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自覚する答え

「そっか。怖い夢を見ちゃって目が覚めたから、気分を変える為に公園に来たんだ」

「マンションの近くだから問題ないかと思って……驚かせてすみません」

「ほんとだよ。こんな夜中に子どもが一人で外に居るなんてタダ事じゃないし、何かあったのかと思っちゃって」

「ごめんなさい……先生も近くに住んでたんですね」

「職員用に安価で家屋を貸与してくれる制度があるから、それでね」

「なるほど。……ところで、その膨らんだ買い物袋は夜食、ですか? 一人分……?」

「え、あっ、これはその、そうだけど! 何も今日中に全部食べる訳じゃないよ!? 家にストックしておこうかと思って、近くのコンビニで買ってきたの! 別に食べるのが遅れて爆買いしたとか、大食いな訳じゃないから……そんな目で見ないで」


 何故ここに居るのか、一人で何をしているのか、こうなった事情を打ち明けてから。

 自然に隣へ座ったマヨイ先生と雑談しながら、時間を過ごす。


「わかりました。誰だって秘密にしたいことはありますもんね、言い触らしたりなんかしませんよ」

「本当に違うから! うう……子どもとは思えない気遣いっぷり……大人として情けない」

「そんなことないです。マヨイ先生の授業はとてもわかりやすいし、皆からの評判もよかったじゃないですか。明日……じゃないや、今日も楽しみですよ」

「そ、そう? ならよかった」


 ほっと胸を撫で下ろし、マヨイ先生は買い物袋を抱え込む。

 距離が近い訳でもないのに、心臓が跳ねる。それは悪夢を見たからか、それとも彼女がニューエイジだからかは分からないが。

 少なくとも心地の悪いものではないが、しかしずっとオレといる訳にはいかないだろう。


「……マヨイ先生、帰らないんですか?」

「うーん、そうだねぇ……天宮司君の苦しそうな顔が和らいだら、帰ろうかな」

「え?」

「何かに悩んでる、恐れてるような表情をしてるから、心細いんじゃないかなって。余計なおせっかいかもしれないけど、見逃したら教師として良くないと思ってね」

「……よく、わかりましたね」


 確かに事情は話したが、思い詰めていることは打ち明けていない。

 察する力はあるようだ。……邪推されない程度に、話してみようか。


「素朴な疑問があって……戦う力を理由も無く振りかざしている奴をどう思いますか?」

「えっと、もしかして夜叉のことかな?」

「まあ、はい。何も言わず、ただゲートを破壊しインベーダーを狩る、動機も正体も不明の存在。今でこそ良い方向に働いてるけど、いつ人類に牙を剥くかも分からない……そんなのがいるなんて、怖いと思いませんか?」


 虚飾の幻影に絡まれたまま流されている俺を、マヨイ先生はどう感じているのか。

 彼女は買い物袋に視線を落とし、次いで見上げてから。


「個人的な意見だけど──そういう道理で動いている人ではないと思うんだよね。むしろもっと単純な思いで戦ってる、優しい人なんじゃないかな」

「単純……優しい?」

「これまでも人を守る為に、今回の夜叉だってお昼時でご飯を食べられない人がいるから、アストライアに力を貸してくれた。自分が戦う理由を誰かに依存してるって言われちゃうかもしれないけど……私はそうは思わない」


 だって。


「自分以外の誰かの為に、体を張って戦えるなんて立派だもん。夜叉はね、大勢の命を繋いでくれているカッコいいヒーローなんだから」

「命を、繋ぐ」

「ふと周りを見て、誰よりも苦しいのを分かっていて、誰よりも悲しみを理解して、誰よりも痛みを知っていて……皆にそんな思いをさせたくないんだ。もちろん、そこに色々な考えが含まれているかもしれないけど、強い意志を持って戦っていることに違いはないよ」


 そう言って、彼女はベンチから立ち上がる。


「パフアの皆が夜叉のことを好きなように、夜叉もまた、人のことが好きなんだ。求められなくても、応えなくても、誰かを助けたい一心で戦ってる。だから……夜叉を怖がらないであげて」

「……わかりました」


 膝をつき、目線を合わせてきたマヨイ先生は、俺の返答に笑顔を浮かべる。

 そして買い物袋からメロンパンを取り出し、お気に入りをあげる、と手渡してきた。

 さすがに今食べる気にはならないので、持ち帰って朝にでも食べますと告げて、マンションまでついてきてくれたマヨイ先生と別れる。


『アキト、大丈夫かえ?』

「うん。問題ないよ」


 エレベーターで上階へ向かう最中、姿を現したリクと話す。


『まさかあんな場所で奴と会うなんてのぅ。思ってもない出会いじゃったわい』

「でも……なんだか気分が晴れたよ」

『そうか。……お主の考えに一区切りついた、といったところか?』

「ああ。どれだけ自分の視野が狭まっていたのか、気づかされたよ」


 想定外の遭遇から得た答えは、確かに胸の奥に届いた。

 きっかけこそシンプル過ぎて自覚できなかったんだ……俺の、戦う理由は。

 隣で浮遊するリクを見上げ、笑みを浮かべる。彼女は満足そうに頷き、頭を撫でてきた。

 止まったエレベーターを降りて、五〇五号室へ。貰ったメロンパンを冷蔵庫に入れて、自室のベッドに潜り込む。

 しばらくして眠気が襲ってきたが、その夜は悪夢を見ることは無かった。

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