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アストライアの思案

衝動的に書いてしまったので更新します。

 地球と異世界を繋ぐ最先端の学園島。

 日本の東京都近海に浮かぶ、同規模の面積を誇る人工島だ。

 内海の向こう側にある東京とを繋ぐ海峡大橋があり、その両端には大型港湾施設が存在する。


 その内の一つ。学園島側には対ゲート、対インベーダーの専門的な対処を主とするアライアンスの組織──アストライアの本部があった。

 陸路や航路における関所としての役割を持つ関連施設の中にある本部ビル。

 内海を一望できるほど高所の会議室にて、複数の人物が円を囲むようにして議論を交わしていた。


 アストライア内外の最高決定権を持つ総司令を筆頭とした上層部。

 異世界関連の各事案に対応する班長などの中間管理職に就いた者。

 ゲート、インベーダーの直接的対処に当たる戦闘部隊のリーダー。

 そして。


「……以上が任務作戦名【ヴィンテージヒーロー】の経過、およびエクセラによって発生した複合型怪人の詳細になります」


 アストライアが誇る最新鋭のパワードスーツ“フレスベルグ”を生み出した、武装開発・生体研究者の権威である本郷タカシ。

 当人を総指揮官とする、小規模編成独立戦闘部隊“ニューエイジ”。

 そのリーダーたる如月マヨイは周囲の反応を見やり、ふう、と息を吐いて。

 手元の資料をテーブルに置きながら椅子に座る。


「……【ヴィンテージヒーロー】、あるいは夜叉が基本となる姿から三形態もの変遷を経て、インベーダーとの戦闘に及んでいるのは分かっている」

「もはやアストライアから進言するよりも自発的に、加えて意欲的に学園島の守護に回っているのもな。……むしろ捕縛に動く我らが批判されるほどに、だ」

「報酬も無しにそこまで出来る人間性は評価できます。が、依然としてレイゲンドライバーの窃盗にヤシャリクの不法使用は見過ごせません」


 自己保身的な思考が見え隠れする上層部の言葉。

 それに現場で対応している戦闘部隊のリーダー達が口を開く。


「かと言って変に接触して関係性を悪化させれば、夜叉がどう動くか分からんぜ? なんなら最近のネビュラス、エクセラ騒ぎでも大した被害が出てないのは、急行してる夜叉のおかげってのがあるからな」

「不甲斐ない話ではあります……事実、夜叉が駆け付けた事態で戦闘部隊の被害はゼロに等しい。民間でも建造物の倒壊や破損はあっても、死者はゼロ。総合病院、アスクレピアから命に別条のある者は報告されていません」

「しかし、レネゲイドによって無力化手段が増えたとしても、本来は我らが担うべき領分。夜叉が率先している現状は解決すべきです。それこそ先日の、複合型怪人の時のように……」


 各々が議題に上がっていた夜叉。名を変えた怪人化薬、エクセラ。

 方や諦めの境地に達したような、遅々として進まない任務作戦に嫌気が差したような物言いでぼやいている。

 方やエクセラによって複数発生した怪人の脅威。学園島内に広まりつつあるネビュラスの魔の手に対し警鐘を鳴らす。


 平時と変わらない会議内容に、船を漕ぐニューエイジのメンバー。

 地球人の門倉リンへ隣に座るダークエルフのネイバー、エイシャとマヨイは脇腹を同時に小突いて覚醒させる。


「ありゃ驚いたな? 毒ガスが蔓延する繁華街へ部隊を展開している中、急に夜叉が参上! しかも山のように逃げ遅れた避難者を抱えて来たもんだ。医療班を要請してる最中にも矢継ぎ早に持ってきやがるんだぜ?」

「あそこまで徹底した人命優先の動きは、配備されたパワードスーツでは出来ません。運搬時の衝撃で、負傷者を害する可能性が高いからです」

「出来るとすればフレスベルグ……安定性は、低いかもしれませんが」

「慣性制御の対象を広げれば既存のパワードスーツでも出来る。だが、出力が圧倒的に足りん……エネルギー切れは(まぬが)れんよ」


 戦闘部隊の愚痴混じりな夜叉への称賛。

 その流れが本郷博士に向かい、抱えている欠点について返答した。次いで、手元のタブレットを操作しホログラムを展開。

 表示された半透明のディスプレイを指差し、追及する。


「レネゲイド及びアストライアの全パワードスーツには、アダムスを使っている。装着者の神経に感応して性能・強度・密度を変化させ、多彩な環境に適応する性質を持つのは既知だろう?」


 だが。


「あくまで汎用的な、言い換えれば平均的で突出させないことで安定した性能の保持に成功している。そこからより特化させるにはフレスベルグのように、特別性の制御コアを装着せねばならんのだ」

「コア、というと……」

「“ラケシス”“クロートー”“アトロポス”……夜叉で言うところのアーティファクト、殺生石に当たる中枢部だ」

「それさぁ、俺らにも付けらんないの?」

「端的に言って無理だ」


 雑然とした会議室に湧いた疑問を、本郷博士は容赦なく切り伏せる。


「特別性と言った理由の一つに、制御コアの精製にはインベーダーの素材や魔核を大量に投入しなくてはならない。その内、重要となる魔核が夜叉に吸収されているのだ」

「ああ~……夜叉のヤツ、毎回魔核を抜き出しては砕いてんもんな」

「同時にアダムスとの親和性を高めるべく、徹底した管理とナノマシンの調整が必要とされる。フレスベルグの際は武装開発班のメンバーと共に実施したが、一つの制御コアに一週間も付きっ切りであった。……現状の激務と作業を平行するなど、到底無理だ」


 人材不足の嘆きと共に、本郷博士は上層部を睨む。

 ここ数年、そして春先における人事異動と再編成によって、その尻拭いにことごとく付き合わされているが故の無言の圧。

 矛先が向けられたと察した者達は、バツが悪そうに目を逸らす。

 言い返す気力も気概も無い。そんな弱腰な連中にため息を吐き、ホログラムを閉じて手を叩く。


「とにかく! 現在アストライアがやるべきはエクセラの断絶。裏でエクセラの波及に関与している組織──指定暴力団“真鬼里組(まきりぐみ)”若頭、龍崎カズマの逮捕。全ての混沌を招いている元凶、ネビュラスの壊滅だ」

「んまー、ここでいくら頭を突き合わせて話したって意味ねぇし。その辺のまとめが妥当だろうな」

「そして開発者の一人として誠に遺憾な意見ではあるが、夜叉に対してアストライアが有効打を与えられる手はない。敵の敵は味方……利用できる第三陣営として扱い、学園島と市民の保護に注力しよう」

「つまりはいつも通り、ってことね。上手いこと協力しましょうか」


 現場で働く実働部隊として、夜叉との共同戦線は好ましいものである。それぞれが明確な役割を持って事態の鎮圧に当たれるからだ。

 故に被害の抑制へ繋がっているのだが、上層部は不満に感じている。認識の差が生む軋轢の予感と暴走の兆しは、如実に現れていた。

 本郷博士の言葉で会議が終わり、弛緩した空気が漂う中。

 逆光が差し込み、表情の見えない総司令が誰に聞かれるでもなく呟く。


「──やはり、要請を出すべきか」


 寝ぼけ眼を擦るリン、その背を押すマヨイ、同僚の姿に呆れるエイシャ。

 三人を伴った本郷博士は、わずかな声に眉を潜めながら退室するのだった。


 ◆◇◆◇◆


「総司令の様子、妙だったな。いったい何を考えている……?」


 会議室から日差しに照らされた通路を移動。

 エレベーターへ乗り込み、本郷博士は顎に手を当て思案する。

 そもそも先ほどのような会議に本人が姿を見せるのは稀であった。大抵は報告書などで事後に把握し、各部署への連絡・対応に当たるのが常だ。

 今回も例に違わず、と思っていたが為に逐一(ちくいち)注視していた。

 特に議題へ言及するでもなく、会議の進行を眺めているだけだったが……その様が、なおさら気に障る。


「博士、先刻の会議で不審な点でもありましたか?」


 俯き、思考する本郷博士へ。

 ニューエイジのリーダー、如月マヨイが問い掛ける。


「いや、珍しい奴が会議の場にいたものだからな。どういう心変わりかと思っていただけだ。重要視するほどじゃない」

「珍しい……総司令のことか。言われてみれば、あまり印象に残っていない。それこそニューエイジの結成に際して挨拶をした程度ではないか?」


 エイシャもまた、二人のやりとりに参加し、自身の記憶を探って応える。


「当然だ。奴は日頃からアライアンスの本部へわざわざ出向き、学園島の状態を報告している。そもそもアストライアにいることの方が少ないからな」

「んぇー……アライアンスの、ってことはアメリカのぉ……?」


 眠たげながらも呟いたリンの言葉に、本郷博士は首肯。


「黎明期に功を焦ってゲートに手を出し、壊滅的な被害を受けた国の一つ。今でも大陸の三割がゲートとインベーダーに占領され、奪還できずにいる。そんな前線から離れた位置にある海上航行都市船“アーク・ノア”。……いわば学園島の前任とも言うべき本部に、無駄にっ、費用を費やしッ、足を運んでいる金食い虫! それが総司令だ……!」

「怨嗟が凄まじいな。何か嫌なことでもあったか?」

「自分だけ安穏な場所に出向いておきながら、あれをしろこれをしろと口だけは達者で世渡りが上手いだけの馬鹿だぞ? 現実を見ていない奴が、総司令の座に就いているのが腹立たしくて敵わん……!」

「お、おお……博士がそこまで言うのって、相当だね……」


 腹に据え兼ねた憎悪と恨みのオーラ。視覚化されれば、どす黒いナニカが本郷博士を包んでいるだろう。

 さしものリンといえど、その空気を当てられたことで眠気が覚めたようだ。


「まあいい。あんなお飾りでも、いないよりはマシだ。それより私達がやるべきは、会議で話した内容に加えて」

「──天宮司アキトの調査、ですね」


 その通り、と本郷博士は応えて。

 エレベーターの扉が開き、地下駐車場に四人は降り立つ。停車してある私用車へ向かう最中、こつり、こつり……と乾いた靴音が反響する。


「実習生として関わりを持つ君達にとっては、立場を利用するような形になるだろう。申し訳ない気持ちはある……だが、彼の存在がネビュラスにとって重要なのは間違いない。故に、調査は必須だ」

「彼を通じて緑川孤児院……院長であり、博士の実兄“緑川ヤナセ”に関する嫌疑も捜査する。……かなり困難な仕事になりそうだ」

「調査できるのが、私達しかいないからねぇ。かといって下手に情報を漏らせば、上層部がどう動くか分からないし」

「願わくば警戒されず、なるべく穏便な形で済ませたいところですね」


 怪人化薬の根幹に位置するネビュラスの関係者“志島カリヤ”が残した、かすかな情報源を頼りに。

 アストライアへ頼ることなく、本郷博士率いるニューエイジは独自の捜査を進めていた。


 天宮司アキトの書類に書かれた“最高傑作”の意味。

 謎にまみれた過去の経歴と今は無き緑川孤児院の詳細。

 か細く、手繰り寄せるには頼りない蜘蛛の糸でも、ニューエイジにとっては縋らなくてはならない(わら)なのだ。


 彼らは抱え込む困難と難題に改めて決意を固める。

 そうして私用車に乗り込み、アストライア本部を後にするのだった。

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