共犯の誘い
ぐつぐつと煮え、湯気を上げる溶鉄の海。
その際で一息整えていると、凄まじい速度で飛んでくる光の点が見えた。フレスベルグのスラスター……ニューエイジだ。
今回は特に話すことは無く、共有したい情報も特に思いつかない。
しいて言えば、怪人化していた本体の人間は超能力者であること。
これはアストライアも既に周辺の監視カメラ、温度変化、魔力の残滓から情報を得て把握していると見た。
そしてゴミ捨て場に放置してあり、目覚める様子はないこと。
本来は使用者に負担が掛かる超能力をあれだけ行使していたのだ。問題なくニューエイジが連行してくれるだろう。
周辺の被害も道路の陥没と溶鉄の海くらいで、冷ませば後処理は容易く出来るはずだ。
シェルターへ避難している人達も、そう遅くならずに解放される。
詰まるところ──用事が無いので逃走一択だ。
シフトバングルに接続したメタモルシードを引き抜き、騎士から夜叉へ。軽くなった体を確認して、一息に“天翔”で上空へ離脱。
寸前でやってきたニューエイジが出会うのは、視覚センサーすら誤認させる残像の夜叉だ。本体は雲を跳び越えた遥か上空で、夕陽を浴びてる最中である。
『探知圏外まで跳べたか……このまま帰ろう。転移魔法よろしく』
『あいよ』
レイゲンドライバーからマギアブルを抜き取り、変身を解除。ヤシャリクが溶け出し、光の粒子となり、徐々に人型を模していく。
肌に感じる高高度の空気。
自由落下の浮遊感に晒され、目を細めていたら。
すぐさま実体化したリクがマギアブルを握っていた手に触れ、そのまま引き寄せてくれた。
『ポラリス……は営業中じゃし、マンションの自室でいいか?』
「うん。姉さんはまだ帰ってないだろうし、不審がられることは無いでしょ」
それもそうか、と。
風圧で掻き消されないように耳元で応えたリクは転移魔法を発動。
背後に目を向ければ、何メートルか下に白い縁取りの穴が展開されていた。その先に、見知った内装の部屋が見える。まぎれもなく、オレの自室だ。
「リフェンスに連絡しないとなぁ……ってか、アイツどこにいるんだ?」
『避難誘導してそのままシェルターで待機しとるんじゃないか? 転移したらマギアブルで連絡すりゃあいいじゃろ』
夜叉として万全に動く為、力を貸してくれた友達の顔を思い浮かべながら。
オレはリクに強く抱き締められ、転移魔法へ落ちていった。
◆◇◆◇◆
リフェンスへ連絡を取って感謝を伝えたり。
ヴィニア姉さんに怪人騒ぎで渋滞が酷かったと愚痴を聞かされたり。
ナイトスタイルの戦闘方法、加えて今回の反省点をリクと語りながら宿題をこなして……翌日。
商業区を騒がせた、クリオキネシスを操る怪人のニュース。
付随する形で判明した、龍崎カズマ関連の情報──オレやリフェンスにとっては特段珍しくない──で世間が持ち切りな中。
オレは放課後の時間に、再び超力棟……超能部の部室を訪ねた。もちろん、覚悟を決めた表情を浮かべるリフェンスを連行し、隣に置いて。
「よもや昨日の今日で来訪してくるとは思わなかったぞ。しかも隣の彼まで連れてきて……」
先日の約束通り超力棟内が迷宮化しておらず、特に障害もなく部室に辿り着けた。
事前に連絡を取っていなかったとはいえ、出迎えてくれた柊部長は期間を置かない再会に呆れているようだ。
「イリーナ先生から、昨日の怪人騒ぎに柊部長が巻き込まれたと聞いたんで。怪我してないか心配だったんですよ」
「そういう流れで情報が伝わったのか。気持ちはありがたいが、この通り無傷だ。怪人と鉢合わせはしたが……寸前で夜叉に助けられたからな」
「ええ、でしょうね。おかげで対策が取れたんですから」
「…………ん?」
妙な言い回しだと気づいたのか、柊部長は眉根を寄せた。
「なあ、ほんとに伝える気かぁ? いくら助けてくれたとはいえ、まだ出会って間もない相手だぜ? 困惑するし持て余すだろ」
柊部長の安否確認は当然だが、本題は別にあって。
リクやマシロさんを含め、事前に相談して全体像を把握しているリフェンスが、脇腹を突いて語りかけてきた。
「無理や無茶を通してでも、応えてくれたのは事実。それにもし不意にバレた時、下心があって近づいたと思われるのは嫌だ。柊部長に対して不義理だし、道理が通っていない……そう話しただろ?」
「まあ、マシロさんとリクの姐さんも許可した以上、俺が覆すってのは話がちげぇし……」
「それに超能力関連の専門家がいるのは心強い。怪人態になれば、普段よりも警戒の引き上げ方が変わってくるのは、身に染みて実感した」
「わかったわかった……じゃあ、せめてこの場に人の目が無いかだけ確認しとこうぜ? 超能力で遠視や透視されてちゃ敵わないぜ」
「むむっ、一理あるか……」
「すまない、先程からいったい何を言って……」
「その前に、この部屋はプライバシーが保護されていますか。超能力で見聞きされてはいませんか」
困惑のままに身を乗り出してきた柊部長を手で制して、有無を言わせない口調で問い掛ける。
まっすぐに見つめ、息を呑んだ彼は咄嗟の仕草で頷いた。
「なら大丈夫です。問題無く、打ち明けられる」
「ど、どういうことだ? いまいち要領を得ないのだが……」
「こういうことですよ──リク」
『やれやれ、ようやっと出番が来たか』
頭を抑える彼に見せつけるよう、オレを基点とした転移魔法からリクが飛び出してきた。
浮遊し、ソファの背もたれに腰かける、唐突に現れた女性。
驚くには十分だったのか、柊部長はソファへ体を深く押し込んだ。
「なっ、なんだ!? 急に何故、女性がっ!?」
「やっぱり段階を踏んで教えるべきだったんじゃねぇの?」
「衝撃的な方が記憶に残りやすいかと思って」
『というか、さっさと見せてやった方がよかろうて。リフェンス、隠蔽魔法を頼んだぞ。完璧にな』
「はいはい……」
腰を抜かした柊部長、投げやりなリフェンスと視線を流して、最後にリクの顔を見てから伸ばされた手を取る。
そして彼女の体は光の線や粒子と化し、掴んだ手の上で別の形──レイゲンドライバーへと再構成された。
強烈な印象が残っていたのだろうか。
柊部長は目を見開き、レイゲンドライバーを注視した。
「それは、夜叉が腰に付けている……まさかッ!?」
『Get ready?』
察しが付いた彼の疑問へ答えるように、レイゲンドライバーに備わる殺生石を叩いてから腰にあてがう。
側面からベルトが伸び、固定。いつもの承認を求める音声が鳴り響き、周囲に展開された隠蔽魔法によって室内の景色がぐにゃりと変化。
「変身」
ぼかされた世界の中で、特定のコードを入力したマギアブルを押し込む。
いつも通りなシーケンスを経たものの、座りながらであること、室内であることを把握したのか。
鎧武者のヴァリアブルモデルは静かに、幽鬼の如く現れて。
やかましい警告音はリクが無理矢理抑えつけて静音状態に。
派手な演出も無く、憑依するようにヴァリアブルモデルが全身を呑み込む。
アンダーインナー、各種装甲、コート、フツノミタマに真っ赤なマフラー。
夜叉を形成する全ての要素が揃い、厳かに、ただ証明する為だけの変身が完了した。
理解が追いつかないのか。ポカンと呆けて口を開く柊部長へ向けて、両手を合わせてお辞儀する。
『ドーモ、柊部長サン。インベーダースレイヤーです』
「いや普通に自己紹介しろや!? 漫画の影響受けてんじゃねぇ!」
「……ド、ドーモ、インベーダースレイヤーサン。柊ユウヤです」
「そっちもノってくんの!? ネタわかるのかよ!」
『お主ら漫才しとらんではよう本題に移らんかい』




