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安穏とした日々を

 冬から春に掛けて、数々の出会いに激動の日々を過ごして。

 肌寒さより仄かに熱を感じ始めたかと思えば、五月下旬に突入。


 ゴールデンウィークに中間テストと、公私に分けて大きめのイベントを終え、中だるみ期間に入った今日この頃。

 先日のアスクレピアにおけるスティングレイの襲撃に対し、あれやこれやと好き勝手に言い合うニュースも落ち着いた。


 そんな中、(ちまた)ではアストライアが考案・研究・開発した、インベーダー構成要素吸収装置……またの名を“レネゲイド”。

 そう呼ばれる設備が医療機関で試験的に運用され始め、医学分野に革新が走ったとか言われている。実際に効果は現れ、インベーダー被害で苦しむ人々は救われているらしい。


 同時に、アスクレピアで起きたスティングレイの騒動がレネゲイド関連である事が判明。

 研究・開発に参加していたマシロさんからの裏付けもあり、結果としてアストライアの尻拭いをしてしまった事が分かった。

 全ての事象に万全な対応が取れる訳ではない。

 理解はしているし仕方がないとはいえ、安全には気を使ってほしいと願うばかりであった。


 アストライアの活躍に合わせ、動きを見せないネビュラスもどこかで暗躍しているのだろうか。

 そんな漠然とした不安と焦燥に湧いてきた中、しかしゲートやインベーダー、ネビュラスの怪人騒動は珍しく鳴りを潜めていた。

 結果としてオレは図書館で本を読んだり、家でゲームをしたり、ポラリスで料理の練習をしていたり、と平穏な時間を過ごしていた。


「天宮司、リフェンス。今いいか?」


 そんな、ある晴れた日の放課後。

 マシロさんから呼び出しを受けたのでポラリスに向かおう、と。

 エルフ族のリフェンスを伴って教室を出ながら考えていた所に、担任教師であるイリーナ先生が声を掛けてきた。


「なんですか? 怒られるような事はしてないと思うんですけど」

「二言目にそんなセリフが出てくるのは、自覚してる部分があるからだろうが……別に叱ろうって訳じゃない」

「じゃあなんすか?」


 提出物の遅れとかは無いはずだよな……そんな考え事をしている間。

 代わりに聞き返してくれたリフェンスにイリーナ先生はため息を吐く。そして肩に提げたカバンから一枚の紙を取り出してきた。リフェンスと共に覗き込む。

 それは高等部生徒達の意見を集め、パフア校の図書館に今季から収容する蔵書物をまとめた物だった。


「図書委員のメリッサがいるだろう? アイツから図書委員会の顧問へ渡してもらう手筈だったんだが、ホームルームが終わった瞬間に去ってしまってな」

「メリッサ……山羊(ヤギ)族のネイバーの女子か」


 窓際のオレと違って廊下側の席に位置するクラスメイトだ。

 物静かなタイプで、友達はいるがあまりつるんでいる感じには見えない。授業合間の休み時間やホームルーム前も、いつも本を読んでいるイメージがある。


「確か今日が図書室当番のはず……代わりにオレらが届けてこいって?」

「ああ。頼めるか?」

「そりゃあ構わねぇが、自分で行ったらいいんじゃねぇの?」

「そうしたいところだが、マヨイその他二名の教育実習生がやる保護者対応の書類整理と連絡業務。その監督者として付き合わねばならん」

「あちゃー、めんどくせぇヤツだ」


 どこか疲れた様子でぼやくイリーナ先生にリフェンスは同調する。

 パフア校は多種多様な人種と国籍、地球人とネイバーが混合する教育機関だ。他の学校に比べて特殊なのは言うまでもない。

 そこに地球の常識とネイバーの常識、種族的な差異と宗教的な相違が対立を生む。すれ違いの連続が発生し、問題視される事は少なくない。


 特に酷い話だが、地球人の方が立場上偉いだとか、ネイバーの方が優れているから許せだとか。人道的にも常識的にも、目と耳を疑うような言葉が飛び出してくるらしい。

 傍目から見ても面倒くさそうなのに、その仲裁を取り持つのが教師だ。中には最も頭を悩ませる時間、という者もいる。


「全く、死ぬほど頭の緩い馬鹿の相手ほどツラいものはないな」

「生徒の前で言うのもどうかと思うぜ?」

「ちゃんと自身の考えを以て、他者の尊重と気遣いを回せるお前達だからこそ言えるんだ。それで、お願いしてもいいか?」

「ん……ついでに借りたい本があるから、届けるくらいならやりますよ。リフェンスもそれでいいか?」

「いいぜ。俺も地球側の神話体系に関する本とか読んでみてぇしな」

「助かる。では、任せたぞ」


 お使いの承諾を聞いてイリーナ先生は職員室へと(きびす)を返す。

 その背中を見送って、オレ達はパフア校の図書館へと足を運ぶ事にした。

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