決意 その3
「伏せて!」
ジューレの叫びと同時に、四方八方から一斉に真っ赤なレーザーが照射された。
俺と佳奈はその威力を知っているけど知世と望結は知らない。
俺に出来るのなら、バリアを張らなきゃ!
今度もどうやったか定かではないが、ちゃんと防御できたようだ。
レーザーは弾き返され、自らの計器を傷つけた。
みんなは直撃を免れたが、
「バリアが邪魔よ」
すぐに佳奈が叫んだ。
「えっ?」
俺がバリアを張ったことを知らない知世と望結は、渡されていた銃で反撃に出ようとしていた。
このまま撃てば跳ね返って来る。俺は慌ててバリアを消した。
知世がトリガーを絞った。
どうやら間に合ったらしい、おもちゃみたいな銃から発射された緑の光線は、俺たちを狙った真っ赤なレーザーの発射口を粉砕した。
「当ったり!」
続いて望結も反撃していた。
まるでゲームでもしているように、次々と発射口に命中させている。なかなかの腕前、ふだんゲームをやりこんでいるのか? それに女の子とは思えない逞しさだ。
佳奈は2人の活躍に拍手……してる場合か!
そう言う俺の銃も役に立ってないけど……。
「麻美がいなくてよかったわ、きっとパニックになって泣きわめくだけだろうし」
佳奈がため息交じりに言った。
確かに、そんなタイプに思える。ホラー映画なんかでやたら悲鳴をあげて大騒ぎし、一番に殺さてしまう役って感じかな。
「そこまで言ってないけど」
俺の思考を読んだ佳奈は咎めるような視線を流しながら、望結と知世を援護するため参戦した。
みんなは散らばって、敵の攻撃を身軽に避けながら、次々と発射口を潰していった。
ふだんダンスレッスンなどで鍛えてるだけあって、身のこなしは軽い。
しかし、
「こんなことで消耗しちゃ、進めないわ!」
ジューレが叫んだ。
彼女の言う通り、赤いレーザーの攻撃はいくら発射口を壊しても新たに出現して限なく続く、俺も射撃に参加していたが、みんなの表情に疲れが見えはじめていた。
攻撃はますます激しさを増し、散らばっていた4人はジリジリと後退、元の中心部に集められた。
一瞬、敵の攻撃が止んだ。
それは追い詰めた獲物に、とどめの一撃を加える為の間、だった。
レーザーの一斉射撃を受けそうになった瞬間、再びバリアが現れた。
これも俺? と思ったが、今度はジューレの能力だった。
彼女が上げた右手から薄紫のベールが広がって俺たちを包んでいた。こんな風にハッキリ使えればわかりやすいのに……。
望結はホッとして尻餅をついた。
「バリアが張れるなら最初からやってよね」
いやいや、俺はそうしたけど、気付かずに打ち始めたのは君たちだろ。
「そうなの?」
望結も俺の思考が読めるようになっているようだ。
「それはともかく、なんか作戦立てたほうが良かったんじゃない? ここへ来る前に」
知世が言った。
「どんな作戦もムダよ、打てる手は全て尽くしたわ、他に方法はない、両親も姉も、死力を尽くして臨んだのよ、正面切って行くしかないのよ」
ジューレは寂しそうに目を伏せた。彼女の家族もコンピューターを止めに行って、戻らなかったんだ。
「じゃあ、バリアを張ったままドアまで移動できないかしら」
知世が返した。
「そうしてもコンピューターの防御は強力で、バリアのままじゃ通れないし、テレポートも難しいわ」
「八方ふさがりって訳」
ジューレは少し考えてから、
「そうでもないわ、あたしがバリアをドアにぶつける、そうしたら一瞬、亀裂が入るはずよ、その隙間にあなたたちが飛び込むの」
「飛び込んだら?」
望結の疑問はもっともだ。
飛び込んだ途端、また中で一斉射撃を受けるかも知れないし。
「誤作動してからはコンピュータールームへ行ったことがないの、今、どうなっているのかわからないのよ。コンピューターの防御は鉄壁で、テレパシーも遮断するから、前に行った仲間がどうなったかもわからない」
「なにかが待ち受けてるのね、でなきゃ、ジューレみたいな超能力者が行って、失敗するはずないもん」
「でも、行くしかないわ」
決意を込めて言ったのは望結だった。
早く終わらせたいのだろうが、中に入って成功する確率は、とても低いような気がする。みんな不安はないんだろうか? なんで平気な顔してられるんだ? 俺はすっかりビビッてる、ついさっき、俺に出来ることをしなきゃならない、男なんだから彼女たちを護って、無事に地球へ帰らなければならないんだ! って決意したばかりなのに情けない。でも!
「パスワードを教えて」
俺の言葉を聞いて、ジューレは一瞬、意外そうに眉根を上げた。きっと俺の意気地ない思考を読んでいたのだろう。マズい! これってみんなにも筒抜けなんだ……。
恥ずかしさに穴があったら入りたい思いをしている間に、ジューレはテレパシーでパスワードを送ってきた。
複雑な暗号も、文字や言葉でなく頭の中に直接インプットされると、スーッと入ってくる、きっと他のみんなにも送ったのだろう。こういう使い方は便利だが……。
「じゃあ、やるわよ、チャンスは1度」
ジューレは両手を頭上で握り締め、そして、その手をノブのないドアに向かって振り下ろした。
薄紫のバリアが槍となり、ドアに向かって一直線。
バリバリバリ!
落雷の轟音。
しかしドアが破壊された訳ではなかった。
でも、俺の目にはハッキリと亀裂が見えた。それは大きな裂け目ではない、一人しか通れそうにない幅だ。
あれは! 俺がさっき求めた穴だ!
と、思った次の瞬間、俺は亀裂に飛び込んでいた。
「希輝!」
誰の叫びかは定かでなかったが、その声も亀裂が塞がると同時に消えた。




