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悲嘆の先に

「本郷博士、確認終わりました! 研究員は数名ほど軽傷を負っていますが、命に別状はありません! 被検体の患者も無事です!」

「そうか、よかった……っ」


 スティングレイによって荒れ果て、半壊した研究室。

 床に倒れ伏す研究員を救護していたアスクレピア救命士の報告に、自身も介抱に当たっていた本郷博士は心の底から安堵を見せる。


「助かりました、博士……」

「いや、むしろ謝らせてくれ。私の不手際で皆を危険に晒してしまった……」


 実験の致命的な欠陥に気づいた本郷博士の指示によって、ニューエイジのフレスベルグはアブソーブシールドを展開。

 わずかな間隙に差し込まれた障壁は、半透明な刃の乱舞を防ぎ切った。


 しかし閉所空間かつ風の性質を持つ魔力によって衝撃波が発生。

 シールドを貫通したそれは室内の全員を吹き飛ばし、意識を混濁。その隙を突いてスティングレイは施設外へ逃走。


 そのまま【アスクレピア第一病棟】へ突入し、殺戮の限りを尽くさんとした──そこへ夜叉が唐突に飛来し、スティングレイを撃破。

 ニューエイジが遅れて討伐に向かったが、既に事は済んだ後。

 目的を切り替えて追跡したものの、振り切られたのだという伝達を聞き、本郷博士は歯を噛み締める。


「重大な判断ミスで、多くの人を(あや)めてしまうところだった……悔やんでも悔やみきれん」

「研究に失敗は付き物ですよ、博士」

「吸収による分離自体は上手くいってたんですから」

「後は改善点を埋めていって完成形に近づけましょう!」

「……そうだな。ここで諦めてはならんな」


 想定外の身内の訃報に合わせ、事態の尻拭いを夜叉に(ゆだ)ねてしまった事実もあり、博士のメンタルは限界値を迎えかけていた。

 されど実験の渦中に巻き込まれながら、主導者の本郷博士を励ます声が生まれる。それはひとえに、研究対象である吸収装置が人命を救う一助となる物であるからだ。

 加えてニューエイジのおかげで人的被害は最小限。失った物は施設と設備の一部崩壊、幾分かの資料媒体のみ。

 故に研究員達のモチベーションは、全く減衰していなかった。


「本郷博士! こちらの状況は!?」


 頼りになる面々の言葉を聞き、今後の予定を考える中。

 上空からフレスベルグを纏うニューエイジが降りてきた。


「君達の尽力で、特に目立った負傷者はいない。咄嗟の指示にもかかわらず、応えてくれて助かった」

「いえ、エイシャの呼びかけが無ければ私達も対応できなかったと思います。事前に装着許可が下りていたのも功を奏しました」

「展開途中だったせいで、衝撃はモロに喰らっちゃったけどね~」

「致し方あるまい。そも、あと少し遅れていればもっと酷い目に遭っていた可能性が高い。それを考えれば十分な結果だ」


 事態の収束をもってフレスベルグを解除したニューエイジは、周辺の荒れた室内を見渡しながら自省する。


「しかし、アスクレピアの音響設備がスティングレイによって破壊されたとはな。警報も避難指示も出せず、厳しい状況だった……」

「幸いにも各施設の保護結界や防護シャッターは作動していたようですが……危険には違いありませんからね」

「というか夜叉がやってくるの、めちゃ早くなかった? ほぼほぼ最速で駆け付けてきたんだよね?」

「以前から夜叉はゲートおよびインベーダーの出現に対し、アストライアより急行していた事がある。今回もその限りではあろうが──」


 そして相変わらず悩みの種である夜叉の話題となり、全員がため息を吐く。


「様々なタスクがのしかかってくるな。この調子ではヤナセの調査も(とどこお)ってしまいそうだ……」

「……ヤナセ?」


 疲労面からか思わずこぼれた呟きに、マヨイが反応する。

 本郷博士はしまった、と。自身の迂闊を呪うも、いずれは共有しなくてはならない事項だと考えを改める。


「前に話した事があったと思うが、私の兄だ。長らく消息が掴めず仕舞いだったのだが、天宮司アキトとの接触で詳細が分かってな。後ほど詳しく調べ直すつもりで」

「それって“本郷ヤナセ”です? それとも“緑川ヤナセ”?」

「…………前者はともかく、後者は何故知っている?」


 マヨイと同じくパフア校の教育実習生として、生徒名簿の点検業務をおこなっていたリンの追撃。

 苦節数年といえど、消息不明の身内に進展があったのは事実。だが、それを何の接点も無いニューエイジから聞かされるとは露とも思っていなかった。

 頭を殴られたような感覚に陥った本郷博士は、こめかみを抑えて問い返す。


「パフア校の作業を任せられてな。生徒個人のプライベートな部分である故、詳細は伏せるが、その時に同じ名をイリーナより聞かされたのだ」

「……そういう、繋がりか。灯台下暗しと言われれば、何も言い返せんな」


 何気ないエイシャの発言に、本日何度目かになる反省の念を抱く。


「えっと、どういう事ですか?」

「──我ら本郷兄弟は母方の姓を緑川と言う。そしてヤナセは、天宮司アキトが所属していた孤児院の経営者。なおかつ志島カリヤが残した資料の詳細を探るに当たり、唯一の情報源であった」

「ええ!? あっ、そうだ緑川! でも、天宮司君の所って……」

「五年前に壊滅し、生存者は彼のみだったはずだ。まさか?」

「そのまさかだ。緑川ヤナセは既に死亡し、孤児院の詳細を知る者は最早いない。にもかかわらず、資料や手がかりの少ない緑川孤児院とネビュラスの関係性を精査せねばならん。……かなり難航するだろうな」


 吸収装置の致命的な改善点と確実な有用性。

 反して、天宮司アキトや緑川孤児院に関する進展と停滞。

 一進一退に思えるアストライア、ひいてはニューエイジを取り巻く環境は、否応なく複雑化していくのだった。

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