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悪意の予測

『作戦室へ要請します。至急負傷者の救護、繁華街の除菌および除染作業の人員を手配してください』

『了解した。現場付近のシェルターで治療に当たっている医療部隊を回す。ニューエイジはその場で待機し、近辺の危険個所をサーチしてくれ』

『分かりました~。といっても、見つかるかなぁ?』

『魔法のおかげで大体は浄化されているだろうが、念には念をだな』


 戦闘を終え、息つく暇もなく。

 マヨイは通信で本郷博士とやり取りを交わし、次いでリンとエイシャも指示に従い、行動を開始。

 フレスベルグを広域探査モードへ移行した二人を見やり、魔法師の元へ歩み寄る。彼は手にしていたカドゥケウスを路面に突き刺し、メタモルシードを引き抜いていた。

 神秘を纏うローブ姿が粒子と溶け、魔法杖は消失し、肉体は夜叉へ戻り──そして、よろめいた姿を見て駆け出す。


『夜叉! 大丈夫ですか!?』

『ああ……心配をかけてすまない。もう平気だ』


 しかし、それは一瞬のことで。

 夜叉は右手を握っては開き、調子を確認してから姿勢を正す。


『やはりヤシャリクの影響が出ているのでは?』

『いや、普通に疲れているだけだ。特に深刻な問題がある訳ではない』

『ええ……本当、みたいですね……』


 不安を与えない為に、気丈に振る舞っているようには聞こえない。

 少なくともマヨイはそう感じた。実際、夜叉の言葉通りであり、装着者であるアキトに疲労が蓄積しているだけだ。


『それより、怪人化した奴は無事か?』

『フレスベルグのスキャンで確認しました。負傷や毒の浸食は見られず、至って健康体。精密検査に回していない以上、断定はできませんが……』

『命に別条が無いなら、それでいい。……とはいえ、複合型怪人か』


 戦闘・演算能力の全てを転換して使用する、高性能な広域探査モード。各種武装は当然としてスラスターの噴射すら行使不可の形態。

 それを駆使して繁華街のサーチを行うリン、エイシャを見つめて。夜叉は先ほど交戦し、初めて戦った難敵を思い返す。


『エクセラの関与を疑う余地は無いが、脅威だな』

『はい。怪人化の元となった魔核の分離除去……持ち得る特性・能力によって順序を間違えれば、怪人本体もろとも失いかねません』

『だからとてヤシャリクの吸収能力では一気に、とはいかない。制御しなければ本体ごと吸い尽くし、死に至らしめる……故に手間が掛かる。再び出現すれば、今回のような工程が必須となるだろう』

『あるいはレネゲイドで魔核の同時除去……現実的ではありませんね』


 マヨイの提案は、叶うならばの理想形だった。

 しかし、複合型怪人の脅威はまさに経験した通り。別種のインベーダーの要素を汲み取り、生み出されたシナジーは学園島の区画を麻痺させた。

 今回は早急に鎮圧されたからよかったものの、時間を掛かれば間違いなく被害者が発生する。それはアストライア、夜叉の双方にとっても好ましくない。


『願わくば、そう易々と合成獣(キメラ)を増やさないでほしいものだ』

異質同体(キメラ)……言い得て妙ですが、その要求はエクセラを広めている組織に伝えるべきですね』

(くだん)真鬼里組(まきりぐみ)か?』


 方や漫画やゲームから。

 方や生物学的な見地から。

 夜叉とマヨイの双方で認識の違いが起きつつも、話題が移り変わる。


『今回の騒動。アストライアでは真鬼里組(まきりぐみ)若頭“龍崎カズマ”による衝動的な犯行だと想定しています』

『その心は?』

真鬼里組(まきりぐみ)は過去から現在に至るまで、こうも露骨なまでに表社会へ爪痕を残すようなマネはしてこなかった。それは現会長の悪辣な手腕と類まれな采配能力に起因しています。ですが……』

『龍崎カズマの暴走で杜撰(ずさん)なシノギとして現れ始めた、か』


 夜叉の指摘に、マヨイは深く頷いた。

 そしておもむろに耳元へ手を当て、インカム部分を操作。念話魔法を駆使したプライベート通信に切り替える。

 露見も傍受もされたくない情報を口にするが故の策だった。


【内密の話にはなりますが……既にアストライアと警視庁、両組織による合同調査が実行されようとしています。この機会に、真鬼里組(まきりぐみ)もまとめて龍崎カズマを検挙する腹積もりなのでしょう】

【なるほどな。……いらん世話だろうが、功を焦るなよ。下手に藪を突いて自棄を起こさせないように注意しろ】

【ネビュラスとの関係性を暴露している以上、馬鹿な手は取りませんよ】

【そうか。十分に気をつけてくれ】

【わかってます】


 公的に出せない諸々の情報を言い終え、マヨイはインカム部から手を離す。

 そのまま流れるような動作で、背部に収納していたライフルに手を掛ける。


『さて、定例文になりますが、アストライアまで同行してもらえますか?』

『……普通に話していてすっかり忘れていた。そうだな、夜叉とニューエイジはそういう関係だったな』


 小器用に出力設定を変え、非殺傷でありながら高出力の電撃を放つように。

 既に発射状態へ移行したマヨイへ、夜叉はわずかに空を見上げ、ぼやいた。


『思い出していただいてありがとうございます。返答は?』

『当然ことわ──待て』


 幾度となく交わされたやり取り。いつ通りの応答が来る。

 そう思っていたマヨイの眼前を夜叉の手が遮った。唐突な行動に対して、引き金に指を掛けていなくて正解だったと自賛する。


『ど、どうしたんですか?』

『ニューエイジ、避難者の解放はまだ始まっていない。そうだな?』

『え? はい。付近に毒性の物体が残留していないか、確認が終わるまでは待機してもらっていますが』


 問い掛けの答えを聞きながら、夜叉は意識を鋭く尖らせる。

 先ほど脳裏に走った違和感、あるいは直感とも言うべき閃き。

 ヤシャリクがもたらす感覚機能の拡張が、この場での不穏を察知させた。


『人の気配がする。数は一人。位置は……八〇〇メートル後方のビル屋上』

『それは、どういう……』

『あれぇ? なんか人の反応があるよ。なんであんな所に?』


 夜叉と同様の結果に至った、広域探査モードのリンが首を傾げた。

 その言葉を、夜叉の強化された聴覚は捉える。彼女は今、フレスベルグの機能が制限され、身動きが取れず防護機能も弱い。


 その場で振り返り、察知した位置を視認する。バイザーへ映し出された光景の中に……太陽光を受けて、光るナニカがあった。

 注視することでズームアップされたナニカは──人影と、狙撃銃だ。


『……っ!』


 狙いに気づいた刹那、夜叉は“天翔”で疾走。

 行く先は、狙撃銃とリンの間にある弾道予測線上。

 静止を求めるマヨイの声を振り切って到達した夜叉に対し、ビルの屋上で閃光が弾ける。音速を超過する弾丸は狙い違わず飛来する。


 ……だが、夜叉は腰に佩いたフツノミタマを抜刀。瞬時に振るった鈍色の刃は、超速の弾丸を切り払う。

 刀身を舐めるように割断され、逸らされた弾丸はアスファルトを穿つ。

 コンマ秒数の世界でおこなわれた超絶技巧によって、リンは救われた。


『あ……へっ? アタシ、今、撃たれ……?』

『先刻、助けてもらった借りは返したぞ』


 遅れて響き渡る銃声音に、リンは呆けた声を上げる。

 夜叉は特殊スワンプマンとの戦闘時に助けられた際の言及をして、即座に銃弾を放ったビルの屋上を睨む。

 太陽光のわずかなブレから狙撃手の動揺を感じ取った瞬間、両脚に力を込めて“天翔”を発動。

 マッハに迫る高速移動で間合いを食い散らし、下手人の元へ急行した。

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