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疾風迅雷、シノビスタイル!

『Warning! Warning! Warning!』


 警告音声と同時に、シフトバングルを通してヴァリアブルモデルが飛び出す。

 リフェンスを跳び越えてスティングレイまで飛来するのは、これまでのスタイル通り、がらんどうの人型。

 “ナイト”よりは“メイジ”に近い風体。

 体に巻かれた布や脚、腰に配置された短刀や飛び道具などといった、無機質な装束を身に纏うのは“忍者”だった。


『Life threatening Artifact! Please stop!』


 スティングレイの胸元に飛び込んだ無垢なる忍者は、持ち前の軽やかさで半透明な刃を切り払っていく。

 一瞬で己の武器を無力化されたスティングレイはお返しと言わんばかりに。自身の腕を、爪を、あるいは翼を振るうも狭い通路では首を締めるだけ。

 その隙を逃さない忍者は胴体を蹴り抜き、反動でアキトの元へ。


「リフェンス、交代だ」

「待ちわびたぜ。とっとと倒しちまいな!」


 ハイタッチを交わして、迎え入れるように立ち位置を交換。

 飛び込んできた忍者は自らの身体を膨張させ、炸裂。黒いモヤと紫の粒子が混じり、身に着けていた装備品と共にアキトの身体を包み込んだ。


 アンダースーツ、軽量化が施されたアダムスフレームの装甲……鎖帷子(くさりかたびら)を思わせる意匠。

 脛や上腕部、肩当てに夜叉と似た軽装の鎧が装着。

 クナイに手裏剣といった暗器、飛び道具が腰や装甲の裏に。黒く光沢の無い二振りの短刀──“オボロ・ウタカタ”が腰に下げられた。


 そして頭部は素性を包み隠すように。

 兜でなく頭巾が被され、紫色のバイザーが下がる。

 ヤシャリクの各種パラメータが表示され、アキトが確認するのも束の間。


『Reformation Override! シノビスタイル!』


 口元を赤い面頬が覆い、体の各所から蒸気が噴き出し……シノビスタイルへの変身が、静寂の幕を下ろして完了となった。


『ふむ、なるほどな』


 メタモルシードから神経伝達を通じ、一瞬で性能を把握。

 アキトは警戒心を露わに静まったスティングレイを一瞥し、姿を掻き消した。


『っ!?』

『こっちだ、ノロマ』


 霞のように気配すら希釈され、瞬時に背後へ回った忍者の蹴りがスティングレイを強襲する。

 後頭部を打ち据えた剛脚は頭蓋を軋ませ、床に埋没させた。


「つっよ!? ってかナイトより細身なのに肉弾戦できんのかよ!?」

『むしろこちらが本領と言えるじゃろうな。防御力を局所的かつ最低限に、アキトの反射神経と戦闘速度に応えられる軽量系スタイルじゃ』


 様子見に徹していたリフェンスの疑問にリクが答える中、スティングレイが負けじと跳び上がり、爪牙を振るって抗戦してきた。

 刃の展開は忍者とリフェンスが封殺すると判断してか、代わりに腕部や脚部に魔力を纏っている。

 受ければ大ダメージは免れない、されど回避は容易だ。

 しかし一度、二度と振るわれた空間が抉れ、真空となった箇所に身体が吸引。

 身動きを封じようと画策しているのは明白だった。


『閉所かつ狭所での戦闘に慣れつつあるか。さすがは特位よの』

『でも、遅い』


 致死の刃が首元を据える。

 あえて受けるようにフェイントをかけて、その瞬間に左膝を上げた。

 そのまま蹴り込むように鈍色の暗器を突出させ、スティングレイの脇腹に突き刺す。


 異形の体が宙に浮き、引き戻した左膝に代わって、拳で暗器の柄を撃ち抜く。

 返しの付いた暗器が更に深々と突き刺さり、異物となって体内に残る。

 病棟内で血を出してはならない。咄嗟の判断がスティングレイの行動を抑制し、追い詰めていく。


『──ッッ!!』

『視界が止まって見える。これもシノビスタイルの特徴か』

『いや、そんな能力は無いはずだが……お主の感覚機能を拡張している可能性はあるのぅ。後でマシロに聞いてみよう』


 アキトのポテンシャルを引き出す、シノビスタイルの猛攻は止まらない。

 たたらを踏むスティングレイに対しオボロ・ウタカタを抜いた忍者は、ふっと息を吐き、再び姿を消す。

 所在の知れない脅威にまたもや首を回すも、見当たらない。

 こうなれば所構わず刃をバラ撒くしか……そんな短絡的思考をぶち抜くように、太ももに鋭い痛みが走る。


 オボロだ。それも投擲されたにもかかわらず、柄まで刺さっている。

 肉を刺し貫く激痛。されど血は噴出せず、次いで翅の根元に熱感が生じた。

 ずるりと、体が軽くなる感覚。凄まじい速度で斬られ、摩擦熱で止血したのだと理解する暇もなく。

 今度は腕、足、腹、背中と高速で順繰りに打撃、クナイや手裏剣、ウタカタによる攻撃が叩き込まれる。


『いい武器だ。高速で振るえば傷口が塞げる』

『“天翔”を限定的に全身で、しかも連続使用を可能とする新しい加速機能──“飛天”。静粛性はバッチリ、衝撃の相殺も上手くいっておるのぅ』

『フツノミタマやイーリアス、デュランダルじゃこうはいかなかったな』


 閉鎖空間、それに通路では夜叉の刀はリーチが仇となる。

 同様の理由かつ、大鎧な図体であるナイトスタイルも不利。

 魔法戦がメインなメイジスタイルのカドゥケウスも、周辺被害を考慮すれば使用できない。


『まあ、どのスタイルでも殴り倒せばそれでいいんだけど』

『元も子も無い発言をせんでくれ。ただしまあ、シノビスタイルの問題点は火力が近接一辺倒すぎるところと……』

『後は?』


 言い淀んだリクに聞き返し、返答を待ちながら。

 スティングレイが放つ苦し紛れの殴打を裏拳で防ぎ、曲芸じみた動作で首元を絡め取り、そのまま重心を乗せて床へ叩きつける。

 天地が逆さになり、悲鳴も無く。追加のダメ押しと言わんばかりに踏み躙られ、スティングレイの体が湾曲する。


『情報支援しとる儂が目を回すやもしれん、といったところかのぅ』

『キツかったら止めていいよ。スタイルのごり押しでどうにかなる』

『……いや、いいや! 儂とお主の二人で夜叉なのじゃ。この程度で弱音を吐いてはおられん!』

『そうか。頼もしいよ』


 嵐を思わせる連撃で骨が折れ、砕け、抗えないスティングレイは見るも無残な姿に変貌していく。

 返す刃としての拳や蹴りに精彩さは無い。

 痛々しい青痣や暗器、クナイなどの飛び道具が埋没した、傷だらけの体だけが取り残されていた。


『そろそろ仕留めるか……リク、無人の病室はあるか?』

『むお? えぇと……そこの二部屋先が空いておるの』

『了解。リフェンス、結界を解いて修繕魔法の準備を頼む』

「ああ? ……あー、偽装しねぇとダメか。それっぽく仕立ててやるよ」


 一度は怪訝な表情を浮かべたリフェンスであったが、言葉の意味を理解した瞬間に了承の親指を立てた。

 視界の端でそれを確認した忍者はスティングレイの首を掴む。

 蓄積したダメージによって振り払う事も出来ずに引きずられ、リクの指定した病室へ放り投げられる。


 承認を得なかった自動ドアは破砕され、振動が空気を揺らす。

 白亜の病室はゴムボールのように跳ね回るスティングレイによって半壊し、かろうじてベッドに手をついて立ち上がろうとする。

 その横っ腹を、忍者は“飛天”の加速で蹴り抜いた。


 ドゴンッ、と。おおよそ肉体から鳴ってはならない鈍い音と共に、スティングレイの体は宙に浮き、窓ガラスをぶち破る。

 現在地は患者の療養の他、実験エリアをも兼ねていた。だが、全部で五階はある【アスクレピア第一病棟】の三階である。

 当然、翅を失ったスティングレイは落下し、アスクレピアの中庭へ墜落。


 飛散するガラスも同じく、しかして中途で押し留まり、おもむろに室内へと戻る。リフェンスの魔法によって“夜叉が外から侵入してきた”ように見せかける為だ。

 リクは変身以前から、既に恒常的に監視カメラの記録を消去、および改竄(かいざん)している。

 情報と物的証拠の二つを偽装できる協力者がいるからこそ、成せる業。

 後処理に頭を悩ませる必要のない、ストレスフリーな状況。


 ある意味、誰よりも束縛の無い自由な忍者は軽やかに、ガラス片の中へ飛び込み難なく着地。

 もはや立ち上がる事すらままならないスティングレイを見据えて、歩み寄りながらレイゲンドライバーを一度、二度と叩いていく。


『ああ、あと欠点もう一個あったわ』

『今更? どんなの?』


 殺生石から溢れ出した魔力エネルギーが、回収済みのオボロ・ウタカタに流れ込み、刀身に風と雷を纏う。

 抜刀し、濃密な属性が唸りを上げる二振り。その柄にあるコネクタに接続。

 合体する事で十字の形状になったソレを弓引くように構え、レイゲンドライバーを更に叩く。


 混じり合う風雷は周囲の大気を、魔素を引き込み膨張し、凝縮。

 紫電を散らし、幾度となく繰り返される収縮を経て、脅威に気づいたのか。スティングレイは慌てて、体を起こす。


『オボロ・ウタカタは接続した時、濃縮された魔力を循環して纏う。ようは高威力の合体魔法を叩き込めるようになるのじゃが、組み合わせた属性の相性が良すぎてのぅ』


 申し訳なさそうなリクの言葉を置き去りにして。

 忍者は這って逃げ出そうとするスティングレイの直上へ跳躍。身を(ひるがえ)し、溜めに溜めた荷電粒子体を振り抜いた。


 高速と呼ぶのもおこがましい、一瞬の閃光。

 一直線に、スティングレイの背中に突き刺さった必殺の稲玉が炸裂。


 圧縮された莫大な魔力エネルギーが、オボロ・ウタカタを中心として半球状の力場を生成。甲高い風切りと雷撃の破壊を内部にもたらす。

 それは草木を焼き焦がし、地面をも結晶化させ、抉り取り──暴虐の限りを尽くした後、辺りへ突風を撒き散らした。


『ご覧の通り、必殺技が素材や魔核の回収すら出来んほどバカみたいに強くなってもうた。使用の際は用法・容量をお守りくださいなのじゃ』

『早めに言ってくんねぇかな? こっちの収支マイナスじゃねぇか』

『すまん』


 クレーターとなった現場を眺め、忍者はため息を吐くのだった。

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