ニューエイジの見解
任務作戦【ヴィンテージヒーロー】に関する報告書。
本日正午。発生した中型ゲートの対処に当たっていた部隊、ニューエイジの元に夜叉が出現。瞬く間に中位インベーダー“ワイバーン”を討伐。
その後、ニューエイジの如月マヨイ隊長の制止要求を聞かず、ゲートの収束へ行動開始。マヨイ隊長が遅れて参戦し、共同戦線を展開。
心理的距離を接近させ、油断を誘うのが目的であったが夜叉には響かず。
今回のゲート発生に伴う行動理由の問い掛けによって、フレスベルグに搭載された高性能スキャンバイザーの距離範囲に納めようとするも、夜叉は範囲外からジェスチャーで答えを示した。
付近の定食屋、次いでスピーカー。
昼食の時間であるためゲート被害を抑制する為、姿を現したのだと。
拍子抜けな返答に不意を突かれ、またもやニューエイジは夜叉の正体を掴むこと叶わず。
どことなく間抜けで、けれども真実な報告書を提出するのでした。
◆◇◆◇◆
「こんな感じでどう?」
「うん、書き直して」
「えぇええ~だめぇ? エイシャはどう思う?」
「どれ……初等部生徒が書いた夏休みの作文だな」
「結構グサッとくる表現してくれるじゃん」
コーヒーの香りとタイピングの音が響く、パフア専門校の職員室。
教育実習生であるマヨイ、リン、エイシャは専用に用意された一室で、アストライア上層部へ提出する報告書をしたためている。
彼女たちはパフア専門校の協力の下、極秘任務の為にアストライアから送りだされた三人編成部隊、ニューエイジだ。
人工学園島という限られた地域限定で姿を見せる夜叉の正体。
これまでの接敵、もしくは遭遇した経験から装着者は学生である可能性が高い、と判断した上層部の命令によって。
普段は実習生として公的な実績を積み、秘密裏に夜叉が潜伏していると見られるパフアの内情を探ることを目的としている。
任務初日にまさかのゲート発生に加え、夜叉まで登場するという事態に見舞われたが、彼女たちは濃密な体験を細かに書類へ書きつらねていた。
マヨイはごく真面目に、エイシャは種族的な特性により異常発達した視力を抑制する眼鏡をかけ直しながら。
しかしリンは眼下の新しい白紙の報告書から目を逸らし、椅子の背もたれに身体を預けた。
「でもさぁ、実際こう書くしかないじゃん。嘘はついてないし、盛って虚偽報告したってメリットなんかなーんにも無いし。というか、個人の視点から夜叉をプロファイリングする目的で報告書を分散させるって、意味あるのぉ? 手間じゃない?」
「少なくとも、自身と第三者の視点では差異があるものよ。私は振る舞いや仕草から、アストライア上層部が考えるよりも夜叉の年齢が下だと感じたわ。中等部、ぐらいかしら?」
「マヨイはそういう視点か。我は彼の者が持つ卓越した戦闘技術に目をつけている。いかにヤシャリクの性能ありきといえど、フツノミタマは変哲の無い金属製ブレードだ。なのにインベーダーはおろか、ゲートまで断ち切ってみせる技量は生半可な年月で培われた物ではない。長期に渡って訓練された人間が放つ、確かな技術だ。故に上層部と同じく、高等部に所属する人間だと考えている」
自身の考察を口にし、マヨイとエイシャは意見の相違に疑問を抱き、それでも納得できる部分があると感じた。
子どものようで、けれども大人びていて、掴みどころが無い。
「うーん……そもそもの話として、夜叉の存在がよく確認される時間帯は大体夜間か早朝にゲートが発生した時。日中の発見例がそこそこ珍しいから、今回の行動理由を聞いた訳じゃん?」
「そうだね。あくまで言葉でなく、ジェスチャーで伝えられたことを察しただけ、ではあるけど……」
「昼飯時だから手を出した、か。なんとも幼稚だが、ゲートの発生源は飲食店が立ち並ぶ区画だ。閉鎖されれば確かに、影響は出るだろうな」
「そう、幼稚。つまりはもっと子供っぽいかもしれないんだよ。お腹が空いた、でもゲートのせいで食べられない、なら止めてあげよう……単純で、明快でしょ?」
「つまりリンは、初等部の生徒だと?」
「今日のゲート発生に限って言えばね。エイシャが気になってる戦闘技術は、アタシから見れば力のままに振り回してるように見えた。制御はしてるけど所々がおざなりっていうか、ちぐはぐなんだよね。それになんだか空中を駆け回って遊んでいるようにも見えたし」
「ものの見事に三人ともバラバラ……というか、そう感じたことを報告書に書けばいいのに」
「…………はっ! 盲点っ!」
マヨイに気づかされたリンは、遊ばせていたペンを握り直して書類に向き直る。
そうしてしばらくした後、報告書を書き終えた三人は席を立ち、思い思いに身体をリラックスさせた。
「何度書いても文書作成というものは慣れんな。こういう時は、森に居た頃の方が楽だと感じる」
「そりゃそーでしょ……お昼も食べ損なったし、目が回っちゃうよぉ」
「折角ですし、近場の店でご飯を食べに行きましょうか。アストライアの事後処理部隊も引き上げたようですから」
「ぃやったーっ! なに食べよっかな~」
「ジロウ系ラーメン」
「いや聞いてない。というか、どうして清廉な森の狩人がチョモランマに傾倒するようになっちゃったの……」
「地球に来て初めて食べた料理だそうですよ。フレスベルグの整備班に連れられて口にした一杯を、大層気に入ったらしくて……」
「乙女心とカロリー的にヤバいから遠慮したいなぁ」
「冗談だ。後でアストライア本部に報告書を提出せねばならんのだ。匂いがキツいジロウ系はやめておこう」
終わった後に個人で食わせてもらうが、と眼鏡を怪しく光らせたエイシャの言葉に、マヨイとリンは密かに胸を撫で下ろす。
財布や家、車の鍵、フレスベルグ展開用の腕輪型デバイスを身に着けた三人は専用の個室を出る。すると、職員室内にいたイリーナ──パフア専門校とアストライアの橋渡し役であり、ネイバー側においてかなりの発言力を持つ彼女が近づいてきた。




