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解除 その1

「1人で行っちゃったわよ」

 佳奈が心配そうに希輝が消えた場所を見た。


 細い亀裂が入ったのは見えたが、反応出来ないくらいアッという間の出来事で、すぐに塞がった。その一瞬を逃さず、希輝は1人で中に飛び込んだのだ。


「頼りなさそうだったのに、やっぱ男の子ね」

 知世は意外そうに言った。

 勇気は買うが、一人で任せるのは心もとない。中はどうなってるのか不明だし、彼が首尾よくパスワードを入力できるかどうか……。


「もう1度、やってみてくれない? あの幅じゃみんなが通れないわ、もっと広いのを頼むわ」

 再び、薄紫のバリアを張って、レーザーの攻撃からあたしたちを護ってくれているジューレにダメ元で言ってみたが、その時、激しい眩暈に襲われた。


「ちょっとぉ」

 佳奈がよろめいたあたしの腕を掴んだ。

 頭の中がクルクル回り、平衡感覚が失われた。佳奈が支えてくれてなければ、バッタリいっていただろう。


「大丈夫?」

 大丈夫じゃない……。

 やがて頭の中にリアルな映像が浮かび上がった。その感覚はあの時に似ていた。希輝と初めて会ったコンサートの時……。しかし、あの時と違って底知れぬ恐怖感に襲われた。


 今、見えている映像はなに? 希輝もこれを見ているんだろうか?

 そしてこの痛みは……、彼が味わっているものと同じなの?


「わかるの?」

 ジューレが眉をひそめた。

「そうだったのね、今まで中からのテレパシーは受け取れなかったから、なにがあったかわからなかったけど……」


 リアルな映像……。

 アレはあたしたちの生みの母……。

 双子?


「希輝は心理攻撃を受けているのね?」

 あたしが中継する形で、ジューレも希輝が味わっている苦痛を感じたようだ。

 希輝の心の中が丸見えだった。これはあたしたちが双子だから? はじめて会った時の不思議な感覚は血の繋がりがあったからなんだ。


 でもなぜ離れ離れになってしまったの?

 なぜ二人一緒に引き取られて、姉弟ともに育ててはもらえなかったの?

 希輝はあたしと違って、養父母との関係がうまく行っていないようだ。あたしも実子でないことは聞かされていたが、実の子と同じように育てられ、愛されていると思う。

 希輝はそうじゃないんだ、自分は厄介者だと思っていたんだ。

 でも、本当にそうなの?


「前に行った人たちも、そんな攻撃を受けて……。そうして追い詰められて、精神を崩壊させられた」

 ジューレは辛そうに目を伏せた。

「それって、どう言う意味? 中でなにが起きてるかわかるの?」

 知世が首をかしげた。


「その人の弱みを探り出して責め続け、生きる気力を失うまで攻撃し続ける、耳をふさいでもムダ、聞きたくなくても頭に入ってくるのよ、テレパシーを強く受ける超能力者には効果的だわ」

「そんなので、人間が殺せるの?」

「人の神経って案外もろいモノよ、自分は悪くなくても、繰り返し植えつけられればそう思うようになる。精神的に追いつめられて……、先に行った仲間は、自ら命を絶つように仕向けられたんだわ」


 ジューレは必死で涙を堪えていた。彼女の胸の痛みが流れ込んでくる。きっと同じ目に遭っただろう家族の苦しみを想像してしまったのだろう。


「じゃあ、彼も!」

 あたしの腕を掴む、佳奈の指に力が入った。肉に食い込むくらい。

「助けなきゃ!」


 佳奈の言う通りだ、助けに行かなきゃ!

 でも、どうやって?


 希輝は追い詰められている、自分はいつ超能力を暴走させてしまうかわからない危険な存在だと思いはじめている。元の場所に戻るべきではないと思い込まされている。もう限界だ。意識が遠のいていくのがわかる。


 ダメよ!

 惑わされないで、一緒に帰るって言ったじゃない!

 しっかりしてよ!


「コンサート、来るんでしょ!」


 そんな言葉しか出なかったが、ありったけの大声で叫んでいた。


 しかし返事はない。

 どうしたのよ! 聞こえてるんでしょ!

 まさかもう……。

 恐怖がこみあげ、全身が震えた。

 血の繋がった弟がいるとわかったのに、感動的にハグすることもなく、このまま会えなくなるの?


「どうなってるの? 希輝くんは無事なの?」

 佳奈が心配そうにあたしを覗き込んだ。

「まさか、心理攻撃で」

 知世の声も震えていた。

 もし希輝が失敗していたら、次はあたしたちだ、希輝がされたように心の中を蹂躙され、死にたくなるような苦痛を浴びせられるのだ。


 そんな思いで混乱している時、

 天使が通ったのか? 沈黙がバリアの中に充満した。


 みんなフリーズして、息遣いも聞こえない静寂がどのくらい続いただろう、とても長く感じた。

 やがて、


「なに?」

 最初、異変に気付いたのは知世だった。


 ジューレも気付いていたのかも知れないが、まだ、黙っていた。

 赤いレーザーの攻撃が止んだ。

 続いて、床が大きく揺れた。

 左右に2、3度、あたしたちはよろめき、ぶつかり合いながらもかろうじて立っていた。その揺れはすぐにおさまり、同時に、ジューレはあたしたちを包んでいたバリアを消した。


「手動に切り替わったようだわ」

 ジューレはホッと息をついた。

「と、言うことは、彼、パスワードを入力したの?」

 知世はまだ閉じたままのドアを見た。


 揺れに襲われた瞬間、それまで感じていた希輝の意識が途切れた。

 あたしの気が逸れたからなの? それとも彼の意識がなくなったのか……。

 あたしはドアに向かって走っていた。


「希輝!」

 ノブのないドアをどうやって開けるのかもわからず、あたしはバカみたいに両手で叩いた。


「どうしたの? 望結は」

 あたしの不可解な行動に、知世は戸惑っているようだ。

「望結と希輝は双子だったのよ。道理で……彼と逢った時、初めての気がしなかったのはどことなく望結と似てたからなんだわ」

 そう言ったのは佳奈の声、なんで知ってるの? 彼女にもあたしの心が見えたのかしら?

 今はそんなことどうでもいい、希輝がどうなったのか、無事でいて!


 ありったけの力を込めて叩くと、ドアが外れて向こう側に倒れた。


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