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零下の蒼炎

『ふむ。本能的に素体の力であるクリオキネシスを利用してるのか』

「気をつけろ。当人の制御下に無い以上、どんな現象を引き起こすか分からない! いかに夜叉のパワードスーツでも、耐えられない可能性がある!」

『了解した。助言、感謝する。大通りへ避難していてくれ』


 柊部長のおかげで不可思議な現象へのアタリが付いた。

 踵を返して去っていく彼とは反対に、眼前で冷気を生み出し続け、完成した怪人へと歩み寄る。

 路地の幅は狭いが、フツノミタマを振るうには問題ない。

 しかし、怪人を構成するインベーダーの要素はゴーレム系のタイロス。魔力を保持した鉄の体は物理的な防御力が高く、上背もある。

 加えて未知の超能力たるクリオキネシス……速攻で片を付けられるか?


『リク、周りの温度変化に目を光らせていてくれ。超能力で攻撃を仕掛けてくるなら、予兆はそれしかない』

『あいよ、警戒しておこう』

『──ッ』


 無言のままに、タイロスの怪人は単眼の視線を向けてくる。

 次いで鈍重な外見とは裏腹に軽快な歩調で駆け出そうとした、その一歩目に。

 壁を利用し、三角飛びで背後へ回ってフツノミタマを振るう。認識外の速度で上回り背中を斬るつもりでいた。

 なのに刃が触れる直前、体から生えた氷柱に絡め取られる。ガキリッ、と耳障りの良くない音と手触りが伝わってきた。


『っ、前兆も無しに!?』

『いや、違う! この場は既にクリオキネシスの範囲内……氷点下の世界! 阻害の氷を生み出すのも容易いのか!』


 咄嗟の判断で根元の氷柱を蹴って根元から氷を砕く。

 夜叉の状態では腕力より脚力の方が強い。その衝撃は怪人を前面へ足踏みさせ、留まらせた。

 ズシリと重量の増したフツノミタマを壁に叩きつけ、半透明な氷塊を崩す。

 切っ先を向けたまま、距離を保ってサーモグラフィを確認すれば、全てが青を通り越して黒く染まっていた。

 環境の変化は止まらず、温度はマイナス二〇度を越えて下がり続けている。しかも先ほどのように、霜どころか無差別な氷のオブジェを辺りへ生成していた。


『マズいな。このまま暴走させれば、一面が氷の世界になる』

『恐らくは過冷却を利用した現象じゃ。だが、ありえるのか……本来、凍結とは加熱よりもエネルギーの消費が多い。加えて空気中の水分を凝固化させるなど、タカが知れとるのじゃぞ』

『クリオキネシス、超能力の真髄。甘く見る訳にはいかないか』

『──!!』


 リクの分析をBGMに、振り返って向かってきた怪人の攻撃を避ける。

 雑な拳と蹴りは大きく重たく空気を割くが、夜叉を捕らえることはできない。所詮、タイロスは上位に位置するインベーダー。特異な固有能力は無く、素の身体能力は褒められるほど高くない。

 けれど、受けてはならない。フツノミタマで払えばたちまち刀身を固められ、行動を抑制される。

 そうなれば全身ごと、一瞬で氷漬けにされる可能性が出てくるだろう。


『厄介極まる……周辺の避難は?』

『近辺の生体反応は無い。リフェンスと警報のおかげで、迅速に行動してくれとるようじゃの』

『アストライアは?』

『ニューエイジが本部からカッ飛んできよるな。付随する形で各戦闘部隊や事後処理班が車両で移動しとる』

『撒くのも楽じゃないんだが、ッ!?』


 足裁きを駆使しして怪人の攻撃をいなし続けていた折に、右脚の自由が利かなくなった。視線だけを向ければ、膝下まで右脚が凍りついている。

 いつの間に……いや、クリオキネシスに慣れるつもりで失念していた。

 この路地は、既に怪人のテリトリーだというのに! その気になれば、身動きを封じるなんて造作も無かったのか!

 気と目線を戻せば、氷の棘を付けた右腕を振り被る怪人がいる。

 無理な体勢で力が込められない。

 三メートルは優に越えたリーチからは避けられない。逸らせない。


『──ッ!』


 こちらの逡巡を待たずに、怪人は致死の殴打を振り下ろす。

 ……接触する、数瞬の隙に、フツノミタマから手を離した。

 そしてベルトの右側に付けたポーチからUSB型のガジェット──メタモルシードを取り出し、起動。


『メタモルシード“ナイト”、Active!』


 マギアブルやリクではない人の、マシロさんの声に続いて。

 ラッパやヴァイオリンといった荘厳な旋律が鳴り、発光するメタモルシードを、音が置き去りになる速度で振り上げる。

 殴打に合わせて突き上げたメタモルシードの秘められた力。

 それは起動状態で触れている間のみ、ナイトの能力を限定的に行使できるというもの。

 生身でも可能な機能として駆使できる能力──豪快奔放な剛力と溢れ出した獄炎は、ゴーレムの怪力を止め、瞬く間に氷塊を溶かす。


『──っ!?』

『都合のいい練習台にしようかと思ったが、やめだ』


 その炎は辺りの温度を急上昇させ、霜や氷を水、さらには水蒸気へ。

 視覚的な阻害効果を持つモヤとして生まれ、オレと怪人を包み込む。余りの急変化にうろたえる怪人を、メタモルシードを握り締めて殴り飛ばす。

 ガギン、っと。鈍い金属音の後にさしたる抵抗も無く、されるがままに。

 鉄の体を持つ怪人は大通りへ吹き飛んでいった。


『認識を改めるよ。超能力は、時として魔法を凌駕するってね』

『Advent! ヴァリアブルモデル、Ready!』


 様子見や日和見は実戦において良い行いではない、と。

 身に染みてぼやき、メタモルシードをシフトバングルへ接続した。

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