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殺戮 その1

 夢なら覚めないでくれ!

 こんな素敵な夢、滅多に見られるもんじゃないから……。


 佳奈ちゃんが俺を見つめている、距離30センチの大アップ、長いまつげの先までハッキリ!

 なんて可愛い顔してるんだろう、クッキリした二重の目、大きくて綺麗な瞳、ふっくらした唇……、それがなにかを囁くように動いている。なんてリアルな夢なんだろ、声まで聞こえてきたような気がする。


「ねえ、しっかりしてよ!」

 だってさ、俺、しっかりしてるぞ、しっかり夢の中……。

 と、思った次の瞬間、


 パチン!

 頬を叩かれた痛み、えっ? 夢の中でも痛い?


「えっ?」

 俺はビックリして、目をパチクリさせた。

「大丈夫?」

 今度はハッキリと佳奈ちゃんの声が聞こえた。そして彼女の華奢な左腕が俺の首筋を支え、頭は彼女の膝に乗っかってることもわかった。俺の頬を打ったのは、彼女の右手……。


「あ……」

 言葉が出なかった。

 ただ茫然と彼女の大きな瞳を見つめた。

 彼女に膝枕されてる? これが夢でないとしら、どういう状況なんだ?


「それはこっちが聞きたいわ」

 佳奈は言葉にしていない俺の疑問に反応した。

「あたしだって、なにがなんだかさっぱり……、気が付いたら、君とココにいたんだから」

 俺たちは芝生の上にいた。

「手、だるいんだけど」

「あ、ゴメンなさい」


 名残惜しいが、俺は慌てて体を起こし、自力で座り直した。

 周囲を見渡すと、のどかな公園の風景が視界に広がった。ブランコや鉄棒、ジャングルジム、小さな子供たちが駆け回る昼下がり、整備の行き届いた公園だった。


 意識を失う前は、確か鎮守の社にいた。

 満月の夜で、三本脚の鳥居に引き寄せられて……、それから、目の前が真っ白になって眩しくて目を閉じて……。


 どうなったんだろう?


 佳奈はしきりにスマホを操作していたが、

「全然ダメなのよ、君のは?」

 俺はバックを持っていないことに気付き、

「鞄の中に……」

 周囲を見たがどこにも無い。長蛇の列を並んで入手したグッズも入っているのに、どこへ置いて来たんだ!


「君、コンサートに来てたでしょ、最前列にいた」

 佳奈ちゃんがちゃんと俺の存在に!

「気付いてくれてたんですね、感激!」

 俺は思わず状況を忘れて舞い上がった。

「俺、上野希輝って言います、ステージの上からでも、ちゃんと見えるんですね」

 佳奈ちゃんは年上だから、敬語で話すべきだよな。

「ええ、あたしのうちわ持ってたのに、望結のほうばっか見てたわよね」

「………」

 それにも気付いてたなんて……。


「望結と知り合いなの? あの子も君に気を取られて、ちっとも集中できない感じだったし、変だったわ」

「やっぱり、望結ちゃんのミスは、俺のせいだったんですね」

「ほんと、望結らしくなかったわ。で、夜中にホテルを抜け出したりするから、みんな心配になって尾行してみたら、君もそこにいて……」

 佳奈は訝しげに俺を見た。


「待ち合わせしてたの?」

「まさかぁ! 望結ちゃんとは話をしたこともないです」

「じゃあ、なんで」

「俺だってビックリしましたよ、あんなとこにメンバーが揃ってるなんて」

「ビックリしたって感じじゃなかったけどな、無表情だったし、まるで夢遊病者みたいだったよ」


 そうだ、思い出した。

 コンサートの後、みんなと別れて家に帰る途中、不思議な声を聞いて引き返したんだ。

 どうやってあの神社にたどり着いたのかは覚えていない。でも、気付いたら真っ暗な鎮守の杜に入っていて、気味悪いから戻ろうとしたけど出来なかった。


「自分でもなんであんなところに行ったのかわかんないんです。意識はハッキリしてたんですけど、体が言うことをきかなかったんです。フィラギスのメンバーが勢ぞろいしてるのは見えてて、なんでこんなところにいるんだろう、外で会えるなんて、ラッキー!なんて思ったけど……」

 そんなこと思っている場合ではなかった。

「自分の意思では止まることもできず、意志に反して三本脚の鳥居に引き寄せられたんですよ、なんか怖かった」


「それで助けてって言ったのね」

 俺、そんなこと言ったっけ?

「なんかわかんかいけど、助けてあげなきゃって思って駆け寄ったら……いったい、なにが起きたの?」

 見ず知らずの俺を助けてくれようとしたなんて、佳奈ちゃんは優しい人なんだ。嬉しさのあまり鼻の下を伸ばしていたのだろう、佳奈ちゃんは訝しげな目を向けた。


「お、俺だってなにがなんだかわかんないですよ、ここはどこです?」

 俺は佳奈の不審に満ちた目から逃れるように周囲に視線を廻らせた。

 一見、普通の公園、そして道路の向こうにはマンションが建っている。でも、違和感があった。


「ここ、なんか変……」

「あたしもそう思う」

 佳奈も眉をひそめながら周囲を見渡した。

 そして、ふと空を見上げた。

 雲ひとつない快晴、銀色の太陽が輝いているはず……なのにそれは見当たらなかった。


 俺は後ろにひっくり返りそうになりながら、輝いているはずの太陽を探したが、どこにもない?

「太陽が、ない」

「それに空の色も不自然だと思わない?」

 なんだかマッド、絵具で塗りつぶしたようなブルーに見える。


 なんなんだ、ここは?


 湧きある不安に鳥肌が立った。

 ポカンと口を開けて空を見上げている俺たちの姿を不思議に思ったのだろう、遊んでいた子供たちが近寄って来た。


「XXXX」

 俺たちに向かってなにか言ったが、それは聞いたことのない言葉だった。

 子供たちの人種は様々で、白人、黒人、東洋人系、髪の色も眼の色も様々だった。

「XXXX」

 しきりに話しかけているが答えようがない。

 子供たちは茫然としたまま無反応な俺たちに首を傾げていた。


「まいったわね、日本語話せる人、いないのかな」

 佳奈はベンチで井戸端会議をしている女性たちに目をやったが、唇の動きから察すると、日本語ではなさそうだ。

「ここがどこか聞けやしない」

 佳奈は口を尖らせたが、その表情に危機感はない、案外肝が据わってるのか? 俺はすっかり怖気づいているのに……。


 その時、俺の不安を煽るように、非常ベルが鳴り響いた。


 けたたましい音に子供たちは驚き、先を争って母親の元へ駆け戻った。

「なんだろ?」

 脳天に響くベルの音に、俺は得体の知れない恐怖にさいなまれた。

「なにかしらね」

 佳奈も不安を抑えるように両手で自分の二の腕を抱えた。


 周囲の人々の慌てようを見ると、異常事態が勃発しているに違いない。俺たちはこのままでいいのか? 避難したほうが……でもどこへ?

 それに、あの時、知世も望結も一緒だったはず、麻美は途中で転んだのが見えたけど……、3人はどこなんだ?

「ほんと、彼女たちどこにいるのかしら?」

 まただ、佳奈は言葉にしていない俺の疑問に反応した。

「なんで?」

 まさか俺の心が読めるの? と、聞こうとした瞬間、

「なに? アレ」

 佳奈の口調がにわかに厳しくなった。


「えっ?」

 彼女が指差す方向を見た俺は縮み上がった。


 そこには異様な物体が存在した。

 全身銀色の宇宙服みたいなのを着た人間? それともロボット? どこから沸いて出たのか知らないが、すでに何体もいた。

 マシンガンのような武器を持っていて……。


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