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転送 その2

 ドラマのラブシーンみたいに、しっかり抱き合っている。

 少年の顔は俯いていて見えなかったけど、佳奈は泣いているのが背中の震えでわかった。そして、その横には、中学生くらいの息を呑むような美少女がいた。


「大丈夫だから」

 少年が真っ赤になりながらも佳奈の背中を優しく擦ってなだめている。

「大丈夫じゃないわよ、吐きそう……」

「やめてくれよ~」

 佳奈から少し離れた少年の顔を見て、あたしは、

「あーっ!」

 思わず声をあげた。

 コンサートで最前列に座っていた子だ、そして、神社で見かけた子でもある。この子も転送されたってことは、あたしたちと同じなの?


 あたしの叫びに、佳奈はやっとあたしたちの存在に気付いてくれた。

「佳奈! 無事だったんだ」

 知世が先に駆け寄った。

「あなたたちも無事で……」

 佳奈はそう言いかけたが、まだしゃがみこんでいたあたしを見て、

「大丈夫? 死にそうな顔して」

 言い直した。


「あなたも感じたのね、Fブロックがクリーニングされ、多くの人々が宇宙空間に放り出されたショックを」

 側に立っていた美少女が言った。

 彼女はおそらく、さっきガラスの向こうの奴らが言っていた〝ジューレ〟なんだろう。金色に輝く髪とエメラルドの瞳、まだあどけなさは残ってるけど、あと3年もすれば、間違いなく絶世の美女と言われるだろう。


「なんで? なんで大勢の人を殺さなければならなかったんだよ!」

 少年がジューレを責めた。

「言ったでしょ、あのブロックは汚染の可能性があった、あなたたちを迅速に排除できなかった以上、他のブロックに汚染が拡大する前に、ブロックの中身をすべて破棄するしかないとコンピューターが判断したのよ」

 ジューレは悲しそうに目を伏せた。

「俺たちのせいだって言うのか?」

「不可抗力だったのはわかっている、でも、汚染源はあなたたちよ」


「地球上に存在するウィルスは、彼らの命取りになるんだって」

 知世が口を挟んだ。

「ウィルスなんか持ってないぞ、俺は」

「ただの風邪のウィルスでも、彼らには命とりなんですって」

「風邪なんかひいてないし」

「ひいてなくても、ウィルスがくっついてる場合があるでしょ、冬なんだし」


 そうなんだ、口を尖らせてる少年が自覚はなくてもウィルス保持者なら、ジューレは大丈夫なの?

「あたしも、大丈夫じゃないかも知れないわね」

 あたしの心を読んだ彼女は、淋しそうに答えた。


「日本語、発音できるようになったんだ」

 佳奈がジューレに言った。

「ええ、なんとかね、あたしはジューレ、この船で今、唯一残った超能力者よ、だから地球にテレパシーを送ってあなたたちに助けを求めた、それに応えてくれたのは」

 そう言いながら、あたしと、まだ佳奈の横にくっついている少年に視線を送った。


 あたしと知世も彼に注目した。

 あたしたちに見つめられ、彼は目のやり場に困った様子で、耳まで真っ赤しながら視線を落とした。

「彼は、上野希輝(きら)くん」

 佳奈が紹介してくれた。

「よろしく」

 希輝は恥ずかしそうに頭を下げた。コンサートに来てたってことはフィラギスのファン、そうだ佳奈のうちわを持ってたから彼女のファンなんだ。こんな状況だけど、間近にいられてラッキー!とか思ってるんじゃないかしら。


 でも、初めて聞く名前だ、間近で見ても、以前に会った記憶はない。

 じゃあ、なぜ、コンサートの時、あれほど気になったの? おそらく同じ風景を見たはずだ。


「あのぉ、あたしたち、なんでこんなとこに来たのか、ここはどこなのか、知ってるなら教えてくれない?」

 どうやら佳奈は、まだ状況を把握していないらしい、と、言っても、あたしだって半信半疑だけど……。


 佳奈の問いに、ジューレが説明した。

 さっきガラスの向こうにいた奴らが言ったのと同じ内容だったが、補足情報が1つあった。メインコンピューターをシャットダウンさせないと、あたしたちは元の世界に戻れないってこと、転送装置をコンピューターがロックしたらしい。


「あたし1人では、コンピュータールームまで辿り着けないわ、もっと強い能力ちからを持った人の助けが必要なのよ」

「それはさっきあの人たちから聞いたわ、でもあたしたちになにが出来るっていうの? 超能力なんか持ってないし」

 知世が念押しした。

 彼女の言うとおり、役に立てるとは思えない。


「役に立ってもらわねば困る、危険を冒して召喚したのだから」

 ガラスの向こうから白衣の男が言った。

「冗談じゃないわ、今まで何人もの超能力者が行って無理だったんでしょ? あたしたちに出来る訳ないわ!」

「あなたたちには強い能力があるはずよ、今まで使う必要がなかったから覚醒しなかっただけで、必要に迫られれば、ちゃんと発揮できるのよ」

 ジューレはそう言いながら希輝を見た。


「ちゃんと自分の身を護れたでしょ?」

「俺が?」

「ソルジャーをやっつけたじゃないの」

「俺が?」

 希輝は目をパチクリさせていた。

「アレは、彼がやったって言うの?」

 佳奈も同様、信じられないって表情で彼を見た。

 なにがあったか知らないが、どうやら希輝はすでに超能力を使ったらしい。

 だからなの?

 彼の能力ちからに反応して、あたしはあんな幻覚をコンサート中に見せられたたの?


「あなたと出会ったから、希輝の能力が覚醒したんだと思うわ」

 ジューレはまた、言葉にしていないあたしの思考に返答した。

 超能力者って気味悪い、迂闊に考えられないじゃないの。おっと、こんな考えも読まれてるのか……。


「なんか、つじつまの合わない話じゃない? あたしたちにあなたたちと同じ遺伝子があるんなら、オーディションで集まった時にそれが起きてもおかしくなかったと思わない? あたしと希輝くんが会って、同じ幻覚を見たようなことが」

「その訳はあたしにもわからないわ、あなたと希輝くんの間には、なにか特別な繋がりがあるのかも知れない」

 ジューレの言葉を聞いて、あたしは再び希輝を見た。

 今度は彼もあたしの視線から逃げようとはしなかった。


「あなたにも、希輝と同じ超能力があるのは間違いないわ」

 ジューレは付け加えた。

「そして、他の2人にも」

 そう言われた知世は厳しい表情で口を真一文字に結んでいた。佳奈はまだ信じられないって感じでポカンとしていた。


 そんな2人を見て、ジューレは大きな溜息をついたが、

「ここで議論している時間はないのよ、嫌でもメインコンピュータールームに行ってもらわなきゃならない、あたしがちゃんと案内出来る間に」


 彼女もガラスの向こうで傍観を決め込んでいる奴らと同じ、地球上のウィルスに対する免疫を持たない種族なんだ。ウィルスに感染したら命取りになる。


「急がなければならないのよ」

 そう言ったジューレの瞳には、確固たる決意が宿っていた。


 その迫力にあたしは飲まれた。


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