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非日常は突然に

「それじゃあアタシは仕事に戻るから。二人とも、気を付けて帰ってよ?」

『分かっとるわい。昼メシ、感謝するぞ』

「ごちそうさまでした、マシロさん」

「いいってことよ。じゃあね~」


 ありがたくも、マシロさんの奢りによって中華料理に舌鼓を打った後。

 店先に出て腕時計を確認した彼女が仕事場に戻っていく背を見送って、オレとリクもアスクレピアの地下駐車場に移動する。


「中華はどうだった? 好みな料理、あった?」

『チャーハン、シュウマイ、ホイコーロー、肉まんに小籠包やら食ったが……普通に全部美味かったわ。めっちゃ魔力エネルギー回復したし、もしかして効率ええんか?』

「今まで試したことなかったもんな……薦めてもいらない、興味ないとか言って断ってたし。その割には必ず食卓にはつくし」

『や、やめよやめよ。気丈に振る舞っとったのが恥ずかしいじゃろうが! ……まあ、今後はお主さえ良ければ、メシを食うのも(やぶさ)かではないな』

「きっと姉さんも喜ぶ。ポラリスのカレーも絶品だから、次に行った時は食べてみようよ」

『うむ。……むふふふ、楽しみが増えたのぅ』


 収納魔法で保管していたヘルメットを取り出し、それぞれ被ってから。

 流線型のカウルに青、白を基調としたカラーリングが映える大型バイク、アクトチェイサーに跨る。

 エンジンキーを回し、腹の底に響く暖気と吸入される魔素が調和し、すぐさま走行可能な状態へ移行する。


『さて、そんじゃまどうするかの? ヴィニアの終業時間が十五時頃じゃろ? 今は十三時前後じゃし、どこで暇を潰すとするか』

「家に帰るのは二度手間だし、かといってポラリスは開いてない。合鍵は渡されたけど、わざわざ店の中で休むのも……ん?」


 今後の予定を立てようとした瞬間。

 左腕に装着していたシフトバングルに通信が入った。

 それは、上空から学園島を監視・哨戒している鳥型のガジェット。フギン・ムニンと名付けられた渡り鳥たちからの報告。


 ゲート発生にはブルーサイン。

 突発的なインベーダーの出現にはレッドサイン。

 しかしシフトバングルが示したのは、どちらでもないイエローサイン。

 怪人化薬を行使した者を察知する能力によって、自律型の知能がもたらしたのは──怪人の発生、その予兆だった。


「リク!」

『あいよ! しっかり掴まっとれい!』


 スロットルグリップを捻り、ギアをチェンジ。

 急発進したアクトチェイサーは地下駐車場を一瞬で飛び出し、道路を疾走。

 シフトバングルと同期された液晶画面に座標地点が表示され、リクはその場所に向けて進路を変更した。


『この位置は、繁華街か! 示し合わせたようなタイミングで……!』

「休日の、こんな時間に怪人が暴れたら、被害がとんでもないことになる! さっさと制圧するぞ!」


 学園島内に張り巡らされた高速道路へ突入。

 時速一二〇キロを超えた風圧に掻き消されないよう声を張り上げる。


『分かっとるわい! じゃが気を付けろ、お主は既に今日、一度変身しておる! 一日に二度の変身は、いかにお主と言えど相当の負担が掛かる!』

「理解してる! でも、アストライアが出動するより早く動けるのはオレ達だ! 気張っていくから、情報支援を頼む!」

『まったく世話の焼ける……!』


 そんなやり取りを交わす最中に、目的の座標が近づいてきた。

 同時に、リクが隠蔽魔法を展開。アクトチェイサーの周囲がぐにゃりと湾曲し、走行車や人の目、電子機器にすら映らなくなる。


『アキト、手を取れ! このまま変身するぞ!』

「分か──リク、前!」

『ッ!?』


 今こそレイゲンドライバーに変換しようとした直前に、放物線を描いて黒い何が飛んできた。

 リクの急ハンドルでなんとか回避したものの、落下地点を振り返れば、猛スピードでアスファルトが溶けている。

 不気味な色味の煙が噴き出し、空気を汚染。

 辺りを見渡せば、同じような状況に陥っている地点がいくつもあった。


「なんだあれ。腐って溶けた……毒か!?」

『恐らくは怪人の体液か体組織によるものじゃろう。いずれにせよ、放っておく理由が増々無くなった!』


 リクの手を取り、体が粒子へと溶けていく。

 自動運転に切り替わったハンドルを握り締め、次第に構成されたレイゲンドライバーをへその下に押し付ける。直後に、法螺貝のような待機音楽が鳴り始めた。


『Get ready?』

「変身!」


 空いた片方の手でマギアブルを操作。

 特定コードを入力し、無機質な機械音声に応え、押し込む。


『Warning! Warning! Warning!』


 警告音と同時に、殺生石から鎧武者のヴァリアブルモデルが飛び出す。

 空中を踊るように舞い、フツノミタマを抜刀。隠蔽魔法を越えて、飛来してくる黒い物体を次々と両断。

 魔力エネルギーによって焼かれ、着弾することなく灰と化す。

 周辺の無事を確保した鎧武者はおもむろに自身の腹へ刀身を当て、引き裂く。


『Life threatening Artifact! Please stop!』


 黒いモヤとバラバラになった各部位の鎧が体に纏わりつく。

 インナー、武者鎧、ロングコートと展開。次いで首元を赤いマフラーが覆い、アクトチェイサーの風になびく。

 先鋭的なデザインの兜、紅のバイザーが降り、フツノミタマが腰に下げられ──変身が完了した。


『コンプリートじゃ! 体の調子はどうだ、アキト?』

『変身したばっかでまだ分からない。……自覚してないだけかもしれないけど、それならそれでとっとと片付けるぞ』

『了解じゃ!』


 ドライバーからの通信を経由して、問い掛けてきたリクに応えつつアクトチェイサーのアクセルを回し、ギアを最高速にチェンジ。

 道路工事中の転落防止柵を強引に突っ切って。

 リクの収納魔法でアクトチェイサーを仕舞ってもらい、飛び出すように“天翔”で駆け出した。

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