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救いの手は、打算的に

 病室にやってきた作業服姿のマシロさん。

 彼女こそがシャリアの退院後、後見人として手を挙げた者だそうで。どうやら本業の方でまたもやアストライアに呼び出されていたらしく、業務をこなす傍らにシャリアの様子を見に来たようだ。


 そこでオレとリクがいることに気づき、驚愕。

 派手に騒いだせいか。ナースセンターから爆速でやってきた看護士に怒られ、肩を竦めた彼女を室内に招き入れて、互いの状況を打ち明けることにした。

 自前で持ってきた焼き菓子を口に含みながら、マシロさんは耳にした内容を順序良く組み立てていく。


「休みで暇だからシャリアちゃんのお見舞いに来院。そこに丁度よく様子見に来たアタシと鉢合わせた、か……なるほどねぇ。偶然とはいえ、出会うとは思わなかったからびっくりしちゃったよ」

『まあ、基本的に姿を見せん儂がおったのも混乱の元よな』

「そう、それもある。すんげぇ美人いるんだけど? あれっ、リクちゃんか? ってなった。いっつも着崩した和服姿だから新鮮だねぇ」

「姉さんの私服をマネして、まともな格好してくれてよかったよ。あの姿でアスクレピアに来てたら警備隊に捕まってたはず」

『えっ。儂って痴女か何かだと思われとるの?』

「むしろなんだと思ってたの?」


 お見舞いに持ってきた焼き菓子とは別に、個人的に持ってきた物をシャリアにあげながら、マシロさんは首を傾げる。

 もうすぐお昼ご飯だから、と丁寧に断っている光景の横で、リクは不貞腐れたように頬を膨らませた。


『リフェンスには好評なんじゃがなぁ……』

「エロとエッチとスケベに思考が染まってるリフェンス君の発言は参考にならないよ。パフア初等部に所属してるだけの成人男性だからね? あの人」

「毎日、女の先生に話しかけては魔法でお仕置きされてるしな……」

「前に来てくれたエルフ族の人だよね? まともそうに見えたけど……」

「「『そんなことはない』」」


 満場一致の意見にシャリアは仄かに笑みをこぼした。


「そういえば、マシロさんはどうしてシャリアの後見人になったんです? 面会の繋がりを作ってくれたのはなんとなく把握してるんですけど」

「んん? 特にこれといった理由は、まあ、あるけど……」


 クッキーを溢さないように一口で平らげながら。

 マシロさんは病室の白い天井を見上げて、しばらくしてから口を開く。


「間接的とはいえ一人で頑張ってきたことを知って、身の上話も聞いた。既に私達と関わりを持ったことが、何に作用するかも分からないし。その時点で“はいさようなら”ってのはちょっと、気分的に良くないからねぇ……」


 短期間でネビュラス、アストライアと立て続けに組織から狙われた身。

 加えて夜叉と接触した対象として見られれば、現在はよくとも、今後がどうなるか予想できない。

 マシロさんなりにシャリアのことを考えた上で、可能な範囲で保護する為に後見人として手を挙げたようだ。

 理由に納得し、頷いた先で。

 おもむろにオレの方を見てから、マシロさんはにやりと笑う。


「それに、直近で“助けられる人は助けたい”なんて。覚悟と熱意を聞かされた身としては、どうにかしてあげたいと思ったのよ。いわばアタシのエゴ……自己中な考えね」

「でも、そのおかげでシャリアと一緒にいられるのは嬉しいよ。なんだかんだ、気に掛けてた相手だからさ」

「まっ、君ならそう言うだろうねぇ。……アキト君にリクちゃん、リフェンス君もいれば、少なくとも寂しい思いはさせない。失ったモノは取り戻せないけど、背中を支えて一緒に歩くくらいは出来る。だから安心してね?」

「っ……はい。改めて、よろしくお願いします」


 マシロさんの決意表明にも似た、頼もしい宣誓に。

 シャリアは涙ぐみながら声を上げ、長い付き合いになる彼女と手を結んだ。


『お主らが互いに納得しているなら儂は何も言わんよ。ただ……後見人となるだけの余裕がマシロにあるのかぇ? ただでさえ、日頃から多忙の極みとしか言えん環境に身を置いているいうのに』


 短く息を吐いて、リクはマシロさんへ問い掛ける。

 オレも少しばかり考えていたことを、ストレートに聞いてくれて助かった。


「そこはご心配無用! 最近忙しかったのは、夜叉の性能解析と新武装開発に力を入れていたから。しばらくは考えてないし、逆波モーターズとアストライアの方に集中できるので問題なし!」

「そういう事情だったんです? なんかすみません……」

「いーのいーの。めちゃくちゃ為になったし、面白かったし! そんでシャリアちゃんの住まいはポラリスになるから、面倒を見るのは楽っちゃ楽。しかも従業員として手伝ってもらうつもりでいるから、社会的な信用や金銭的な問題も解決済み!」

『閑古鳥が鳴いとるポラリスの手伝い程度で賄えるかぁ?』

「あっはっはっは……ここだけ、の話なんだけどね?」


 マシロさんはわざとらしく豪快に、けれど乾いた笑い声の後に。

 手を招いて三人の顔を寄せるような仕草を見せる。オレ達は顔を見合わせてから、内緒話をするように集まった。


「実は、夜叉の時に収集してもらったインベーダーの素材を売って、収益があるって言ったじゃない? 諸々の消費先に分散して無くそうと思ったんだけど……予想してたよりも手元に残っちゃって」

「えっと、それだと問題があるんですか?」


 特に障害となることではないような、と。

 オレも同じように考えていたのだろう。シャリアはマシロさんの方へ聞き返し、対して彼女は苦虫を噛んだような表情を浮かべて。


「シャリアちゃんはまだ地球側の事情に詳しくないと思うけど──異世国勢税局捜査部、通称“イセマルサ”っていうのがこっちには設立されててね」

『あ? お主、まさか脱ぜ……』

「滅多なこと言わないのっ! それでね、インベーダーの素材で得た利益や利潤が過度に多いと目を付けられちゃう。それを解消する為に扶養とか後見人の立場を利用して、シャリアちゃんの資産にしちゃおうって考えたの」

『シンプルに犯罪スレスレじゃろ!? マジで言っとんの!?』

「悪いようには絶対ならないから安心して? その為に何度売却先や銀行口座を経由したと思ってるの」

『~~~っ。共倒れはごめんじゃぞ……?』


 何やらリクは事態を把握しているらしく、かなり焦っているようだ。

 シャリアは理解が追いつかないのか困り顔だし、オレもよく分からないから説明できない。イセマルサってなんだ……?

 疑問が解消されないまま、マシロさんは近づけていた顔を離して手を叩く。


「とにかくっ! シャリアちゃんには働いた分のお給金を支払うし、それでも足りない分は口座に振り込んでおくから!」

「は、はあ……ありがとう、ございます?」


 理解が追いつかず、とりあえず感謝を述べる。

 その様子にマシロさんは満足そうに頷く。


「あとは……彼女が持つ魔法知識や察知能力は、エルフ族のリフェンス君に引けを取らない。その力を持て余すのはもったいないから、落ち着いた頃合いでパフアの高等部へ編入してもらう手筈なの」

「そうなのか?」

「うん。ポラリスで働くだけじゃ、地球に慣れるのは難しい気がして。だったらアキト君のいるパフアに編入したらいいよって、言ってくれたから」

「元々頭が良い子だし、さっきも言った通り魔法分野に長けてるからね。その方面でパフアに入ってもらうよ」

『じゃが、パフアは曲がりなりにも進学校相当の学び舎。周囲に追いつくのは相当厳しいんじゃないのか?』

「試しにテストを受けさせたら歴史とか数学は五〇前後で、それ以外は九〇点台だったよ。ノー勉強でこれだから、少し予習すれば点数は安定するんじゃないかな」

「すげぇ!?」


 ただでさえ難しいパフアの、しかも高等部のテストを受けて高得点を取れるなんて……本当に頭が良いんだな。

 勉強が苦手な身としては羨ましい。そんな視線を受けて、シャリアは恥ずかしげに顔を赤らめ、伏せてしまった。


「でも、そっか。パフアで一緒に過ごせるんだ……楽しみが増えたな」

「うん。その時が来たら、よろしくね?」

「ああ。初等部と高等部じゃ校舎は違うけど、オレは気にしないから。絶対に会いに行くよ」

「冷静に考えて、自分にとってアウェーでしかない学年へ入り浸るってどんな根性してるの?」

『リフェンスからの又聞きじゃが、こやつはいつも平然と、質問したい上級生がいる教室へ入るようじゃぞ?』

「怖いもの知らず過ぎない?」


 ふとした出会いから繋いだ縁によって、新しい仲間であるシャリアを迎え入れることになった。

 病室に入り込む柔らかな風が祝福しているようで、自然と笑みがこぼれる。そして面会時間が迫るまで、オレ達は他愛もない歓談を続けた。

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