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いつか花咲く日まで

『しかし、なんでオレを狙ってきたんだろうな……』


 シノビスタイルに備えられた、必殺の一撃。

 予想以上の火力がもたらした状況に申し訳なさを感じながら、シフトバングルからメタモルシードを抜き取る。

 忍者から夜叉へと溶け変わっていく体で、クレーターの傍に膝を着く。


『さてな。肉体の損傷や磨耗具合から、儂らがタケミカヅチで撃墜した個体と同じではあったが……なぜ怪人化が解除されていたかは不明じゃ』

『夜叉以外に怪人化を無効にする手段を、アストライアが得たとかは?』

『理論上は可能じゃよ? だが、ヤシャリクへのエネルギー転換が合わさってこそ、完全なる無力化に至るのじゃ。……よもや、ただインベーダーの要素だけを吸収分離させた訳ではあるまいて』

『危険すぎるもんな』


 リクの解析によってスティングレイの痕跡は跡形もない、と。

 バイザーに表示される情報支援と、目視での確認を終えた夜叉は立ち上がる。


『謎は残ったが、とにかく早めに決着をつけれてよかったよ』

『うむ。ところで、これまでのスタイルと比べてより激しく動いたのだが……体の調子はどうじゃ?』

『不調は無い。むしろ、あれこれ考えずに肉弾戦できる方が楽。あと“天翔”と“飛天”は最強』

『うーん、これぞまさに天賦の才よのぉ……』


 そうこうしている内に、少し離れたアスクレピアの施設から熱源が接近。

 数は三つ。バイザーには、見慣れたニューエイジのフレスベルグであると表示されていた。

 警報も無しに、突如として出現したスティングレイ。その対処にすぐさま当たれる位置に居ながら、出遅れた。


『ふむ……様々な要因によってか、あるいは……色々と考えられる事はあるが、とにかく撤退するか』

『既にスティングレイが討伐されたのは把握してるだろうしな』


 事後処理に加え、夜叉の反応を察知してか。

 スラスターの出力を上げ、急加速したニューエイジの心情を(おもんばか)るに、相手をするのは得策でない。

 元よりアスクレピアはアストライアの主要施設であり、総合病院に並ぶ医療設備の集積地だ。

 当然、警戒は密にしている上で、専用の哨戒部隊なども常駐している。


 その証拠に屋内では遮音魔法の影響で防がれていたが、戦闘配備を告げる警報が敷地内をひっきりなしに鳴っていた。

 ニューエイジだけでなく、物々しい装備を装着した者達も夜叉に向けて駆け出していた。囲まれればリフェンス、イリーナとの合流がままならなくなる。


『こういう時、なんて言うんだっけ。二十六計逃げるに如かず?』

『十の位が一つ足りんぞ』

『やべ、三十六計か。国語のテストで間違えないようにしないと……』


 場違いなまでに緩いやり取りを交わしながら、夜叉は“天翔”で空中に浮遊し不可視の足場を蹴り、去ろうとする。


『そうだ、最後に──』


 ◆◇◆◇◆


「な、何が、起きてるの……?」


 スティングレイの強襲による騒動が起きている最中、【アスクレピア第一病棟】にあるシャリアの病室にて。

 彼女は室内の保護として発動した防護魔法とシャッターに、自らが置かれた立ち位置を理解し、肩を掴んで震えていた。

 詳細は知らされず、唐突に患者の保護を名目とした機能の作動。

 インベーダーか何らかの脅威が第一病棟に侵入しているのだと、守護の中にあっても恐怖と怯えを抱かずにいられなかった。


「……っ」


 脳裏をよぎるのは、自身の過去。

 血にまみれ、火に焼かれ、破壊されていく故郷“ハレフ村”。

 シャリアを救う為にインベーダーの盾となって死んでいった家族。

 出現したゲートへ飛び込み、幸運にも地球へ来ても頼れる者がおらず。

 幾度と事態に巻き込まれた上で、ハレフ村の全滅を知らされた絶望の中……見ず知らずであっても助けてくれた、少年の姿が思い起こされる。


 患者の身でありながらも耳に入ってくる夜叉の噂。

 そのものへと姿を変えたアキトはシャリアの面会にも応え、不安を解消するべく尽力してくれた。

 子どもながらにして、大人顔負けの胆力で。

 年上なシャリアが頼りにしてしまうほどに……ヒーローと称される理由の一端を垣間見たのだ。


「きゃ!?」


 そうして考えている内に、ひときわ強く第一病棟を衝撃が揺らす。

 窓ガラスがびりびりと震え、割れるのではないかと錯覚するほどに強烈。カーテンが揺らぎ、見舞いの花は花弁を落とし、クマのぬいぐるみが床に落ちる。

 心臓がどくん、どくんと跳ね、張り裂けそうになった。


「……騒ぎが、おさまった?」


 しかし意外にも衝撃は続かず、急にしんと静まる。

 怯えも恐怖も薄まり、どうしたものか、と。不意に興味を惹かれ、窓の外を覗くべくベッドから下りる。

 そんな時だ。窓に影が差し、赤い閃光が走った。

 いや、閃光などではない。それは風を受けて柔らかにたわみ、とあるヒーローを象徴する真っ赤なマフラーだった。


「あっ──」

『……』


 空中を“天翔”で足場とする夜叉は、ニューエイジの追跡から逃れるべく。

 道中にあったシャリアの病室へ立ち寄り、無言のままに窓ガラスの向こうで親指を立てる。

 それは見る者を安心させるようなお茶目さを含んでいた。目の当たりにしたシャリアの心に巣食う、負の感情を拭い取っていく。


「ッ……!」


 咄嗟にシャリアもサムズアップを返す。

 その姿を見て夜叉は満足そうに頷き、再び空を駆け出していった。


「そっか。あれが……ヒーローなんだね」


 ニューエイジに並ぶ、学園島の守護者。

 真っ赤なマフラーがトレードマークの夜叉にある種の憧憬を抱き、シャリアは自身の胸に手を添えるのだった。


 ◆◇◆◇◆


 現場検証にリンを置き、マヨイとエイシャが追ってきたものの、なんとか振り切った夜叉はアスクレピアの人気が無い場所で変身を解除。

 捜索の目を掻い潜り、リクの転移魔法で【アスクレピア第一病棟】の屋上へ。

 移動してすぐさま内部に侵入し、電子機器のハッキングによってリフェンスの位置を特定。どうやら三階から移動していないらしい。

 そのままリクに防護シャッターを開いてもらいながら進めば、アキトにとって見覚えのある後ろ姿が見えてきた。


「よっす、リフェンス。ただいま」

「おう、おかえり」


 修繕魔法による偽装工作を続行していたようで、荒れた病室は、一目に内部から破壊されたとは思えない様相になっていた。

 希釈化したリクが室内を見回し、怪しい場所が無いか再確認する。


『ふむふむ。これならアストライアの連中に疑われる事はないじゃろうな』

「そろそろ終わりそう?」

「後は俺の魔力痕跡がバレないように抹消すれば完了だぜ」


 そう言いながら指を弾き、最後の工程を終わらせたリフェンスは踵を返す。その背中を追ってアキト、リクも追従する。


「しっかし、アイツはいったいどこから来たんだろうな?」

『ちょいと周辺を調べてみたが、どうにもアスクレピアの研究施設から出てきた……? ようじゃの』

「曖昧だな。正確な情報じゃないのか?」

『アスクレピアのネットワーク回線が混線しておっての。特に繋がらん場所を中心として、辺りの電子機器から探っとるんじゃが……推測しか言えんのぅ。すまんな』

「まっ、無理に捜査して逆探知でもされたら堪ったモンじゃねぇ。詳細はマシロさんも加えて話そうぜ」

「分かった。今はイリーナ先生と合流してアスクレピアから立ち去ろう」


 現状への理解とまとめを語り合いながら。

 第一病棟の三階から一階の通路に降り、エントランスホールへ。


「さて、どうにか戻ってこれたけど……?」

「あん時は気づかなかったが、だいぶやられてんなァ……」


 スティングレイによって半壊したエントランスは、ガラス片や天井の瓦礫が散見され、足の踏み場が限りなく小さくなっていた。

 幸運にもアキトに狙いを定めていた為か、人的被害は抑えられたようで。特に目立った外傷のある職員や患者の姿は見当たらなかった。


「天宮司! リフェンス!」


 しかし、スティングレイの気を引いた事実を知るイリーナは、エントランスホールに姿を見せた二人を目敏く発見する。

 どうやらアスクレピアの常駐部隊に聴取されていたらしく、部隊員を伴って駆け寄り、直に無事を確かめてきた。


「よかった、お前達に怪我が無くて……もう、あんな危ない事をするんじゃないぞ! こちらは気が気じゃなかったんだ!」

「「すみません……」」


 ネイバーのエルフ族を伴ったとしても危険行動に変わりはない。

 咎められた事に謝罪する中、常駐部隊の隊長が二人へ質問する。


『すまない、君達が入院患者の少ない階層にインベーダーを引き連れた事は、こちらの監視カメラで把握している。だが、その後はカメラの映像が途切れ、何が起きていたか分からないんだ。どうやってインベーダーの魔の手から逃げ切ったんだ?』

「えっと、それは」

「俺達、後ろも見ないで夢中のまま走ってたら、いきなり病室から何かが飛び込んできたんだ。物陰に隠れる瞬間、少しだけ見たが……ありゃあ夜叉だったと思う」

『なんだと!?』


 腹の読みやすい相手である為か。

 言い淀むアキトに代わって、リフェンスは即興の作り話で場を濁す。


「かなり激しめの戦闘音が聞こえて、少ししたらインベーダーを連れて外に出てって……安全の確認が取れてから俺達は戻ってきたんだ」

『そうか……大変だったな』

「はい、ほんとに……っ」


 そんな折、夜叉より動き回るシノビスタイルの反動がやってきたのか。

 リフェンスを補佐しようとしたアキトの体が揺らぎ、たたらを踏む。咄嗟に手を伸ばしたイリーナがアキトの肩を掴み、自身に引き寄せる。


「あんなインベーダーに追われたんだ、消耗するのも無理はない。申し訳ないが、生徒達を休ませたい。帰ってもいいだろうか?」

『ええ、お引止めしてすみません。後は我々が……おい、行くぞ!』

『はいっ!』


 偶然ではあるものの、アキトの消耗がもたらした怪我の功名に乗って、四人は魔導トラム駅へ歩を進める。


「演技上手いじゃねぇか? やるな」

「やりたくてやったんじゃない……」

『やはり変身は一日一回が限度じゃのぅ』


 イリーナに代わって体を支えるリフェンス。

 自身の情けなさに恥ずかしさを抱くアキト。

 夜叉としての活動制限を思考するリク。

 三人は小声で秘密の会話を交わしながら、それぞれの帰路へ着くのだった。

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