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騒動を終えて

 西部工業区から外れた場所にある、人工の山を含んだ自然公園に着地。

 索敵範囲内に人気が無いことを確認してから、レイゲンドライバーを外す。

 糸が解けるようにヤシャリクとドライバーが空間に溶けて、挿していたマギアブルが手に残る。解けた糸は徐々にリクの人間態へと変化していった。

 実体化はせず、半透明なまま浮遊し、背筋を伸ばす彼女を見上げる。


「今回は……ちょっと長引いたな。リクは平気? 疲れてない?」

『問題なし、じゃ。むしろアクトチェイサーを運転できて気分が昂っとる……! ぬっふふふふ、良い贈り物を頂いてしもうたのぅ!』

「いやマシロさんに返すけど」

『なんじゃとぉ!?』


 互いに異常が無い事を確認してから、雑談を交わしつつ公園を出る。


「というかアクトチェイサーがどうのこうのって言う前に、夜叉の正体がバレた事の方が深刻だろ。状況が終わって何をしてるかは分からないけど、話をしに行った方がいい」


 近場の道路に出て、歩きながらこれからの事を提案する。

 心当たりはまるで無いが、正体を察するような発言を漏らしてしまったかもしれない。リフェンスも既知であるような口振りだったし。

 マシロさんの言葉を信じるなら誰にも打ち明けないだろうけど……ニューエイジと博士に聴取されても不思議ではない。曲がりなりにも、夜叉に対して協力的な姿勢を取ったのだから。

 早々に、話の辻褄を合わせる算段を考えるべきだ。


『ぐぬっ……まあ、あの時は流されてしまったが、そう言われてしまうと確かに……無視はできないからなぁ』

「アクトチェイサーに関しても、その時にちゃんと話を詰めておきたい。第三工場に戻ってるかは分からないけど、行ってみよう」

『うむ。では疾く参ろうか』


 そう言ってリクは収納魔法で片付けたアクトチェイサーを再び出現させる。


「……まさか、乗ってくつもりか?」

『当たり前じゃろ! これが、最後になるやもしれんのじゃぞ!? 腹の底を揺らす振動、風を裂き、アスファルトを切りつける感覚を忘れたくないんじゃ……!』

「大げさ過ぎる」


 実体化しながら、いつもの着崩した着物を体に貼りつくような、バイク乗りの人が良く着てる黒光りした服へと再構成。

 同様にヘルメットを二つ創造し、片方をオレに渡してきた。


「ってか、乗っていったらバレるんじゃないか?」

『まあ、間違いなく捜索対象にはなるじゃろう。しかぁし、心配はご無用!』


 リクは得意げな面持ちでアクトチェイサーの計器類をイジリ始めた。

 少しして、アクトチェイサーのカラーリングに変化が生じる。赤、黒を基調とした色味から青、白へと。

 ボディの形自体に変化は無いものの、色が変わっただけでかなり印象が違う。


『先ほど車載コンピュータにデータリンクした際に情報を読み取ったんじゃよ。そしたらカラーシフト機能なるものが施されているようでの。これなら、パッと見でアクトチェイサーだとバレる事はないじゃろ』

「それなら、いいのか……?」

『しかも運転手はこの、超絶美人有能ハイテク人工知能である儂じゃ! アキトと相乗りしとったところで、さしたる疑問すら抱かれる事はない!』

「逆に悪目立ちしそうだが……まあ、疲れてるし甘えるか」


 上機嫌でアクトチェイサーに跨り、ヘルメットを被ったリクに倣い、俺もヘルメットを装着。手招きされて後ろに乗り、彼女の腹部へ両腕を回してしっかりと抱き締めた。

 衣服越しに、疑似的に構成された体の熱と心臓の音が伝わってくる。


「じゃあ、事故らないように頼むよ」

『ふふんっ、当然じゃ!』


 リクは浮ついた声音で応え、エンジンを吹かし、アクトチェイサーが発進する。

 西の空に沈みだした太陽に照らされる街中。工業区へと進む景色の変化は、夜叉の時とはまるで違う。思わず、吐息が漏れた。

 ゲート、インベーダーの被害収束に動くアストライアの部隊に救助車両。

 破損した車や建物の瓦礫を除去する為、警察の交通規制が掛けられて。

 次第に詰まりだした渋滞を回避する為に遠回りしたり、車間の隙間を巧みに避けて、オレ達は第三工場へと向かった。


 十数分ばかりの時間を掛けて到着した第三工場は、幸いにもインベーダーの被害が軽微であった為か作業員が戻ってきている。

 しかしゲート発生後、そして未だに減衰フィールドの効果が残留している為か。今日は工場を閉めて退勤の支度に入っているようだ。

 加えて機材の不調がどうとか、一週間は休みかもとか。リクは様々な憶測と事実の入り乱れた声を盗み聞き、教えてくれた。


 巻き込んで申し訳ないと思う反面、フィールド発生装置を発射したアストライアへの疑念も生まれる。

 夜叉の捕縛を目的として使用するのはまだ理解が及ぶ。でも、インベーダーに効果が薄いのは、以前の件で把握しているはずだ。

 ニューエイジの責任者……本郷博士の案にしてはおざなりに思える。

 アストライアの上層部が勝手に撃ちだしたのか? 手柄を立てようと焦って? 街中の魔力エネルギーを燃料としている機器、インフラ設備を破壊してまで?


「今はよくても、後でめっちゃ非難されそうだけどなぁ……」

『んあ? どうしたアキト、浮かない顔をして。まさか酔ったか?』

「いや、違う違う。ちょっと考え事してただけ」


 アクトチェイサーを停車して、先に降りたリクに顔を覗き込まれた。

 一旦、頭の中に浮かんでいた思考を放り捨てて、彼女の手を借りて降りる。ヘルメットを脱いで、工場で唯一開け放たれているシャッターをくぐった。

 室内を回し見れば、そこはアクトチェイサーが保管されていた場所だ。

 乱雑に置かれた資材、器具、機器に囲まれた中で。


「──待ってたよ。弟君、リクちゃん」


 組み立ての椅子に座り、悠々とした姿勢で、当然のようにいるマシロさん。

 その正面で、何故か正座させられているリフェンスという、不可思議な光景を目の当たりにした。

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