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決意 その1

 ジューレが生身の体で俺たちの前に現れたのは命懸けだったらしい。


 なんらかのトラブルで、Fブロックと呼ばれる居住区に誤って転送されてしまった俺と佳奈を助け出す為、彼女はウィルス感染の危険があると知りつつ、防護服を身に着けなかった。


 武装して攻撃してきた銀色の兵士への恐怖で縮み上がり、パニクッてた俺たちをさらなる不安に陥れないためにそうしたのだ。こんな少女がそこまで考えて行動できるなんて、超能力者だからなのか? 見た目より中身はずっと大人なのか?

 もし彼女が防護服に身を包んでいたなら、俺は彼女も兵士同様、恐怖に駆られて無意識に使っていた超能力で攻撃していただろう。


 自分にこんな能力があったなんて……、それを知らなかったために俺は銀色の兵士に抵抗して、結果、なんの関係もない多くの人々を死に追いやった。


「自分を責める必要はないのよ、危険を承知であなたたちを呼び寄せたのはあたしだし、あなたたちがFブロックに転送されてしまったのは、我々のミスなんだから」

 テレパシーにはどうも馴染めない、言葉にしていないのに、なにもかもわかってしまうなんて気味悪い。俺にはその能力はないようだけど……。


 俺は佳奈を見た。

 彼女は仲間との再会を喜んで、俺のことなんか忘れてるみたいだけど、彼女も俺の心を読んだ。自分では気付いていないかも知れないけど、彼女もテレパシーが使えるんだ。じゃあ、望結と知世にはどんな超能力があるんだろう?


「あなたたちの能力は未知数よ、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないけど、協力してもらいたいのよ」

 ジューレがフィラギスの3人に向かって言った。

「狂ったコンピューターを止めなければ、あたしたち、地球へ戻れないんでしょ」

 知世は厳しい表情を崩さない。


「でも、どうすればいいの?」

「パスワードを入力するだけよ」

「その簡単なことが出来ないの?」

「妨害されて、メインルームまでたどり着けないのよ」

「あたしたちなら行けるって保証もないんでしょ?」

「そうね」


 知世は大きな吐息を漏らした。

 俺もつられて漏らした。

「地球へ戻れなきゃ、あたしたちはどうなるの?」

 俺も聞きたかった。力及ばずコンピュータールームまで行けなくて、シャットダウンできなければ、俺たちはどうなるんだ?

 命があればの話だが。


「この部屋で、一生を終えることになるでしょうね」

 ジューレは申し訳なさそうに言った。

 それって、俺にとってはパラダイスだけど……おっと、こんな不埒な思考も読まれてるのか……恥ずかしい。


「もう少し、住みやすい空間になるよう、配慮はするつもりだけど」

「あちらの方々は、そんなふうに考えてないみたいだけど」

 佳奈は、相変わらず冷ややかに傍観している白衣の連中に視線を流した。

「……」

 ジューレは否定できなかった。


「どう言うこと?」

 知世の表情がさらに険しくなる。

「利用価値がなくなったら、あたしたちも廃棄されるみたいよ」

 佳奈は白衣の連中の考えまで読めるようだ。


 俺たちの道は2つ、今まで何人もの超能力者が試みて失敗し、命を落としたコンピュータールームへ行くか、それを拒んで廃棄されるか……。

 どっちにしても絶望的……。

 俺はしゃがみこんで膝を抱えた。

 つい数時間前まで、俺はただの能天気な高校生だった。佳奈ちゃんの大ファンで、フィラギスのコンサートを楽しみにしてた……。


 奇跡のような最前列ほぼ中央の席をゲットして、耳をつんざく爆音と火柱、その熱風を肌で感じながら、スポットライトに照らされる彼女たちの姿に胸の鼓動を高鳴らせた後、目の前に立った望結と目が合った。その瞬間から、すべてが変わってしまったんだ。


「大丈夫?」

 俺の肩にそっと手を置いたのは佳奈ちゃん、こんな時でも他人を思いやることが出来る、彼女は思ってた通りの優しい人。

 俺は、こんなヘタレな人間だけど、俺に出来ることをしなきゃならないんだ。だって男なんだから、彼女たちを護って、無事に地球へ帰らなければならないんだ!

 もう一度、彼女たちがステージに立てるように。


「ありがとう」

 顔を上げると佳奈ちゃんの笑顔。狙ってたわけじゃないぞ!

 気合入れると、急にお腹がグルグル音を立てた。

「なんか、食べるものないかな?」

 決戦前に腹ごしらえしなきゃ。


「地球人は、こんな非常事態でも空腹を感じるのね」

 呆れたように言いながら、ガラスの向こうで傍観している白衣の連中に目配せした。

程なく、銀色の壁に引き出しが現われ、ハンバーガーと飲み物が4人分出てきた。ポテトは一緒ではなかった。


「あたしたちがいなくなって、麻美、心配してるだろうな……、社長やマネージャーに泣きついてるかな、警察沙汰になんかなってなきゃいいけど」

 床に座ってハンバーガーを食べながら、望結がボソッと言った。

 そうなのだ、人気絶頂のガールズグループが忽然と消えた、なんてことになってたら、大騒ぎ間違いなし、マスコミがわんさと駆けつけているかもしれない。


「帰った時、どんな言い訳する? どこ行ってたかって聞かれたら」

 彼女は元の世界に帰れると信じているようだ、楽天的……。

「記憶がないって惚けりゃいいじゃん」

 佳奈も相変わらず呑気な発想。

「みんな揃って記憶がないって言うの? もっとマシな言い訳、考えとかなきゃ」

 と望結。

「帰れるかどうか、わかんないのよ」

 危機的状況をしっかり把握しているのは知世だけのようだ。


 確かに、帰れる保障はどこにもない。でも、

「絶対、帰らなきゃ!」


 俺が突然、立ち上がったので、みんなキョトンとしながら見上げた。

「コンサートツアー、まだ終わってないし、俺、明日も行く予定なんだ、もう今日になってるかも知れないけど」


 拳を握り締めた俺を見上げ、

「こんな時にコンサート?」

 知世が呆れたよう言った。

「でも、それって大事だよ、俺1人なら、いなくなっても悲しんでくれる人はたかが知れてるけど、君たちが突然いなくなったら、何万人ってファンが悲しむんだぞ」

 俺の発言に3人は顔を見合わせた。


「俺の友達、望結ちゃんの大ファンで、コンサート、すごく楽しみにしてるんだよ、今日は最前列でラッキーだった、この先、そんな幸運はないかもしれないけど、どんな席からでもスタンドのテッペンからだって何回でも見たいもん、絶対、帰ってもらわなきゃ」

「そうね、あなたたちは元の世界に戻らなきゃね」

 ジューレが静かに言った。

「ちゃんと帰ってもらわなきゃ、あたしも責任感じるし」


「よっしゃ!」

 望結が立ち上がった。

「行きましょ」

 佳奈と知世も立ち上がった。

 その姿は凛々しかった。まるでステージ上の彼女らみたいで、俺のハートはキュンとなった。


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