On the road. 旅の途中
ある日、新しい仕事を請け負った私たちは、依頼主のもとを訪ねるためにグランドア中央駅にいた。
「俺が迂闊だった……」
『いえ、クウガのせいではありません。財布を抜き取って勝手に別行動を取り、カフェでお茶していたシャルロッテ様が悪いのです』
相変わらず、ホームには紳士や淑女、軍人……様々な人たちが行き交っている。そんな中、私を挟んで歩く連れたちが疲れたように話していた。
「まさか、駅でお茶するだけで、一か月分の食費を散財できるとはな。怒りを通り越して、いっそ尊敬の念すら覚える」
「そうか? こんなの、私にかかれば朝飯前だ」
胸を叩いてみせれば、クウガとウルフくんが恐ろしい形相で同時に私を振り返る。
「褒めてない、調子に乗るな」
『シャルロッテ様、反省してください』
ふたりに叱られ、「ちょっとくらい、いいだろう」と私がぶすくれると――。
「ちょっと、じゃすまないから言ってるんだろ!」
『ちょっと、じゃすまないから言ってるんです!』
ふたりはまたも、声を揃えて怒った。
こやつら、実は生き別れの兄弟なんじゃないのか? と思うレベルでシンクロしている。その様子を一歩下がって眺めてみると、なかなか微笑ましくて、つい頬を緩めていたとき――。
「私以外の男たちから、隋分と好意を寄せられているようだね」
聞き覚えのある声と共に、見覚えのあるシルクハットの男とすれ違う。思わず足を止めた私に、クウガとウルフくんはまだ気づいていない。
「そんなきみに恋をし、叶わぬ思いに絶望して自死を選ぶことはしないけど……いつか、私だけの魔女が誰かのものになってしまわないように、世界を壊してしまうくらいはするかもしれないね」
未来、現在、過去。それを表わすように、前に進む仲間たちを見つめながら、後ろへ遠ざかる声に耳を澄ませ、私は立ち尽くしていた。
「あ、それもある意味、破滅するほどの恋ってことになるのかな。実に美しいね」
私に名をくれたとき、聞かせてくれた物語を引用する彼に、相変わらずまどろっこしいやつだなと苦笑がこぼれる。
「会いに来るとは言っていたが……私はもっと、先の未来のことだと思っていたぞ」
「そうだな、私もそのつもりだったけど――案外、道が交わるのはすぐ先の未来だったってことかな」
そう言い残したやつの、シルクハットのつばを摘まんで、軽くお辞儀をする仕草が頭に浮かぶ。別れの挨拶で再会の約束をしていったやつの足音が遠ざかり、振り返ろうとしたとき――。
「シャルロッテ!」
『シャルロッテ様!』
私の未来を照らす存在に呼ばれた。私はふっと笑い、過去を振り返るのをやめ、前を向く。
人は出会いと別れを繰り返すもの。幾度互いの道が分かれても、こうして踏み出した先の未来でまた会える。私が立ち止まってしまわない限り。
「どうしたんだよ、立ち止まったりして」
怪訝そうにしているクウガの腕に、私は自分の右腕を絡めた。
「たいしたことではない」
そう言って、左手でウルフくんの頭を撫でる。
「さあ、仕事だ。未来行きの列車に、共に乗ろうではないか」