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更なる脅威、エクセラ

 学園島、居住区画の一つ。

 日差しの下で、不釣り合いな黒煙と破壊の轟音、悲鳴が響き渡る。


『きひひ、きひひひっ!』


 暴れ回るのは人の身でありながら、インベーダーの力を身に宿した怪人。

 人類の革新を謳うネビュラスが開発した、怪人化薬によって変化した者。天然でなく、養殖の存在。

 相反するインベーダーの力に蝕まれながらも、人類に仇なす本能に従い、惨劇を広めようとする。


『ひゃははっ! この力があれば、気に入らねぇ連中ぶっ殺せるぜ!』

『こんなフザケた世の中、おれらが壊してやろうや!』


 加えて、怪人はただ一人ではなかった。

 様々な虫の特徴を身に宿す者“インセクター”。

 堅牢な氷に包まれた鎧姿の者“アイスレイジ”。

 樹木に顔面が付いた奇怪な者“トレブラント”。

 一体だけでも都市が壊滅する災害と称される特位インベーダー。その力を持つ者が三人、居住区を蹂躙しようとしていた。


『おいおいおいっ! バケモンが三体とかマジで言ってんのか!?』

『戦闘部隊各位、配置に付け! 一体たりともシェルターに近づけるな!』

『生きて帰りてぇなァ! 帰れるかなァ!?』

『無駄口を叩かないで撃て撃て撃て!』


 煙と火が立ち込める中、アストライアから出動した戦闘部隊が応戦。

 戦闘用量産型パワードスーツを着込み、専用のライフルで武装した彼らの弾丸は、並のインベーダーであれば容易く制圧できる。

 しかし相手は特位。

 放たれる弾丸は避けられ、氷で止められ、木々で絡め取られた。加えて、ついでと言わんばかりに、お返しの攻撃は戦闘部隊を紙切れのように吹き飛ばす。


『ひひひッ! その程度かよアストライアッ! とんだクソ雑魚だぜ!』

『お前らじゃ相手になんねぇよっ! さっさとつえーの連れてこいよ!』

『もしくは何人か殺せば、もっと必死になんのかァ? 例えばぁ──そこで逃げ遅れて隠れてる、親子とさァ!』


 避難用シェルターに向かう人波から外れ、戦闘区域に残された者。

 足を挫いてしまったが故に、母と娘は息を殺して潜んでいた。だが、インセクターの感知能力によって察知されてしまったのだ。


「っ、逃げるよ!」

「う、うん!」


 咄嗟にガレキから駆け出して逃走を図る。痛みすら気にならないほどに、渾身の力を奮って。

 されどインセクターは翅を振動させた。ぶわっと放出され、纏った鱗粉が意志を持つかのように飛来する。


 それは母娘の近辺にある建物へ着弾。一瞬の爆縮の(のち)、炸裂。

 爆音に続いて破壊された窓ガラスや看板、建物の一部が落下する。


 怪我をしていては走り抜けられない。間に合わない。せめて子供だけでも。

 迫り来る死を見上げ、母は咄嗟に娘を守ろうとした。そんなことをしたところで、超重量の落下物がもたらすのは凄惨な死のみ。


 怪人たちは下卑た笑みを浮かべる。

 倒れ伏す戦闘部隊は声を上げ、軽傷者は走り出す。

 それでも、無情にも、哀れな母娘は血の染みとなるのは避けられない。

 最悪の光景が脳裏をよぎる。無力さとやるせなさに、誰もが顔を歪ませる。


『Reformation Override! ナイトスタイル!』


 その瞬間、差し込まれた機械音声が鳴り響く。

 誰もが周囲へ目を配らせようとした時、親子の元へ紅の閃光が(ほとばし)る。

 戦闘部隊、怪人が目撃したのは……紅のマントをたなびかせ、青いバイザーでこちらを見据えながら、盾を構える騎士の姿だった。


 夜叉、いや騎士か!

 部隊の何人かが叫んだ直後、騎士は構えた大盾の“イージス”で落下物を弾き、ことごとく粉砕する。

 衝撃を吸収し分散させる能力によって分子レベルで崩壊し、塵と化す。


「……あ、あれ。わたし、生きて……っ!?」

「おかーさん! ねえ、夜叉だよ!」


 轟音の割に、いつまでもガレキの衝撃がやってこないことを不審に思い、顔を上げた母娘は騎士を目の当たりにする。


『救助が遅れた。怖い思いをさせてすまない』

「い、いえ! あの、助けてくださって、ありがとうございます……!」

「ありがとー、夜叉!」

『受け取っておく。それより、シェルターまで逃げられるか?』

「はい、大丈夫で……いつっ」


 避難を促す騎士の前で母親は気丈に振る舞うも、足の怪我は悪化していた。

 騎士のバイザーにも詳細は表示され、歩くことは困難だと判断。即座に腰のベルト──レイゲンドライバーに備わるアーティファクト、殺生石を叩く。

 溢れ出た魔力エネルギーがイージスに纏わりつき、淡い膜のような物を作り出す。それを母娘の傍に突き立て、簡素な結界とした。


『すぐに安全を確保する。恐ろしいかもしれないが、それまで盾の後ろに隠れていてほしい。身を乗り出すな』

「わ、わかりました……!」

「頑張ってね、夜叉!」


 応援を受け取り、手を振って応えながら歩き出す。

 騎士は左腕のシフトバングルからメタモルシード“ナイト”を取り外した。

 全身を覆うフルプレートアーマーが弾け、騎士のヴァリアブルモデルが溶けだし、姿を変えていく。


『おいおいおいっ、かっこつけのバカが来たぜ?』

『やっちまうか? やっちまおうぜ!』

『ここで殺せば、おれらの株が上がるってもんだよな──』


 安易な勝利を確信したインセクターの声が途切れる。

 遅れて感じた、凄まじい突風と強烈な破砕の音。

 直下で鳴動した揺れは、夜叉へと戻り“天翔”で加速し、浮遊していたインセクターを踵落としで埋没させた為に生じたもの。

 首から下を地面に埋めたインセクターは力無く首を折り、意識を落とす。


『はっ? なんだそ──』

『再変身』

『Reformation Override! メイジスタイル!』


 続いてメタモルシード“メイジ”によってヴァリアブルモデルが出現。

 憑依するように魔法師へ変化。同時に生成された錫杖“カドゥケウス”の先端に備わる機構。音を媒介にする“マギア・チューナー”をアイスレイジの脇腹に突きつけた。

 見た目に硬く、緑のバイザーに映る情報も証明していたが故に。


『”震え 乱れ 打ち砕け“』


 魔法でのダメージが有効であると把握した魔法師は、肉体を内外から破壊させる衝撃魔法を詠唱。甲高い吸気音に合わせ、氷の装甲にヒビが走る。

 乾いた息が漏れ、よろめいたアイスレイジの脚をカドゥケウスで払う。

 容易く態勢を崩したアイスレイジに向けて、魔力付与によって強化された棒術の打撃を空中で叩き込み、最後に石突きで突き飛ばす。

 ビルの壁面にめり込み、アイスレイジはぴくりとも動かなくなった。


『こ、こいつ、一瞬でふた──』


 悠長に話したかと思えば、自身もやられると理解したのだろう。

 トレブラントは自身の根っこを地中から伸ばし、魔法師へ攻撃を仕掛ける。しかし“マギア・チューナー”によって無詠唱のまま、展開された土塊の巨椀が全てを打ち払う。


『再変身』

『Reformation Override! シノビスタイル!』


 自動で迎撃する土塊の巨椀に防衛を任せ、魔法師は姿を転身。

 新たなヴァリアブルモデルが憑依し、鎖帷子(くさりかたびら)を思わせる装甲に数々の暗器が特徴的な忍者へ。紫のバイザーと赤い面頬が装着される。


 そのまま殺生石を一度叩き、腰に佩いた二振りの短刀“オボロ・ウタカタ”に魔力エネルギーを展開。風に紫電を混じらせた双刃を接続し、振り向きざまでトレブラントに放り投げる。

 大型の手裏剣と化した荷電粒子体は寸分たがわず直撃し、土塊の巨椀ごと球状の力場に呑み込んだ。


『が、ああああああああああッ!?』


 身を焦がし、焼き尽くす暴虐の嵐を耐えるトレブラントに忍者は接近。

 体の各所に備え付いた“天翔”の発展形加速機能“飛天”によって、プラズマを避ける離れ業を披露しながら、超高速の肉弾戦を開始。


 一方的な破砕と圧倒的な暴威は、瞬く間にトレブラントの体積を減らす。

 炭化した木材とガラス化した土塊を殴り壊しながら、忍者は最高速の一撃で幹をへし折る。

 ミシリ、ゴキリッと嫌な音を立てて、トレブラントは泡を吹き倒れた。


『すっげ……』

『マージかよ。早すぎんだろ』

『さすがは夜叉、といった所だな』

『くそぅ、黙って見ているしか出来なかった……!』


 多様な反応を見せる戦闘部隊の声を拾いながら、致命的な負傷を受けた者はいないと確認。

 忍者はメタモルシード“メイジ”を抜き取って、再び夜叉へ戻る。


『馬ァ鹿がァ! 背中をみせてんじゃねぇよ!!』


 ──それを隙だと勘違いしたのだろう。

 意識を取り戻したインセクターが地中から脱出し、飛翔のまま強襲を仕掛けようとしていた。

 それを知らずにいた夜叉ではない。刀型の金属製ブレード“フツノミタマ”に手を掛け、いつでも抜刀できるように構えていた。

 だが、夜叉は脱力するかの如く構えを解き、怪人化を解くべくアイスレイジの元へ歩き出した。


『余裕かァ!? フザケやがって!』

『粋がってもいいが、周りはよく見ろ』


 ああ!? と怒りに顔を染めたインセクターの背後に衝撃が走る。

 雷撃だ。耳朶を焼く高電圧の一撃で、まるで蚊取り線香で落ちるかのように。インセクターは二度目の失神を経験し、墜落。

 その傍に、三つの飛行体が着地する。


 回路のような線が目立つ装甲に物々しい武装ユニット、思考を反映して動くスラスター、周囲の認識を阻害するバイザーなど。

 アストライアにおける最新鋭のパワードスーツ。

 名をフレスベルグという専用の物に身を包んだ、三人編成の戦闘部隊“ニューエイジ”が舞い降りたのだ。

 その内の一人、門倉リンは夜叉を視界に納めると自身の頭を抱えた。


『あ~んもうっ、夜叉より出遅れた!』

『相変わらず早いな……急行する速度は見習わねば』

『反省は後ですよ、二人とも。夜叉、状況は?』

『お前たちが仕留めた怪人で最後だ、他に敵影はいない。重傷者もいないが、民間人が二人いる。怪我をしているので救護を頼む』

『分かりました。エイシャ、お願いできる?』

『任されよう』


 ニューエイジのリーダー、如月マヨイへ簡潔に情報伝達。

 聞き終え、イージスの後ろで身を隠していた母娘の元へエイシャは飛行する。その様子を横目に、夜叉はアイスレイジをビルの壁面から引っ張り出した。

 首根っこを掴んだまま吸収能力を発動。手から腕、腕から胴体、殺生石へとインベーダーの要素を吸い尽くし、人体と結晶化した怪人の虚像を引き剥がし、握りつぶす。

 ガラスが砕ける乾いた音の後、虚像が散りとなり、風に流れていく。


『そちらも無力化できる手段を手に入れたのだろう? そこに転がっているウドの大木で試せばいい』

『ウドの大木っていうか、黒焦げのベーコンみたいになってるけど』

『インベーダーの再生能力が無ければ致命傷ですよ……』


 夜叉の指摘を否定することなく、マヨイとリンはフレスベルグ用に調節されたパラボラ型の照射機材“レネゲイド”の光線を放射。

 虹色の光線をトレブラントへ浴びせかけること数秒。夜叉の時と同様の現象が発生し、結晶化した虚像が現れる。

 マヨイはレネゲイドを仕舞い、返すように展開した特殊波形振動ブレードで虚像を両断。別たれた結晶体は自然に朽ち果て、全裸の男性が残った。


『……ちっさ』

『やめなさいっ、リン。はしたないですよ』

『それにしても、最近は複数体で怪人が出現する傾向にある。それも頻繁に、だ。何が起きている?』


 夜叉はニューエイジが撃ち落としたインセクターの吸収を済ませながら、近日になって多く見られる状況についてニューエイジに問い掛ける。

 ゲートや野良インベーダーの関与はなく、今回のように複数の怪人化した人物が現れる機会が幾度かあったのだ。その疑問は当然と言えよう。


 本来であれば夜叉は捕縛対象であり、間髪入れずに手錠を掛けるべき相手。だが、マヨイは投げかけられた問いに答えることを優先した。

 それだけの信用と信頼が、夜叉にはあったのだ。


『どうも秘密裏に怪人化薬を売りさばいている組織がいるようです』

『その口振り、ネビュラスとは別か?』

『情報班はそう考えています。ネビュラスに直接繋がるような証拠を残さない為に、何らかの組織を仲介して怪人化薬を広めているとか』

『先に捕まえた連中は麻薬──エクセラっていう名前にしてるのを買い取ったらしいね。新しい自分に生まれ変われるっていう触れ込みで』

『多幸感と優越感を与えるのは間違いないからな。彼我の実力差も見極められず、勝てると思い込んで向かってくるほどには』

『いや、それは君が強いだけ……』


 嘆かわしそうに真っ赤なマフラーを弄る夜叉にリンは呆れる。

 ともかくとして、ネビュラスの子飼いとなった組織の有無に、エクセラと名を変えた怪人化薬。

 ついに自らの構成員だけでなく、民間人や荒くれ者を対象として手を広げ始めたようだ。このままではいずれ、学園島は無秩序の楽園と化すのは目に見えている。


『まったく厄介だな。良き隣人が疑うべき対象となるのは』

『ええ、本当に。ですが既にアストライアでは怪人化薬の成分から、エクセラを所持している人物の特定が出来る機材の製作に着手しています』

『上手くいけばケーサツなんかにも贈与して、パトロールの強化をしてもらうよう申請するってさ』

『なるほど……そちらはそちらでやるべきことをやってくれ。こちらも後手に回らないよう対応していく』

『分かりました。お互い、警戒しましょう』


 アストライアの現場処理班が到着し、検証機材の搬入や負傷者の処置に回る人々を眺めながら。

 夜叉とニューエイジは、激化していく怪人化薬にまつわる騒動を予感し、気を引き締めるのだった。











『──ところで話は変わりますが、捕縛される気はありませんか?』

『それはそれ、これはこれ。そんなつもりは毛頭ない。さらばだ』

『えっちょ……ああっ、くっそ! 速いんだよいっつも! まーた逃げた!』

『騎士の大盾が消失した為、何か起きたのだと思ったが……その様子、また煙に巻かれて逃走を許したようだな』

『はい……世間話で油断を誘い、捕まえるのはダメでしたか』

『仕方あるまい。我もいれば、多少は無理を通せたやもしれんが』

『しょーがないよ。別のプランを考えよ……』


 例の如く、神速の逃げっぷりを見せた夜叉に、ニューエイジはため息を吐いた。

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