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最終話です。

 子どもの頃好きだった英雄譚。その最大の謎は勇者の最後だ。勇者は最後どうなってしまったのか。いくつもの説が飛び交う謎多き場面。各々が自分自身の好きなように妄想し、勇者の最後を彩る。


 では、実際はどうなのだろうか?




▽▽▽


Q. 勇者はどうなったの?


A. あんな女の事なんか知るか! いきなり「もう嫌だ」って言って、どこかに行ったのよ。




Q. なぜそんなことに?


A. 「性格が合わない」って言ってたわね。今思い出しても腹が立つ! あんなかまとと女、私の方から願い下げよ!


△△△




 英雄譚の真実何てこんなものである。


 その真実を知って得する者は誰もいない。それならば、真実をこの世界から消し去り、それっぽい嘘を真実だと信じ続ける方が健全だろう。


 オレとしても、もう少し様になる最後が良かったし、真実を知った時は少しショックだった。そして、このことは墓場まで持っていこうと心に決めた。


 因みにだが、これはオレがカテナに確認したわけではない。本人がオレに一方的に喋りかけてきた内容をまとめただけだ。


「――ラース、今日も依頼? 今日こそ私を使ってくれるわよね?」


 宿からギルドに向かう道中、今日も変わらずうるさいカテナにオレはうんざりしながら道を急ぐ。


「別に今使っている武器じゃないといけないなんてことは無いんでしょ? だったら私を使ってくれても良いじゃない。それともその武器に思い入れがあるの? それだったら、その武器は大切に保管して私を使いましょうよ!」


 腰に下げている剣に思い入れがある訳ではない。この剣はオレが冒険者となった時に初めて買ったお世辞にも良い剣とは言えないものだ。他に良さそうな剣があるならば、何のためらいもなく変えることが出来る。まあ、聖剣ストーカーはお断りだが。


 今日も相変わらずのカテナを無視していると、やっとギルドについた。この時間がいつもかなり長く感じてしまう。


 オレたちがギルドに入ると、いつにも増して騒がしかった。至る所で罵詈雑言が飛び交っている。普段であればこの時間には冒険者たちはもうすでに依頼を受けて街の外に出ており、ここまでギルドに留まっている者は多くない。


 よく見てみると、多くの冒険者たちが焦った表情をしており、中には半ば発狂した状態で受付嬢に詰め寄っている者までいる。


「――魔族が出たってどういうことだよ!」


「いえ、まだ確定した訳ではないので。現在、確認しているところです」


「うるせー! そんなの待ってられるかよ!」


 巨漢の男が受付嬢へと詰め寄る。その様子を見て周囲の冒険者たちは止めることなく、むしろ男に続き受付嬢に圧を与えていた。


「――ギ、ギルドマスターはいるか!」


 突然、ギルドの入り口から傷だらけの男が入ってきた。


「どうした?」


 奥から顔に大きな傷を携えた厳つい男――ギルドマスターが出てきた。


「魔族だ! 調査団は壊滅、魔族は依然として健在だ!」


 その言葉を聞いてギルド内がより慌ただしくなる。逃げる準備をする者。恐怖のあまり酒に逃げる者。恋人と抱き合う者。ギルド内はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図の状態であり、もはや収集がつかなくなってしまっていた。


 そんな中、オレは一人ギルドの外に駆け出し、街の外へと向かう。


「ねえ、どうしちゃったの? そんな怖い顔をして」


 ――魔族は全て殺す。このオレが全て狩り尽くす。


 オレの心に宿った漆黒の炎、どんなことをしても外すことの出来ない鋼の楔、オレが生きる目的の全て――魔族への復讐。


 今のオレは完全に強くどす黒い復讐心に駆られていた。自分でも止めることの出来ない、もう止まれない。溢れ出る感情全てがオレに魔族を討伐せよと訴えてくる。


 ――このために冒険者になったのだ。この手で魔族を殺すために。


 冒険者となって各地を転々としてきた。強くなるために――魔族を圧倒し弄ぶことが出来るくらいの力を得るために。


 今が得た力を見せつける機会なのだ。神出鬼没な魔族を殺すことが出来る絶好の。


 オレは街の外に出て、そのまま魔族が目撃された場所へと向かう。


 道中、おそらく魔族に殺された人たちの血が草を濡らしていた。


「――おや? 新しく俺様の玩具になる人間が来てくれたのかな」


 大量の死体の山の上に座る漆黒の姿。オレが恋焦がれた存在。未だに毎日夢で見る憎ましき相手。


 いくら時間が経とうと、いくら記憶が風化しようと、その姿だけは忘れない。オレの頭に刻み込まれたその魔族の姿だけは。


「……久しぶりだな」


 オレは声を震わせながら何とか言葉を絞り出した。


「ん? どこかであったかな?」


「忘れたとは言わせない。オレの村を、家族を、アレクシアを奪っておいて」


 激情に駆られるのをどうにか抑えながら、オレは魔族に向かって剣を向けた。


 魔族はしばらく顎に手を置いて考えていたが、ようやく思い出したようで納得したような顔をした。


「ああ、あの時のガキか! いやー、大きくなったね! えっ、せっかく助かったのにわざわざ殺されに来たの?」


 魔族がおかしそうにゲラゲラと笑いだす。


「あの時は傑作だったよね! ガキのクセに俺様に立ち向かって来てさ。あれ? そういえばあの時の女の子は死んじゃったのかな? 君だけ生き延びちゃったのかな?」


 もう無理だった。もうこれ以上、オレの心の底から流れ出してくる怒りを、憎しみを押さえることは出来なかった。


「お前だけは! お前だけはオレが殺す!」


 燃やされた村のために、死んだ母さんたちのために、そしてオレを守ってくれた愛しいアレクシアのために、オレは止まれない。


「――ねえ、あれって魔族じゃない! 何て汚らわしいのかしら! 昔にあれだけ殺して周ったのに、まだいるなんて。本当に害虫と一緒ね! 一匹いれば三十匹いると思わなければいけないみたいね」


 オレと魔族の戦闘が今まさに行われようとした時、背後から無関係の声が飛んで来た。


 振り返ればカテナが汚いものを見る目で魔族を見ていた。


「ラース、私の出番よ! 何て言ったって私は聖剣なんだから。魔族何て余裕よ! はっ、まさかこうなることを見越していたの? 敢えて今まで私を無視していて、いざっていう時に使いたかったのね! 何て計算された作戦なの。さすがは私が認めたラースね!」


 ……せっかくのシリアスムードが台無しだ。


「……しばらく見ない間に面白い仲間を手に入れたみたいだね」


 魔族もオレの背後でクネクネと身体をよがらせているカテナを見て、引きつった笑みを浮かべていた。


「……仲間じゃない。ただのストーカーだ」


 ――仲間じゃない。ただのストーカーだ。


 大事なことだから二度言わせてもらう。


「まあ、いいや。で、どうするの? 二人でかかってきても俺様は一向にかまわないけど?」


「そんなの当然二人で相手するに決まってい「オレ一人で十分だ!」」


 調子に乗っているカテナの声を遮る。


 オレに遮られたカテナは口をパクパクさせながら、驚いた表情でこちらに視線を向けていたがオレは無視をする。


「お前を殺すのはオレだ!」


 ――魔族を殺すのはオレだ。オレの手で殺さなければ何の意味もない。この手で、アレクシアの温もりが宿るこの手で魔族を殺さなければ。


「ちょっ、ちょっと何でよ? 聖剣である私がいないと人間が魔族を倒せる訳けないじゃない! ラースは無駄死にしたいの?」


 カテナが必死にオレを説得しようと身体を揺さぶってくるが、オレはそんな彼女を払いのけ、一人で魔族の前へと歩み寄る。


「俺様としては、楽しませてくれるならどっちでも良いけどね。くれぐれもすぐに死なないでくれよ。存分に楽しませてくれ!」


「……それは保証できないな」


 死体の山から下りて、オレの方へと凄い勢いで詰め寄る魔族。その振りかぶった拳は一瞬で人間をただの肉塊へと変えることが出来るだろう。


「あの世であのガキと一緒に後悔してろ!」


 迫りくる拳。


「――だって一瞬で決着がつくのだから」


 周囲に強烈な風が生じる。


「ば、ばかな……」


 魔族の胴体が支えていた下半身からゆっくりと滑り落ちる。おびただしい量の血が噴き出し、傷一つないオレの身体を濡らしていった。


 しばらくの間、胴体を真っ二つに切り裂かれた魔族は地面に這いつくばってもがいていたが、やがてその動きは弱々しくなり、ついには動かなくなった。


「何で人間が魔族に勝てるのよ!?」


 カテナの悲鳴が周囲にこだまする。


 ――オレには聖剣なんて必要ない。なぜなら、オレは聖剣なんてものに頼らなくても魔族を殺すことが出来る圧倒的な力を手に入れているのだから。




「――ねえ、ラース、そろそろ私を使いましょうよ」


 草木の色がますます濃さを増していく今日この頃。静かな大地にカテナの声が響く。


「私とラースが組めば最強よ? 何ならこの世界すべてを手に入れることだって出来るわ」


 オレはいつものようにカテナを無視して、目的地へとただ黙々と歩き続ける。


「また放置プレイなの? そうなのね? 私を弄んで心の中で興奮してるのね!」


 オレは溜息を吐きながら澄み渡る青空を見上げる。


 ――拝啓、アレクシア。


 あなたは今何をしていますか? オレを見守ってくれていますか?


 オレは今、厄介なストーカーに付きまとわれています。


これにてこの作品は一旦完結です。

読んでいただきありがとうございました。

後日、もしかしたら続編を書くことになるかもしれませんので、気が向いたらどうぞ読んでください。


まとまった休みが取れたら、またこうして中編作品を書くと思うので、よろしくお願いいたします。

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