表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

遭遇 その2

 間違いないわ、あの時、まるで宇宙に放り出されたようで重力の束縛もなく、フワフワと浮いているような感じの中で見た鳥居だわ。

「これは……」

 あたしが思わず独り言を漏らした時、


「きゃぁーっ!」

 闇を引き裂く悲鳴が響いた。

「なにしてんのよ!」

「足、掴まれたわ!」

「バカ! 木の根っこでしょ」

「放してよ、痛いじゃないの!」


 大騒ぎしている声には聞き覚えがあった。

 闇の中に目を凝らすと、銀杏の後ろから3人が姿を現した。

 しがみつく麻美を振り払おうとしている知世と、その斜め後ろで、涼しい顔をしている佳奈。


「あなたたち……なんでこんなとこにいるの?」

 あたしの問いに知世がすかさず、

「それはこっちのセリフよ、無断でホテル抜け出して、どう言うつもりなの?」

 口調はお怒りモード、そう責められても答えられない。あたし自身、なんでこんなところに来たのか、わかんないんだから……。


「あなたの様子が変すぎだから、心配して尾行したのよ」

 佳奈はなだめるように言ったが、

「別に心配してくれなくたって……」

 自分の行動に困惑しているあたしはつい反抗的になってしまった。あたしってほんと天邪鬼。

「なによ! あなた、自分の立場がわかってんの?」

 生意気なあたしに知世がキレる。

「わかってるわよ、明日のコンサートまでには帰ればいいんでしょ」

「そういう問題じゃないでしょ!」


 そう……よくわかってる、勝手なことをしてるのは、でも自分でもなんでこんなことしてるのかわかんなくて、混乱して、せっかく心配してくれてる仲間に対して反発してしまった。


「コレ、なに?」

 エキサイトしそうなあたしと知世の口論を止めるように、佳奈が三本脚の鳥居を指差した。


「鳥居でしょ」

 知世が素っ気なく答えた。

「でも、変わってるわね」

「……ええ」

「なんかさぁ、どっかで見たような気、しない?」

「そう言われると……」


 まさか、知世と佳奈もコンサートの最中、あの幻覚を見たの?


 あたしたちが三本脚の鳥居に気を取られていると、

「ひえっ!」

 麻美が情けない悲鳴をあげた。


「なによぉ」

 また、しがみつかれた知世が鬱陶しそうに言った。麻美は彼女の背中に隠れながら、木々が立ち並ぶ杜の中を指差した。

 そこには不気味な光が揺れていた。

 最初は赤く、そしてブルー、グリーンに変化していく。

「……なに?」

 あたし無意識に佳奈の横にピタリとくっ付いたが、佳奈もあたしの後ろに回ろうとして、2人は譲り合いと言うか、隠れ合いと言うか……。


「あれって?」

 目を凝らしたあたしは、それがコンサート会場でファンが振っているペンライトだと気付いた。

 それを持ってこちらに近付いて来るのは、あの男の子だった。

「あの子は……」


 佳奈のうちわこそ持っていいなかったが、確かに最前列にいた彼だった。

「誰?」

 知世の問いに答えられなかった。

 だって本当に知らないんだから……。


「コンサートに来てた人よね」

 佳奈の答えに知世は驚きの目を向けた。

「客席のファンの顔、覚えてるの?」

「最前列にいたから顔は見えたわ、あたしのうちわを持ってたのに、全然こっち見てなかったから、なんで?って思って、それで覚えてたのよ」


 そんな話をしている間に、男の子は真っ直ぐこちらへ歩いて来た。


 あたしたちの存在に気付かないはずない距離、しかし、彼の表情にはなんの変化も現れない。まるで夢遊病者のよう、それともなにかに操られ、自分の意思とは関係なく動かされてるって感じかしら。

 虚ろな表情、なにも映していない瞳、彼はあたしたちのすぐ横を通過し、真っ直ぐ三本脚の鳥居に向かった。


「ちょっと、あなた」

 勇気ある知世が声をかけたが、反応はなかった。

 しかし、あたしには聞こえた……ような気がした。

 〝助けて〟って、

 さっき聞いた女性の声じゃない。おそらく、夢遊病者のように歩いて行くその子の、救いを求める声が……。

 彼の体は強い力で引き寄せられるように、鳥居の真ん中まで行った。


 なにからかはわからないけど、助けてあげなきゃ!

 あたしはそう感じて、1歩、踏み出したが、佳奈の方が早かった。


 彼女にも聞こえたのかしら? 助けを求める声が……。

 彼を追って鳥居の中央に駆け込んだ。

 遅れながらあたしも後に続いた。


「ちょっと!」

 冷静な知世までがそこへ来て、当然、取り残されるのが嫌な麻美も、こちらへ来ようとしたが、

「キャッ!」

 また、なにかに躓いて転んだ。

「麻美?」

 知世が振り返った瞬間、


 !!!


 鳥居の中にいたあたしたちは、巨大な光の玉に包まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ