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砕かれる平穏、覚醒する意志

 早朝。いつもより清々しい心持で目を覚ましたアキトはヴィニアと共に朝食を用意。

 マヨイより貰ったメロンパンを齧るアキトの雰囲気が変わった、と。彼女は少しばかり驚いたものの、次いで喜びの笑みを浮かべた。

 リクを自室に置いて、仕事先に向かうヴィニアと別れ、パフア専門校行きの魔導トラムに乗り込んだアキトはリフェンスと言葉を交わす。

 昨日の思い詰めた表情と打って変わった様子に面食らうが、友人の喜ばしい姿を見て、彼は豪快に笑った。

 いつものように登校し、昇降口から自身の所属するクラスへ。同級生への挨拶も程々に席に座り、自習の為に教科書を開く。

 変わらない日常。それでもアキトの心の中には確かな変化があった。マヨイの言葉により意識が変遷し、無気力な面持ちからは活力を感じる。

 周囲の同級生──特に女子からの黄色い囁き声が立ち昇るが、彼は意に介さず予習を進めていく。

 そうしてホームルーム、授業、休憩時間と……ゲートやインベーダーの警報も無い、穏やかな時間が過ぎていった。

 校門から入り込んできた謎の男に、誰も気づけないまま。


「……きひひっ」


 男は不敵な笑みをこぼしたまま、自身のポケットから注射器を取り出す。

 それは、共生する新世界を快く思わない反政府組織が生み出した、インベーダー由来の薬物。黒く濁った内容物を晒す容器の針を自身の腕に刺し、注入。

 ドクン、と。心臓の跳ねる音と共に男の容姿が変化していく。

 人間的特徴を持ちつつも身体の各所に怪物の要素を纏う特位インベーダー……怪人へと、男は姿を変えた。


 ◆◇◆◇◆


 ──事の始まりは唐突だった。

 授業中、突如として鳴り響いたサイレンは、パフアに対して魔法による攻撃が放たれた警報音。一瞬のざわつきが生じた直後、校舎を揺らす衝撃が悲鳴をもたらした。

 爆音にも似た衝突音の後に対魔法コーティングを施された外壁が破損。窓の外で揺らめく炎の奥に、不気味な雰囲気を漂わせる者がいた。

 それはまるで、人の形を取った竜だ。

 口腔から煙を吐き出し、翼をはためかせるその姿はまごうことなく特位インベーダー、怪人の特徴そのものだった。

 インベーダーの警報もなく姿を見せた怪人は、絶えずパフアへの攻撃を緩めない。防御魔法に秀でた者が咄嗟に障壁を展開するも、容易く破られる。

 校舎の一部が崩れゆく中、教師による避難誘導が始まった。恐慌状態の生徒達が列を成してシェルターへ歩みを進める。

 アストライアの戦闘部隊ニューエイジであるマヨイ、リン、エイシャの三名はフレスベルグを纏い、竜怪人の元へ。

 指令室ですら感知が遅れた存在である竜怪人との戦闘が始まる最中。

 アキトは自身が避難していたシェルターの内部を見渡した。


 ──リクと初めて会った時も“助けて”の声に呼ばれた。


 下級生、同級生、上級生。

 種族も関係なしに誰もが身を寄せ合って肩を抱き、シェルターを揺らす激しい戦闘の振れに悲鳴をこぼす。


 ──オレに向けて言われた訳じゃない。でも、確かにオレの意思で助けた。


 教師陣が必死になって宥めるが、耐え切れず嗚咽が生まれた。

 呼び水となって、恐怖は波及していく。命が危ぶまれる極限状態。


 ──理不尽に奪われてたまるか。命は、繋いでいくものだ……!


 決意、新たに。

 アキトは鋭い目つきを浮かべ、秘密を共有する友の元へ。


「リフェンス、頼みがある」

「……なんだ?」

「もう、迷わない。皆を守る為にあの怪人を倒してくる。手を貸してくれ」

「──ったく、言うのがおせぇっての!」


 大切な友人の言葉を聞いて、リフェンスは心底嬉しそうに。

 歯茎を見せるほどのイタズラっぽい笑みを浮かべ、アキトの肩を叩いた。

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