パフアの超能力科
繁華街区画で起こった複合型怪人による騒動から二日が経った。
地球と異世界の技術が混合した建築・修復技術で完全な復興が成され、変わらず仕事に向かうヴィニア姉さんを見送って。
オレもパシフィック・フェデレーション・アシュランス専門校──パフア校に向かうべく、マンションを出た。
「はよーっす、アキト。元気だったか?」
「おはよう。まあ、どうにかな」
そろそろ衣替えの季節になろうか、という気温にほっと息を吐いて。
人の列が並ぶ魔導トラムの停車駅に到着。すると同じタイミングでエルフ族のネイバー、リフェンスがやってきた。
丁度いいと思い、一緒に列の最後尾について次の魔導トラムを待つ。
「通話の後、一向に音沙汰が無くてビビったぜ? メッセージアプリでリクの姐さんから寝込んでるだけって聞いて安心したが」
「一応、目は覚めてたんだけど、リクにマギアブルを取り上げられてな。“そんな体で無茶はさせん”ってさ」
「マギアブルとレイゲンドライバーが無ければ変身できねぇもんな」
「おかげでずっと宿題か勉強、読書ばっかりしてたよ」
健全だねぇ、と。
携帯端末“マギアブル”を熱心に見つめたり、耳にイヤホンを付けていたり。
列を作る人達が皆、外界からの情報を遮断している様子を眺めて。リフェンスは幸いとばかりに夜叉関連の話題を口にする。
「まあ、結果としてゲートもインベーダーも怪人も出現しなかったんだ、良かったじゃねぇか。……念の為に聞いておくが、体は本調子なんだよな?」
「心配しなくても元気満タンだよ。というか、前に二度の変身をした時より回復速度が上がってると思う。いつかはインターバルを挟まなくて済むようになるんじゃないかな」
「いつかって数年後とかの話じゃねぇの?」
「希望は持っておきたいんだよ……」
かねてから一日に複数回出現する、脅威の排除に対する切実な願望なのだ。
実現するかはともかく、と。声を上げて笑うリフェンスを睨み、停車した魔導トラムに乗り込む。
マギアブルでなく、左手に装着したシフトバングルで電子決済。
小気味よい電子音が鳴り、いつもの場所として降車口の近くに陣取る。
「それよりニューエイジから渡されたデータをまとめて、リクが送信しただろ。中身は読んだ?」
「おう。エクセラの関与に真鬼里組、龍崎カズマは超能力者。……知らなかったとはいえ、ありがたいことに有益なモンばっかりだったな」
アストライア内部でも極秘とされる情報の数々。
夜叉として活動を支援してくれるマシロさんが、偶に内部情報を素知らぬ顔で抜いてくるとはいえ限度がある。
その難題を解決し、提供してくれたマヨイ先生に感謝しつつも、周囲に聞かれないよう小声で話す。
「にしても超能力者、ねぇ。面倒な能力持ちのくせに、ネビュラスに代わってエクセラをバラ撒いてるとは……道理で捕まらねぇ訳だよ」
「リフェンスから見ても、魔法と超能力は別物?」
「まるっきりちげぇな。魔法は魔素や魔力を媒介として発声する言葉に意味を与え、物理法則・概念を捻じ曲げる。原則は魔力と現象の等価交換だ」
自身の得意分野ということもあってか。
リフェンスは得意げ、かつ詳しく教えてくれた。
「どう余力を割くのか、余剰を出さずに使うのか……そこには必ず、魔力の残滓やら痕跡が生まれるもんだ。だからリクの姐さんみたく、周辺の情報を欺瞞させるのが俺のやり方だ」
「欺瞞……騙すってことか。じゃあ、超能力は?」
「聞いてる限り、ありゃチートだぞ? 大した対価も制約も無しに火や雷、水を発生させる。あるいは自分や物体を浮かせたり、基点も無しに転移させるってんだからな。訓練すればするほど規模はデカくなるし能力も強力になる。それこそ、龍崎カズマはマジで優秀なテレポーターだろうよ」
「自分どころか、重量のある物を抱えて転移できるから、か」
「その気になりゃ、歩行者をビルの屋上ぐらいの高さに転移して落とす、あるいはその逆だって出来るかもな」
仮にリフェンスの言ってることが真実なら、恐ろしいことだ。
人の重量、背丈の何十倍もある質量を自由に転移できるとしたら。並みのインベーダーや怪人、アストライアの戦闘部隊にニューエイジでは太刀打ちできないだろう。
「効果範囲がどの程度かは分からんが、心臓や脊椎、脳だけを抜き去るなんて非道なマネだって可能かもしれねぇ。……まあ、あくまで仮説だがな」
「だとしても、近い事は出来るんじゃないか? 例えば、パワードスーツと装着者を引き剥がすとか」
「うーわっ、ありえそうだな。しっかし考えれば考えるほどキリがねぇな……明確な欠点やら弱点でもあればなぁ」
魔導トラムの速度が緩やかになり、自動音声が流れる。
パフア校最寄りの停車駅の名を告げるアナウンスにカバンを背負い直し、降車口を正面に捉えた。
「それを知る為に、放課後に寄りたいところがある。ついてくる?」
「寄りたいところ? どこだよ」
「パフアの別校舎にある超能力科」
開いた降車口から出て、通学路を歩こうとして。
ついてこないリフェンスが気になって振り向けば、口をあんぐりと開けて立ち尽くしていた。次いでハッと意識を取り戻し、急いで魔導トラムを降りてくる。
「お前、正気か!? アライアンスとアストライアが保護して押し付けてきた、荒くれ問題児集団の詰め所みてぇな場所だぞ!? 専門の教師しか足を運ばねぇ魔境に乗り込む気か!?」
「酷い言われようだな……別に話を聞きに行くだけだって。超能力者で構成された部活動とかあるし、その辺りを訪ねてみようと思う」
「いやいやいやいや、さすがにお前だけで行かせらんねぇわ。ヴィニアの姐さんに顔向けできねぇし! 俺と、あとせめてイリーナ先生も連れていこうぜ?」
「頼めば来てくれるだろうけど、なんて言ってついてきてもらうのさ?」
「そこは、ほら……なんとなく、流れで」
「重要な部分が大雑把なのかよ」
計画性の無い──そもそも突発的に提案したオレも悪いが──リフェンスの行きたくなさそうな言い分を聞き流して。
オレは同じように登校する生徒の波に混ざって。パフアの校門をくぐった。




