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変わらない意志で

 ホーネッツ、クイーンの姿を視認し、迫る死を実感したのか。

 恐怖に顔を滲ませた人々が我先にと足を動かす。シェルターに向けて脇目もふらず、自分の命を優先して。

 その騒動に巻き込まれたのはオレ達も例外ではなかった。


「どけ!」

「うわっ!」


 避難していく人波の最後尾にいたとはいえ、渋滞が起きていたのは事実。

 傍にいた大柄な男性に突き飛ばされる形で尻餅をつく。


「アキト!」

「っ、弟君!?」


 マシロさん、リフェンスと気づいてくれたものの人の流れに逆らえず距離が離れる。


『何をやっとるんじゃ、お主は!』


 存在を希釈化させて、人の障害を通り抜けるようにリクがやってきた。


「ごめん、リク。助か──っ!」


 実体化した手を取って立ち上がろうとした瞬間、ホーネッツの羽音が近くなっている事に気づいた。

 なかば反射的にリクを引き寄せて、ポケットからマギアブルを取り出す。

 リフェンスの魔法術式を組み込んでカスタムされたマギアブルは、内蔵された魔力を消費して真っ先に障壁を展開するように設定してある。

 空気を裂く極太の針であろうと防ぐ、強固な壁を。


「シールド!」


 嫌な風切りの音よりも早く、音声を認識したマギアブルが半透明な障壁を展開。

 オレとリクを覆う障壁は飛来したいくつもの針を弾き、逸らし、落としていく。

 轟音と共に周囲の建物、道路を粉砕し、瓦礫の山を生み出すほどの火力。建造物保護の結界すら貫通する嵐のような攻勢を防ぎ切り、立ち込める土煙と共に障壁は役目を終えて霧散した。


「弟君、リクちゃんっ!」

「オレ達は大丈夫です! そっちは!?」


 命の危機を乗り切り、跳ねる心臓を押さえながらマシロさんの心配に応える。


「アタシはリフェンス君が守ってくれたから大丈夫! でも……」

『危難は去ったが、分断されてしもうたの』

「かといって、瓦礫を撤去して合流する暇は無いな……」

「起きちまったもんは仕方ねぇ。アキト、リク! お前らはそっちで何とかシェルターまで逃げろ。俺は全員を守りながら避難する!」

「分かった。そっちも気をつけてくれ!」


 既にやるべきことを把握している以上、各々の判断で動くしかない。

 そして不幸中の幸いとして、二人で行動する口実を得られた。チャンスだ。

 ホーネッツ達の攻撃を皮切りに各地で火の手が上がる中、シェルターの反対方向に走っていく。同時に、オレ達を狙う数体のホーネッツが後を追ってきた。クイーンの指示だろう。

 獲物を誘い込んでいくように、付かず離れずの距離を維持している。他の人達が狙われるよりはマシか。

 奴らを背後に並走するリクが、周囲の索敵と電子機器へ干渉し満足げに頷いた。


『人の気配は無い。監視カメラも止めた。アストライアの目が無い、今こそが好機じゃ!』

「了解」


 こちらに伸ばされたリクの右手を掴む。

 何度も感じてきた肉体の厚みと熱。確かな感覚は光芒となり、彼女の身体は再構成され、硬質な物へと変化していく。

 形作られたのは筆箱ほどのサイズを持つデバイス──レイゲンドライバー。

 銀色を主体とした装飾にリクの心臓とも言える宝石、殺生石が埋め込まれた、彼女が持つもう一つの形。


「よし……っ!?」


 リクが変化した直後、背後に感じた嫌な感覚に従い、左へ転がる。

 少し遅れて、重苦しい音が着弾。つい先ほどまで走っていた箇所が針によって、剣山のように無残な姿へと変貌した。


「まったく、油断も隙も無いな!」


 次弾を放とうと体勢を整えるホーネッツ達を睨みながら、へその下辺りにドライバーをセット。

 両脇から伸びるベルトで固定され、次いで殺生石を叩く。

 法螺貝のような待機音楽を鳴らすドライバーから手を離し、認証キーとしての役割を果たすマギアブルにコードを入力。


『Get ready?』


 マギアブルの無機質な機械音声が流れる。

 後はドライバーに差し込むだけ。しかし、その隙を狙ってか一体のホーネッツが急接近してきた。充填され、鋭く尖った鈍色の針がこちらを向いている。

 ……避ける余裕は無い! 押し切る!


「変身!」


 レイゲンドライバーの側面。空白のスロット機構にマギアブルを装填。


『Warning! Warning! Warning!』


 警告音声と共に、殺生石から人型の鎧武者が飛び出す。

 オレより一回りは大きながらんどうの鎧武者はすれ違いざまに、接近してきたホーネッツを抜刀した刀で両断。

 そのまま円を描く動きで周囲に浮遊していたホーネッツ達を切り刻み、即座に自身の腹へ切っ先を当て、突き刺す。

 切腹、のちに血飛沫の如く噴き出した黒いモヤと弾けた鎧が体に纏わりつく。


『Life threatening Artifact! Please stop!』


 モヤは体に貼りつきインナーに。

 その上から腕や脚、胴体や頭に鎧の各部位が装着される。

 余剰のモヤはロングコートに。

 リクの趣味であり、象徴である赤いマフラーが首元を覆い、風になびく。

 顔を隠す先鋭的な兜に紅のバイザーが降り、武者が所持していた刀型の武装、フツノミタマが腰に下げられ──夜叉への変身が完了した。


『コンプリートじゃ!』


 マギアブルの機械音声に代わってリクの声がドライバーから伝わってきた。


『想定よりもインベーダーが出現するまでの時間が速い。数も無駄に多いぞ』

「アストライアの本部に近いし、すぐに戦闘部隊が来てもおかしくないと思うが……避難してる人達が心配だな。オレ達みたいに襲われるかもしれない」


 リクが集積した周辺情報がバイザーに転写される。

 マップとインベーダーを表現するいくつもの赤点。

 パワードスーツ“ヤシャリク”のパラメータに、使用可能な各種兵装のデータ。

 それらを読み込んでいると、走ってきた方向とそう変わらない位置で大きな爆発音が立て続けに轟いた。

 ……学校の実技演習で見た覚えがあるな、アレ。リフェンスがゲラゲラ笑いながら編み出してた爆砕魔法があんな感じだったはずだ。

 つまりリフェンスが暴れているということであり、ホーネッツ達に追われている証拠でもある。


「──時間が惜しい。人命優先で片付けるか」

『うむ! 疾く動くぞ、アキト!』

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