脳筋かつ冴えたやり方
繁華街へと飛翔し、特殊スワンプマンとの戦線に参加したニューエイジ。
リーダーのマヨイは隊員のリン、エイシャを伴って夜叉の隣に並び立つ。
『ニューエイジ、援護感謝する』
『それはいいけど、棒立ちしてるなんて珍しいね。なんかあったん?』
先程の助太刀に対して感謝を述べると、マヨイは挟んでリンが問い掛けた。
いつもの夜叉であれば最善でなくとも、咄嗟に行動してリカバリーを取るはずなのに、と。言外に含められた意図を察して夜叉は息を吐く。
『あの怪人と、怪人がバラ撒いた毒の対処法を考えていた。思いついたはいいが、一人でやるには手数が足りず、少しばかり難儀していた』
『であれば、我らの登場は渡りに船という訳か。遅れはしたが、むしろ良いタイミングであったな』
リンの奥で事情を聞いたエイシャが頷き、特殊波形振動ブレードを展開。魔力エネルギーの刃が刀身を覆う。
墜落した汚泥が集積し、再び人の形を成そうとしている様を見据えた。
『奴が三つのインベーダーの要素を内包した怪人なのは把握してるか』
『ええ。アストライアの解析で判明しています。エクセラの中でも特別性の物によって変異した、混合型怪人であると』
『スワンプマンとアメイムにソゴスでしょ? 泥と毒と再生するヤツ』
『大雑把な認識だな……とにかくソゴスの魔核は排除した。残りも対処したいが、アメイムの毒が厄介だ。ヤシャリクの装甲すら溶かす』
『むっ? つまりはフレスベルグの耐久性もアテにならんのか?』
『そういうことになる。アブソーブシールドや障壁はともかく、体に直撃すれば皮膚ごと溶けるだろうな』
第三者から見れば怪人を前に何を呑気な、と叫ぶだろう。
事実、ニューエイジを支援するアストライアの作戦室からは、上層部からの理想論じみた要求が絶え間なく届いていた。
その全てをニューエイジの指揮官である本郷タカシ博士が通信を断絶。不必要なキャッシュ情報として、アストライアの統括人工知能ロゴスが削除していた。
加えて夜叉とニューエイジにとって現状は既に消化試合のようなものであり、そこまで深刻な問題でないと認識している。
故にこそ、突発的な協力体制にあっても作戦会議を続行していた。
『魔核除去の順序を間違えれば、残留したアメイムの毒に怪人本体が侵され、死に至る。ただ単にヤシャリクやレネゲイドで分離させるのは危険だ』
『保護の為に対処法を思案していた、と。私達は何をすればいいですか?』
『準備が終わるまでに時間稼ぎと怪人の拘束を頼む。決して逃走を許すな』
『そのくらいならお安い御用だ。故郷の森で何度相手したかも分からん泥人形に遅れは取らん』
『ところで、まだ聞いてないけど対処法ってなんなの?』
『魔法師の姿で怪人、繁華街全てを浄化する』
魔法師、繁華街全て、浄化。
常時であればなんてことはない単語の連発。にもかかわらず夜叉が言うには、不穏を感じざるを得ないほど自信たっぷりな物言い。
会話の裏で戦闘準備を始めていたニューエイジが、一斉に夜叉を向く。
『……安全、なんですよね?』
『信じろ。悪いようにはしない』
『メタモルシード“メイジ”、Active!』
『ちゃんと警告もする』
続け様に安心させる言葉を告げ、メタモルシードを起動。
流れるように殺生石へかざした夜叉に、ニューエイジは深くため息を吐いた。
『では旋回軌道を多めに。回避と一撃離脱を優先します』
『つまりはいつもの規範戦術だな。毒には注意せねばならんが』
『液体だし遠隔障壁で固めた方が楽かな~。アタシ、ライフルで牽制しよ』
ひとまず自分に任せられた仕事をこなすべく、スラスターの出力設定を変更。
軽口を叩き合いながら、復活した特殊スワンプマンの元へ飛翔。
スラスター噴出口の軌跡を空中に残し、円運動での交戦を開始した。
『順当に人手が増えてよかったの。それでも出撃したのが遅い気はするが』
『オレらが最速なだけで、ニューエイジも早いだろ。戦い始めてまだ一〇分も経ってないって』
幾重にも重なる管楽器の麗らかな音色に、発光するメタモルシード。
秘められた魔法の叡智を解き放つようにシフトバングルへ接続。腕時計に似た形状となり、激しく明滅を繰り返す。
『Advent! ヴァリアブルモデル、Ready!』
緑色の粒子が溢れ、螺旋を描き、次いでローブ姿のがらんどう──ヴァリアブルモデルが飛び出した。
身の丈ほどある錫杖を携えた巨躯の魔法使い。
それは夜叉の頭上に浮遊し、衣類の端から生じた炎に焼かれていく。
やがて無情にも魔法使いの全身に火の手が回り、灰は夜叉へ降りかかる。それは武者鎧の装甲と絡み合い、形状を変化させた。
極めて薄く、魔力伝導率を上げる為だけに特化したインナーアーマー。
軽装と呼ぶにもおこがましく、近接戦には向かない装甲の補助として、魔法使いの羽織っていたローブが覆い被さる。
右手には錫杖……魔法杖“カドゥケウス”が納められ、先端に付いた特殊機構“マギア・チューナー”を鳴らす。
そして真っ赤なマフラーは魔力制御の役割を持つスカーフへ。
先鋭的な兜の代わりにフードが下ろされ、バイザーの色味が紅から緑に。
全身を巡る魔力回路の接続を意味する光芒。
不要となった灰が各所から舞い散り──再変身が完了した。
『Reformation Override! メイジスタイル!』
『よし。リク、リフェンスに通信してくれ。聞きたいことがある』
『あいよ。あやつのことじゃし、すぐに出るじゃろ』
眼前で特殊スワンプマン相手に被害を広めず戦うニューエイジ。
聴覚機能の拡張によって捉えた、繁華街の外れで空を飛ぶ放送局のヘリ。
空間認識を以て周辺の状態を把握した上で、リフェンスへ傍受されないよう細工した通信を送る。一度目の呼び出し音を遮って、聞き馴染みのある声が響いた。
『はいっ、こちら悩める若人の相談者、リフェンスでございまァす! お困りの事情で気軽にご連絡いただき、ありがとうございまァす!』
『うわっ、うっとおしい』
『そっちから掛けといてひでぇ物言いだな!?』
耳元でやり取りし合う二人の会話にため息を吐き、アキトは話題を変える。
『リフェンス、テレビのニュースは見てたか?』
『お前はお前でばっさりだな。……繁華街に毒の霧が蔓延してるせいで、報道局のヘリが遠巻きに撮ってる映像なら見てるぜ?』
『なら相手をしてる怪人のアタリもついてるな?』
『スワンプマンだろ。しかも毒に無尽の泥じゃん? 別種のインベーダーが混ざってるな。そんでメイジスタイルに再変身して俺に連絡した……なら、聞きたいのは毒の除去と浄化方法……つまりは、魔法だな』
『話が早くて助かる。さらに確認したいのは、オレの仮説が合っているか』
『ほーん? どんなんだ?』
興味津々といった、面白がる声音のリフェンスに。
これまでの戦闘で察した特殊スワンプマンの弱点、および突破口について簡潔に打ち明けた。
その片手間に、カドゥケウスの石突きでアスファルトを叩く。
先端のマギア・チューナーが軽やかな音叉の如き音色を響かせ、大気中の魔素、魔力を一瞬にして掌握。夜叉の周囲に収束し、外付けの魔力タンクと化した。
『──とまあ、こんな感じ。どう? 合ってる?』
『大正解だ。一〇〇点やる……代わりに、望み通りの魔法を伝授するぜ』
『傍から聞いておったが、そんな都合の良い魔法があるのか? 儂ですら複雑で冗長な魔法は行使が難しい。イメージが重要と言えど、それはメイジスタイルにも言えることだというのに』
『おいおい、舐めんなよ? あるわけねぇだろ』
『ないんかい!?』
リクの落胆した声に呼応して、含むように笑ってから。
通話越しにも肩を竦めた仕草を想像させる口ぶりで。
『そうだ。無いから……今、ここで作るんだ。ようはアドリブだな』
『出来るのか?』
『もちろんだ。……通話はそのままにしろ。俺が先に術式構成文を言ってやるから、練り上げた魔力に叩き込んでやれ。ちゃんと、イメージは強固にしてな』
『ありがとう。頼んだ』
伊達に一〇〇数年も生きちゃいない。
エルフ族のネイバーにしては若手に分類される年齢でありながら、口癖のように言ってのけるだけの自信と実力。
頼りがいのある友人の助力に感謝しながら。
魔法師は殺生石を一度、二度と叩き、カドゥケウスを上段に構えた──




