剛剣雷砲の重騎士
夜叉によって吹き飛ばされたタイロスの怪人が大通りを転がる。
辺りに人気があれば悲鳴の一つでも上がるものだが、リフェンスの呼びかけや警報の効果によって人目は無い。
『Advent! ヴァリアブルモデル、Ready!』
警戒に鳴り響く電子音声の後、水蒸気が溢れる路地から人影が飛び出す。
それは体格の良い、西洋鎧のがらんどう。剣と盾を備え、空虚でありながら重厚な鎧の各所から炎を噴出させる。
情けなく身を起こした怪人の元へがらんどうは剣と盾──“イーリアス”と“イージス”を合体。
巨大な大剣“デュランダル”となった肉厚な刃を容赦なく振り抜き、怪人を再び這いつくばらせる。
巨体が崩れ落ち、爆風が舞い、道路が陥没。
クレーターを生んだと同時にがらんどうの西洋鎧はその身を爆散。
飛び散った各部位の鎧、兜、大剣が路地へと飛び込み……徐々に重くなっていく足音が、大通りに近づく。
『Reformation Override! ナイトスタイル!』
『Summon タケミカヅチ“キャノンモード”!』
青色のバイザーを光らせ、放熱板の役割を持つ赤いマントを翻しながら。
右腕にデュランダル、左腕を大筒に変形させたタケミカヅチで武装した、重厚な騎士が姿を現した。
全身の神経・筋肉組織の代替である魔力伝達器官“フレイムサーキット”から蒼い炎が溢れる。
タイロスの怪人がもたらした極寒の空気を変遷させ、膨れ上がった水蒸気が霧散。視界をクリアに。
代わりにタケミカヅチの砲口から生じた紫電が空間を舞い散った。
『キャノンモードまで使うんか? 効果あるかのぅ』
『雷の魔法属性を付与すると考えれば? 物体を生み出すアイツにとって、特に金属であるアイツにとっては、自分の首を絞めることになるだろ?』
『ん? ……ははん、なるほどな!』
アキトの目論みを察したリクは、タケミカヅチの出力を調節。
そうして夜叉から騎士へ、脅威度が増したことを認識したのか。タイロスの怪人はクリオキネシスの出力を全開に。
再び氷河の世界へ誘おうとするも、対面するのは焔の騎士。超能力の現象に魔法の現象で相殺する。
周辺の大気温度は一定をキープし、堂々巡りの展開へもつれ込む。
最たる攻撃手段の一つを封じられたことで、タイロスの怪人は冷やされ、熱せられを繰り返す体で突撃。
『急に脳筋みたいな戦法を取り始めたな……』
『手札が少ないんじゃろ』
騎士となっても埋まらない体格差を活かした質量。
一歩ごとに道路の舗装を破壊する重量を乗せて、剛腕を振り抜く。
まず直撃すれば、並のパワードスーツでは耐えられない。夜叉の状態であれば、いなすことは出来ても各部位が損傷するだろう。
しかし、質実剛健なナイトスタイルに身を包んでいる現状。
加えてフレイムサーキットが稼働し続けている今──力比べという段階においては、タイロスの怪人を圧倒する。
『ふっ』
あまりにも軽い吐息と共に、デュランダルを振るう。
幅広な大剣は片腕であるにもかかわらず、素早く風を切り、何気なしに剛腕を弾き上げた。
握り締められた鉄の拳を、手首の半ばまで切り裂きながら。
『──!?』
『隙だらけだぞ』
自分より小さき者に、真正面からあしらわれる感覚。
感じたことの無い衝撃にタイロスの怪人は動きを止め、その開いた胴体へタケミカヅチの砲口を突きつけた。
騎士の意思で発砲された雷撃が、鉄の体を駆け巡る。
攻撃に超能力を行使していても、本体はインベーダーで構成されているのなら、魔法での攻撃は有効打になる、と。
そう判断しての、貫通力より衝撃力を優先したキャノンモードだ。
『──が、ギっ』
『へぇ、ゴーレムの怪人態は言葉が話せるのか』
『言葉っちゅーか呻き声じゃろ』
強烈な雷の魔法を受けた影響か、体を震わせるタイロスの怪人へ。
デュランダルを横薙ぎに一閃。胴体を深く抉り抜いた剛撃は巨体を浮かばせ、後退させる。
『……過剰戦力だったか? まあ、自由に動かれるよりはマシか』
『そうじゃの。さっさと終わらせようぞ』
圧倒的な性能差に自身の判断を疑うものの、再充填されたタケミカヅチの砲口を……怪人でなく、その足元へ。
放たれた稲玉は急激な温度変化の拮抗によって生まれた、魔素を含む水滴が散布された道路に。
一瞬の閃光。のちに地を走る雷は、クレーターに生み出されたアスファルトの破片に纏わりつく。
そして、ふわり、と浮き上がったかと思えば、瞬時に怪人へ飛来。
鉄の体に雷を通され……否、付与されたことで、巨大な電磁石と化した体に破片が次々と付着。
従来の重量に加えて細々としてはいるものの肘や膝、手首足首と関節に付いたことで、怪人の身動きが封じられる。
まるで壊れたブリキ人形の如く、ぎこちない動作しか出来なくなる。
そのおかげで──敏捷性が壊滅的なナイトスタイルでも接近可能だ。
『逃がしはしない』
タケミカヅチを収納し、左手でレイゲンドライバーの殺生石を叩く。
一度、二度、三度。
叩くほどに溢れ出した魔力エネルギーが全身を覆い、デュランダルへ……収束する寸前に手元から離し、遠隔で収納。
『えっ、使わんのか?』
『魔核ごと本体をぶった切るつもりか』
『ああ、そうじゃな。危ない危ない、忘れとったわ』
まったく、とぼやきながら。
騎士はレイゲンドライバーに挿したマギアブルを、更に深く押し込んだ。
殺生石が点滅し、魔力エネルギーが騎士のフレイムサーキットを活性化。
魔力回路と共に増大された流動的な筋組織とエネルギーの奔流が、デュランダルを離した右手へ。
揺らめく蜃気楼を伴った、獄炎を纏いし拳を引き絞り、駆け出す。
『ぶっ壊れろ、ガラクタ人形……!』
間合いを詰めた速度のまま、掬い上げるように。
騎士は拳を怪人の正中線へ、アッパーの姿勢で振り抜いた。
巨体が持ち上がり、耳障りな金属音を鳴らす。そして打撃点から赤く、白く融解した鉄が辺りへ溶け落ち、体積をみるみる内に減少させていく。
騎士すら呑み込む溶鉄の濁流の最中。
振り上げた右手に硬質な感触が触れる──魔核だ。
掴み取ったそれを引き抜き、反対の手で人間大に縮まった怪人を突き飛ばす。
体に残った溶鉄を全て辺りへ飛び散らせながら、狙い澄ましたように。付近のゴミ捨て場へ全裸の男が飛び込んでいく。
バイタルに異常は無く、ただ気絶しているだけというバイザーの情報にほっと胸を撫で下ろして。
騎士はクレーターを満たす溶鉄の海からその身を乗り出す。
夕陽を背に、身に付いた赤熱の溶解物を払い落として、背後の真っ赤な海へ振り返った。
『いかに騎士と言えどヤバいかと思ったが……ほんとに頑丈だな』
『伊達に火力・防御特化のスタイルではないわ。火山の火口に落ちようが、マグマに晒されようが溶けん耐熱兼適応装甲じゃぞ』
『頼もしいな……』
自信たっぷりなリクの物言いに首を振りながら。
騎士は右手に掴んだタイロスの魔核を砕き、吸収。
クリオキネシスを繰る怪人との戦いは、こうして幕を閉じるのだった。




