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心機を転じて

 龍崎カズマを筆頭として、この世に存在する超能力者。

 感知されず自身や対象を容易く転移させるテレポートすらも、時にはフレスベルグを装着したニューエイジを圧倒する。

 その対策や詳細を知らずに相手取るには、危険な要素が多い。

 そこで超能部(ちょうのうぶ)の力と知見を借りたい……そういう話で、超力棟にやってきたのが以前だ。


 しかしこれから増えてくるであろう、超能力を使う怪人との戦い。エクセラと組み合わさる事で、奴らは時に魔法をも凌駕する現象を引き起こす。

 こちらも反する現象か、そもそも戦闘という土台に上げない、と。徹底した対抗手段を考える他なく、その知識を得る必要があった。

 専門家による判別と対処法を知るべく、超能部(ちょうのうぶ)を利用する。……聞こえの悪いやり方は気分が良くなかった。


『なので、オレの正体を超能部(ちょうのうぶ)の柊部長に教えて協力を取り付けたいです。どうですかね?』

『急に連絡してきたかと思えば突然の告白』

『なんとなくそんなこと考えてそうだとは感じたが、マジでやんの?』

『うむ。ちょいと儂らだけではどうにも難しくてのぅ』


 昨夜、就寝前に。

 メッセージアプリのグループ通話でマシロさん、リフェンスを呼び出して、頭の中で考えていたことを伝える。


『確かに二人の懸念は分かるよ。超能力に関してアタシらは無知だし、力を貸してもらうのは全面的にアリじゃないかな』

『今回だって龍崎カズマが子飼いにしてる超能力者をけしかけられたんだ。今後もそうならないとは限らねぇか』

『事前に教えてもらわんかったら、軽々と討伐できんじゃったろうな』

『それにオレ達だけが利益を得て、向こうは知識を出してるだけ。……どうにもなんというか、不義理な気がしてさ』


 夜叉として助けはしたが、それはそれ、これはこれ。

 されど不必要に正体を明かす必要は無い。バレるリスクは避けるべき。

 けれど、今のままでは等価交換になっていない。私生活でも、魔法でも、超能力でも、必須とされる法則は誰にでも適用されていいはずだ。

 特に、日常的に立場を改善しようと奮戦する人にとっては。


『弟君は真面目だねぇ……んー、でも待てよぉ……?』


 突拍子の無い提案でも否定せず、マシロさんは聞き入ってくれて。

 そして突然、手を叩いたような乾いた音が響いた。


『どしたんマシロさん?』

『最近、アストライアでも超能力対策の諸々を考案してるみたいでさ。その計画書の中に、超能力の行使を探知するとか抑制する、みたいな機材の詳細が載ってたんだよね』

『ほぉ、向こうも向こうで努力しとるようじゃの』

『まあ、それを考えたのも製作してるのも本郷博士なんだけど』

『へー……なんでもできるな、あの人』

『でも、これはチャンスでもあるよ。パフアの超能力科はアライアンス・アストライアの双方から集められた人材でしょ? ってことは、定期的に監査や調査しにくる人達がいるはず……その線から、より詳細な超能力のデータが集められるかも』


 なるほど。でも結局、柊部長を利用してる形になるんじゃないか?

 マシロさんの興奮した物言いに首を傾げていると、マギアブルに移る彼女のアイコンが再び点滅し始めた。


『何より重要なのは、本郷博士自身がパフアにやって来るんじゃないかって部分だよ。ほら、前に何かと弟君を探ってきてたでしょ? その流れでこっちからも攻撃を仕掛けるんだよ』

『あー……超能力の関係者となんで一緒にいるんだ、みたいな精神的動揺を誘ってボロを出させるのか?』

『結局、アキトを調査しておる理由は分からず仕舞いじゃったからのぅ。マシロの言う通り自然に接触できる機会があるなら、別路線のアプローチで情報を引き出すのはアリかもしれん』

『確かに助かるけど……それだと、やっぱり柊部長の利点が無くない?』

『超能力関連の計画書やら設計書やら、アストライアのサーバーからぶっこ抜いてきたから。細かい部分はともかく、超能力のデータさえ揃えば抑制装置とか探知機とか作れるよ。部長さん、欲しがるんじゃないかな?』

『『マジで?』』

『相変わらずとんでもない度胸と技量のハッキングじゃな……』


 ◆◇◆◇◆


 技術的分野におけるマシロさんの無法っぷりに助けられて。

 超能力の対処、本郷博士への接触、超能力者として抱える問題の改善。

 それはそれは多くの難題を一手に解決できる可能性があるとして、夜叉の正体を明かすことにゴーサインを頂いた。


 リフェンスだけは唐突過ぎて受け入れられるか不安視していたが──話をした限り、柊部長はかなりゲームや漫画に精通してると仮定。

 そこを突いて場を和ませればいけるんじゃない!? と。

 マシロさんに太鼓判を押された挨拶は見事にぶっ刺さり、姿勢を正した柊部長へ事情を説明。


「──なるほど。詳細はおおむね理解した」

「理解できたんすか?」

『最悪、アストライアへ通報されるのも考えてましたけど』

「一瞬だけマギアブルに手が伸びかけたが……切った覚えがないのに電源が点いていない。恐らくは、先ほど現れた女性によるものだろう?」

『聡いのぅ……まあ、その通りなんじゃが』


 自身のマギアブルを取り出し、何も反応しない液晶をタップしながら。

 柊部長はため息を吐きながら、辺りを包む隠蔽魔法を見上げて、次いでオレの方へ視線を向けた。


「君が夜叉として活動する旨と超能力を使う怪人への対処。わたし達が日頃から懸念している超能力関連の解決法が見えてくるなら……協力体制を取るのは(やぶさ)かではない。現に、こうして夜叉への変身を見せてくれたことだしな」

『すみません、驚かすようなことをして……』

「いや、君に非はない。というより、この場の誰にも悪気はないのだ。今よりも未来を想い、行動を起こす者という共通点しかない」


 それに。


「昨日、この場で語ってくれた超能力者への考えは本音なのだろう?」

『はい。そこは間違いなく、本当のことです』

「ならばわたしから言うことなどありはしないよ。加えて助けてもらった手前、与えられた恩は返すべきだ」


 柊部長は満足げに笑みを浮かべ、席を立ち、手を伸ばしてきた。


「改めて超能部(ちょうのうぶ)部長、柊ユウヤ個人として微力ながら──夜叉およびその陣営へ協力させてもらおう」

『心強いです。よろしくお願いします、柊部長』


 奇妙ながらも結ばれた関係性に、新しい可能性を感じながら。

 伸ばされた手を夜叉の手で取り、握り締めた。











「時に早速として、相談事になるのだが……」

「んー? 何かあったのか?」

「君達の話を聞く限り、ニューエイジというのはパフア校にやってきた教育実習生の三人……なのだな?」

『そうですよ。いつも身柄を捕らえようとしてきます』

『夜叉のスペックならば振り切るのは依然として容易じゃがな。して、その三人がどうかしたか?』


「昨日、君達が帰った後に連絡を受けたんだ。超能力に関して意見と知識を貸していただけないか、とな」

「あの人らも俺達と同じ発想に至った訳か。まあ、普通に接すればいいんじゃねぇの? 特に困るような話じゃねぇだろ」

「多少は前後するだろうが、彼女達が来訪するのは今日の十六時に予定している。超力棟(ちょうりきとう)の顧問教師が連れてくる為、天宮司君のように迷宮化云々で迷わずここに来るだろう」


『…………あれ、待って。いま何時?』

『放課後になってすぐに来たが、あれこれ話して十五時五十八分……生体反応が四つ近づいて来とるんじゃが!?』

「やべやべやべべべっ!? お前、早く変身解除しろ! 俺は隠蔽魔法を使ったのがバレないように痕跡を消す!」

『わ、わかった』

『儂も希釈化しておくぞ。見つかったら面倒じゃからな』


「こういう時、超能力で何も出来ないのが歯痒いな。……いや、廊下に出て彼女達が室内に入るのを遅らせるか」

「助かる! それなら万全に痕跡を消せるぜ!」

「あとはどうしよう……オレらがいるの、不審に思われないかな?」

「一般的には近寄りがたい建物に二人でいる……イリーナ先生を経由して聞かされていたとしても、怪しいには怪しいか?」

『いうて窓から脱出するのは悪目立ちせんか? といっても、転移魔法で移動するのも残滓が残るしのぅ』

「君達はいつもそんな場当たりな感じで動いているのか……?」


 結局のところ、鉢合わせて誤魔化すのが面倒になったので。

 柊部長の足止めに、リフェンスの痕跡消去が完了した瞬間。オレはリクにメタモルシード“シノビ”を顕現してもらい、起動し、秘められた脚力と腕力を解放。

 咄嗟にリフェンスと荷物を抱えて、部室の窓を開け放って。

 窓枠に足を掛けてから、ぴょいっと。外壁を伝って超力棟(ちょうりきとう)の昇降口まで飛び降りることにした。


「ひええええええええっ!?」

「静かにしろ、バレるって!」

『下手なアトラクションより危険なのは違いあるまいよ』


 こうして慌ただしくもマヨイ先生達との接触を振り切って。

 オレ達は靴を履き替え、帰路に着くのだった。

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