超能力者
時間にして数秒の空白。逃げる隙などありはしない。
事前にバイザーでも狙撃手の人影を確認し、補足していたのだ。
──にもかかわらず、夜叉が到着した狙撃地点に人の気配は無かった。
『……消えた?』
呆然とした呟きが屋上の風に攫われる。
夜叉の付近には、貯水槽に落下防止の二メートル丈はある金網。
開け放たれている屋上へ続く扉と縁に設置されている狙撃銃。
バイザーの表示をサーモグラフィに変更し、観察。狙撃銃へ寝転がるようにして、大柄の人間がいた事実に間違いは無かった。
『リク。周囲の生体・動体反応は?』
『感知範囲には引っかかっておらん。屋上への扉はブラフじゃな』
『魔力の残滓も無い……転移魔法でもないのに、どうやって……』
『夜叉!』
狙撃地点の簡易調査を実行していた夜叉の元へマヨイがやってくる。
彼女も夜叉のように周辺を見渡し、状況を把握。考え込むように腕を組み、次いでハッとしたように頭を下げた。
『メンバーを助けてくれてありがとう。おかげで怪我はしていないわ』
『気にするな、先刻に助けられた恩を返しただけだ。後でメンタルケアもしてやれ。……それでこの状況、ニューエイジとしてはどう見る?』
無防備状態のリンを救った礼に応え、夜叉は話題を切り替える。
『複合型怪人の脅威を退けた直後の奇襲。高所に加え、戦闘中に感知されなかったことを考えるに……下手人は事態収束直後、この場に現れて狙撃したと考えるのが自然だ』
『ですが、それでは私や夜叉のセンサーに検知されないのがおかしい。妨害装置を置いたとしても、私達でなくともアストライアが察知するでしょう』
『オレが来た時には狙撃手の姿は無く、この状態のまま放置されていた。周りに生命体、動体物の反応は無し……煙のように消えている』
『魔力の痕跡もありませんね。それでいて対物ライフルをここまで運ぶとなれば──手段は限られます』
『その手段とは?』
夜叉には見当もつかない手法を知るマヨイは、少しばかりの逡巡に視線を泳がせ、深く息を吐く。
次いで自身のバイザーに指先で触れ、スワイプ。直後に夜叉へデータが送られ、リクの計らいによって開示される。
『地球と異世界が繋がった影響は多岐に渡ります。その内の一つ……地球人でありながら魔法とは別種の、超常たる力を得た存在が散見されるようになりました。──アライアンスは、これを超能力者と呼称しています』
『超能力者……』
アライアンスの公的な文書や統計による確かな裏付け。
パフア校にも超能力者専用の学科があることを思い出し、夜叉は呟く。
『総数は地球人口全体で見ても、ごく少数です。ですが、世間では人であって人でないとされ、ネイバーと同じく差別や軽蔑の対象とされます。……学園島でそういった声は、あまり聞きませんが』
『率先してアライアンスが保護、あるいは観察処分。もしくは超能力の抑制訓練を受けさせている……そうだな?』
『周囲の環境に合わせ、異端と見られないようにしている方への配慮ですね。ただ、ここで重要なのは……』
『奇襲した狙撃手が超能力者であること、か』
『ええ、その通りです』
察した夜叉の言葉を肯定する。
『今回の奇襲を行った人物は、恐らくテレポーターの超能力者になります』
『空間転移か。能力者の中でも、かなり稀有なようだな?』
『学園島で確認されているテレポーターは片手で数えられる程度。しかもその方達は能力に制限があり、重量のある対物ライフルごと自身を転移させるのは不可能です』
『ならば、アテが外れたか……?』
『いえ、例外はあります』
推察に間違いがあったと考えた夜叉に、間髪入れず応える。
マヨイは彼と向き合い、すかさず新しいデータを送信。
『極秘の情報になりますが、貴方も知っておくべきでしょう』
それは先ほど話した真鬼里組若頭、龍崎カズマに関するものだった。
『狙撃銃に付着した指紋を調べれば、すぐに分かることかと思いますが。目下エクセラへの関与を疑われている彼は超能力者であり──世界有数の性能を持つテレポーターなんです。故にアストライアも警察も、今日まで捕縛には至っていません』
『奴が……厄介だな』
複合型怪人に留まらない混沌を撒き散らす、悪意の影。
目に見えぬ脅威の存在に、夜叉はため息交じりの声を漏らした。
◆◇◆◇◆
「は、はっ、はははっ……! 野郎、マジかよ!?」
足下をわずかに照らす、筒状の通路。
学園島地下に広がるジオフロント内に、男の笑い声が響く。
「あの距離で、気づくか!? 不意を打ったのに、防ぐか!?」
男の名は龍崎カズマ。
夜叉とマヨイの調査・考察の通りにリンを狙った狙撃手であり、空間転移能力によって難を逃れたテレポーターだ。
「前からとんでもねェとは思ってたが、直に見て改めて感じたぜ。アレが、これから俺を狙ってくるってのか?」
混合型怪人を囮にしてニューエイジの一人を殺す。
あるいは行動不能にする腹積もりだったのに、夜叉によって阻止された。
秘密裏に入手した高性能対物ライフルを喪失し、証拠も残してきてしまった……龍崎カズマの関わりは、疑いようもないだろう。
だが、そんな危機的状況にもかかわらず。
「ハッハッハ……ワクワクしてきたな……!」
彼はデタラメな強さを誇る夜叉の行動に、笑わずにいられなかった。
自身が今後、相手取るヒーローの存在に興奮せずにいられなかった。
「いいな、いいなァ……! もっと楽しませくれ、夜叉さんよォ……?」
真鬼里組はおろか自身の存亡すらベットする。
刹那的で享楽的な期待を第三者へ向けながら、龍崎カズマはジオフロントの奥へ奥へと姿を消していった。




