魔法から細い腕が伸び、次いで引き上げるように人の影が飛び出してきた。

 腰より長い黒髪に細身の体。着崩した花柄の着物に身を包み、カラン、と下駄の音を鳴らして優雅に屋上へ降り立つ。

 先ほど通話していた人物であり高等技術の転移魔法を難なく扱う、どこか人間味が希薄な女性……リク。

 怪しくも目を惹かれる姿のリクはオレの顎に手を伸ばす。しかし薄く、実体の無い肌色の手はすり抜けた。冷たい感覚が首筋を撫でる。

 だが、顔色をうかがってから満足そうに笑みを浮かべ、両腕を広げて胸を張った。その胸元には握り拳ほどに大きく、真っ赤な宝石が埋め込まれている。


『やはりシャバの空気は美味いのぅ!』

「そんな不自由な思いをさせてきたつもりはないんだけど」

『冗談じゃ、冗談。じゃがアキトの望みは叶えられ、儂の補給にも役立つ機会。まさに一石二鳥といえる状況。心が躍るというものじゃ』

「なら、早速始めよう」

『心得た』


 短く応酬を交わし、差し伸べられた手を今度は掴む。

 肉体の厚みと熱を持つ確かな感覚は、まばゆい閃光と共に硬質な物へ変化。リクの体が光の粒となって握りしめた手に集約する。

 彼女の体が再構成され、形作られたのは筆箱ほどの大きさを持つデバイス……レイゲンドライバー。

 華美とまでは言わずとも銀色を主体とした装飾。中央部にはリクの象徴であり心臓の元ともいえる真っ赤な宝石──殺生石が埋め込まれている。


「いつ見ても綺麗だよな。名前は物騒だけど」

『ふふん、褒めても力しか貸してやれんぞ?』

「充分だよ。いつも助かってる」


 レイゲンドライバーを通して伝わってくるリクの声に応えつつ、へその下辺りにセット。

 両脇から伸びるベルトによって固定化されたのを確認し、殺生石を叩く。法螺貝のような待機音楽を鳴らすドライバーから手を離し、マギアブルを構える。

 それぞれに連動した機構を持ち、二段階認証キーの役割を果たすマギアブルに特定のコードを入力。


『Get ready?』

「出来てるよ」


 マギアブルの無機質な機械音声を承認。

 流れるようにレイゲンドライバーの右側面。空白のスロット機構にマギアブルを装填。


『Warning! Warning! Warning!』


 警告音声とは裏腹にシーケンスは進み、殺生石から人型の鎧武者が生成される。

 オレより一回りは大きいがらんどうの鎧武者は、抜刀した刀の切っ先を自身の腹に当て、切腹。血の代わりに噴き出した黒いモヤ、弾けた鎧と共に体が浮かびあがる。


『Life threatening Artifact! Please stop!』


 モヤは体に貼りつきアンダーインナーと化し、その上に腕や脚、胴体や頭に鎧の各部位が装着。余剰のモヤはロングコートに、リクの趣味である赤いマフラーが首元を覆い、風に流れる。

 顔を隠す先鋭的な兜に紅のバイザーが降り、最後にがらんどうの武者が所持していた刀──フツノミタマを腰に佩く。


『Plea……ガガッ、ガ……コンプリートじゃ!』


 機械音声から、レイゲンドライバーに宿る高機能独立汎用人工知能、リクの声に切り替わる。


『さあさあ! 獲物を取られる前に、はようゲートへ向かうぞ!』

「急かすなよ」


 こうして、学園島を騒がせる謎多き人物──夜叉への転身を完了させたオレは。

 やかましいリクに背中を押されるように、屋上から跳び立った。

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