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ポラリスの日常

 パフア校の図書室で目的の本を借り、メリッサにお礼を告げて。

 昇降口を出たら凄まじく顔色の悪いマヨイ先生達と遭遇し、フラフラな足取りで去っていく背中を見送ってから。

 商業区に向かう魔導トラムに乗り込み、数分後。

 中心区画から外れた位置にある純喫茶ポラリス。その看板を見上げてから、オレ達はドアベルを鳴らしながら店内に足を踏み入れた。


「こんにちは~」

「呼ばれて飛び出て参上、ってな!」

「おっ、来た来た! お疲れ様だねぇ、二人とも!」

『や~っとか。連絡してから遅くないかぇ?』


 客のいない、がらんとした空気でありながら、出迎えてくれたのは二つの声。

 一つはポラリスの店主兼逆波モーターズ令嬢、かつエンジニアとして一級品の腕前を持つマシロさん。

 もう一つは魔法の行使や体の実体化すら可能とする、レイゲンドライバーに宿る特殊な人工知能であるリク。

 カウンター席で歓談していたであろう二人の隣に座り、一息つく。

 夜叉としての活動拠点であるポラリスに、いつもの面子が集まったのだ。


「ごめん、帰り際に先生から頼まれ事があって図書室に寄ってたんだ」

「ついでに読みたい本があったから、探して借りてきたって訳だ」

「ほほん? 最近の傾向を察するに弟君は料理・農業関係。リフェンス君は……うーん、いっつも雑多に読んでるけど……地球の歴史について、かな?」

「ちょいと惜しいな。地球各国の神話体系に関する蔵書だぜ」

『なんじゃなんじゃ、急に真面目な学徒の如きフリをしおってからに。スケベとエロとエッチな思考で構成されたお主はどこにいった? さては偽物か』

「おいおい不当な物言いはよしてもらおうか。こんなにも勤勉でまともな健康優良男児だってのによ」

「「『鏡を見てから言って(言え)』」」


 決め顔で自己評価を口にしたリフェンスに、声の揃ったツッコミを入れて。

 マシロさんが出してくれたお冷を呷り、ゆっくりと飲んでからコーヒー豆の並ぶ棚を眺める。反面、一斉攻撃を受けたリフェンスは不貞腐れた態度でカウンターに突っ伏した。


「俺は別にいいだろぉ。それよかアキト、なんで“家庭菜園のススメ”なんて本を借りたんだ? お前んとこのマンション、ベランダ狭いし出来る場所ないだろ?」

「マシロさんに提案されたんだ。ポラリスの裏手に規模は小さいけど中庭があるから、そこで家庭菜園してみないかって」

『そうなのか?』

「料理の練習をしている時に聞いたのよ。ヴィニアの為に、少しでも家計の助けになれる事を探してるってね。そこで、ポラリスの畑を紹介したってわけ」


 そもそもポラリスの元店主は自家栽培で出来た野菜の料理を提供していた。その為に腐葉土や肥料、ネイバーの土も加えて土壌改良を繰り返したと言う。

 結果として限定的ながら凄まじい生育速度を誇る、肥沃な畑となったそうだ。


「花も植えてあって見た目も素敵でね、荒れない程度に手入れはしてたの。ただ恒常的に、ってなると手が回らなくてさ。土地を余らせるくらいなら有効活用してほしいからね」

『店舗兼住居でもあったせいか、部屋も余っとるようだしな。おかげで転移用のアンカーを置いてもらえたのじゃが』

「普通に流してたが、リクの姐さんがポラリスに居るのはそういう事か」


 そう、リクの魔法や実体化は内包した魔力エネルギーを著しく消費する。

 アストライアの情報網に掛からないように普段は希釈化し、オレとも距離を置いているが緊急事態では呼び出す事がある。

 しかも周囲にバレないよう隠蔽工作までして、だ。それでは魔力消費が更にかさんでしまう。

 加えて自宅であるマンションと拠点であるポラリスは行き来する頻度が高い。事あるごとに転移魔法やら実体化を行使すれば、たちまちガス欠だ。


 そこで、と。

 マシロさんの提案で──片手間に自作した──転移魔法用の基点となる特別な道具を置いてもらった。

 基点アンカーは内蔵された魔力バッテリーを消費する事で、転移魔法で失われる魔力を一〇分の一にまで節約できる。もちろん、魔力励起の痕跡を隠匿する機能付きだ。


「既にマンションの方はリクちゃんが同じ性能の基点用魔法陣を……弟君の部屋にだっけ? 設置しているみたいだからね」

『おかげで、ある程度は気軽かつ自由に動けるようになったのじゃ!』

「勝手に許可なく何やってんだ、と思わなくもないが……どうせ部屋を傷つけないようにやったんでしょ?」

『もちろん。下手な事して敷金関連で問題起こす訳にはいかんからの』

「そこは常識的なのか?」


 コトリっ、と。

 マシロさんの手で淹れられたコーヒーが置かれ、静かに飲む。

 苦みと酸味が絡み合い、どこかスッキリとした後味に息を吐く。


「というか家庭菜園じゃなくとも、夜叉の時に入手したインベーダーの素材! 売り払ったお金で姉孝行したらいいのに」

「それはマシロさんの方で管理して、ポラリスの手伝いとか菜園で採れた野菜を対価にして払ってほしいです。いきなりとんでもない金額を渡されても、正直困る」

「まあ、それが妥当かもなぁ。通帳明細に記録が残ったら面倒だし……俺もアキトと同じ事した方が心苦しくないな。掃除とか手伝いやるか」

「ええ……じゃあ手元に用意した三人分の金一封はどうすれば」


 マシロさんは困惑気味に、カウンター裏から取り出した茶封筒を掲げる。


『儂もアキト達に同意見じゃし……大人しく仕舞っとけばいいんじゃないかの。ちなみに、どれくらいの金額になったのじゃ?』

「えっ。ポラリスの諸々な経費や維持費、ヤシャリクとアクトチェイサーのメンテナンスと改造費を差し引いて。一人当たりがいち、に、さん……大体、五〇万かな?」

「「マジかよ」」


 インベーダーの素材は然るべき機関、企業に売れば金になる。

 だからゲート発生、インベーダー討伐後は火事場泥棒が発生し、問題になると言うが……予想以上の金額に声が重なった。


「リクが言うには、魔核以外は二束三文な素材ばっかりのはずだけど」

「状態が良いのと、量が多いのと、買い取り業者が製薬会社だったのよね。ほら、レネゲイド関係で需要が爆上がりしたから、色を付けてもらったの」

「ああ、そういう……仮にアストライアと提携しても限度はあるしな」

『逆波モーターズで使い切れん素材、とでも言って譲渡すれば疑われもせんか。以前から思っとったが中々のやり手よな、マシロ』

「伊達に令嬢や技術者はやってないからね。それに、ポラリスのガレージで使う分の素材を分割しても大黒字だし」

「ちゃっかりしてんなぁ……」


 悪戯っぽく笑うマシロさんへリフェンスは感心するように呟く。

 以前に聞いたが、秘密結社っぽいやりくりが出来てとても楽しい、と。人目には見せられない、あくどい微笑みを浮かべていたのを思い出す。


「──ってか、そうだよ! 弟君たちを呼びつけたのは別件もあるんだ!」

「転移用基点アンカーと報酬金の話だけじゃなかったんですか?」

「そっちも大事だけど……ほら、今はゲート関連と怪人騒ぎが落ち着いてるでしょ? でも、ネビュラスの活動は今後活発になるかもしれないからさ」


 作ったんだよね~、と。

 なんともないような声音をこぼしながら、マシロさんは屈んでカウンターの奥に姿を消した。


 思わずリフェンス、リクと顔を合わせるのも数秒。

 立ち上がったマシロさんは擦り合う金属音を鳴らしながら、両手に抱えた二つの円盤型の何かを置いた。


 電子回路のような不思議な紋様と仄かな明滅。

 一目見て異世界産の技術が使われていると分かるそれは、どこかヤシャリクの装甲と同等の物に思えた。


「なんですか、これ」

「ヤシャリクの、というよりは君の為に作った──新しいガジェットだよ」

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