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第98話

 一応敵のいた場所に俺を単独行動させるわけにはいかないと言ってきたヤガリとコトラをお供に、俺は神聖なる洞窟に入っていった。


 ケンタウロスにとっての聖地なのに、勝手に魔物が空けた横穴。あとで塞いでおこう。


「この洞窟の美しさと、掘られた横穴の稚拙さの差が極端だな」


 鉱山育ちのヤガリがしみじみと言った。


「やっぱこの横穴、無理やり空けたの?」


「ああ。洞窟自体も人工的と言うか……掘られたものだが、神が形作った洞窟の美しさと言ったらない。しかし掘られた横穴がそれを台無しにしている。魔物の中にドワーフが一人でもいれば、もっと美しい穴を掘ったと言うのに」


「横穴に綺麗や汚いがあるのか?」


「あるとも。鉱脈に沿って掘られたような、岩に合わせて掘られた穴は美しいぞ。おれたちドワーフにも美的意識はある。それは鉱山においても同じだ。岩の目に沿って丁寧に拓かれた穴は崩れることはないが、鉱脈を探す為に無理やり掘った穴は岩止めや土止めで無理やり崩落を食い止めなければならんしやはり違和感を覚える」


 ヤガリが地球のトンネルを見たらどう評価するだろうか。発破をかけて無理やり空けて無理やり固めた穴は、ドワーフからすると美しくないような気がするが。


「だが、この空気は嫌いではない」


「あー。多分それ、ベガのせい」


「ベガ?」


「ここにいる守護獣。天馬。風と大地の守護獣」


「へえ」


 ヤガリは小さく口笛を鳴らす。


「なるほど、その守護獣が復活したなら、ここも元の聖域に戻るな」


 頼るのはシンゴの【再生】だろうが、と付け加えたヤガリと共に、本道の一番奥、扉くらいの穴に風が吹き荒れている所まで辿り着いた。


「なるほど、奥が聖域か」


「そ。まあ今は残虐ショーが終わったばかりだろうけど」


「魔物に同情しているのか? 守護獣に牙をむいた愚か者たちを」


「まさか。守護獣の目の前でケンタウロスに手を出した時点でそいつが安らかに死なせてもらえないことは確定した。しかも調子に乗って守護獣自身にまで手を出した。あの魔族とやらはそれで神に選ばれると自信満々だったけど、俺が来た時点でもうその道はなかったな」


「おれも同意見だ。しかし……魔族か」


 ヤガリがぽつんと呟いた。


「種族名は分かるか?」


「確か、ダークエルフとか言ってたな」


「なら、魔族で間違いないな。敵もこちらを潰すのに本腰を入れてきたわけか」


 きょとんとした顔をしてたんだろう、俺を見て、ヤガリは説明を始めた。


「魔獣、魔物、魔族、魔人、魔神という分類が敵にあることは?」


「神威【鑑定】が教えてくれた」


「それなら話は早い。それは種族名ではなく、死物に与えられた階級だ。この階級で仲間同士の関係性を決めるんだな。そして、実力が上がれば階級もあがる。魔獣が魔物に上がるのは相当の知性や戦闘能力を求められるが、魔物が魔族に、魔族が魔人になるのは、手柄をあげ、己の力を高めれば難しいことではないと言う。もちろん種族によって能力も違う。ダークエルフは死物の中でも高等種族だ。最低でも魔族が保証され、最高ならば魔人にも昇格できる、と聞いたことがある」


「なんか、考えてることを口に出してしまうお間抜けだったんだが」


「魔力なんかが相当高かったんだろう。出なければ魔族とは言えん。ケンタウロスや守護獣の研究で成り上がった魔族だな」


「あんな間抜けにケンタウロスをいいようにされただなんて、ベガも許せないだろうし俺も許せねえよ」


「ぅな」


「そうかコトラも同意見か」


「な」


 ヤガリは笑うと、風の中に入っていき、コトラと俺も続いた。



「ああ、来たか」


 サーラはスッキリした顔で笑っていた。


 ベガは魔族を足蹴にして、すいと視線を泳がせる。


「ひぃぃ……ひぃぃ……」


 オグロとか言った魔族は涙と鼻水を流しながら呻いていたし、魔物はもう言葉も出ないらしい。


 ただ、想像してた残虐シーンの気配は欠片もなかった。魔物がいる場所を除けば、聖域の空気の柔らかさ。血臭も吐いた跡もない。魔物に傷跡の一つもついていない。


 多分、血を流したりとかしない痛めつけ方をしたんだろうなあ。ベガとしてはこれ以上ここを汚されたくなかったんだろう。魔族たちがどれだけこの聖域に勝手に手を入れてたかってことだな。その怒りの分も含めたんだろう。


「……気が済んだなら、いいけど」


「これ以上やってもこいつらには理解できないと思ってな」


ベガはオグロの顔を蹴飛ばした。


「じゃあ、【再生】を解くからちゃんととどめ刺してくれよな」


 端末で、【再生】の効果を抜く。


 ベガとサーラの目が光った。


 ぶわり、と風が渦巻き、熱気を帯びる。


 一瞬浮き上がった魔物はバラバラに分断され。


 その肉は血を噴き出す前に熱風で粉微塵になった。


「全く、魔族めらが」


 ベガは忌々しそうに、塵を風に乗せて外に放った。


「じゃあ、この洞窟自体も【再生】していいか?」


「頼めるか?」


「任せとけ」


 俺は【再生】の範囲を洞窟全体に広げ、【再生】する。


 出来た横穴や抜け穴も全部消え、ケンタウロスが歩ける広さがある聖域へと戻った。


「それで、ベガに聞きたいことがあるんだけどさ」


 俺は外で待っているケンタウロスたちを【巻き戻し】で記憶を消すかどうかを相談した。


「消してやってくれ」


 ベガは暗い顔になって言った。


「その記憶は我が引き受ける。消してやってくれ」


「……誰もベガが悪いなんて言ってないよ」


「言わないだろうが、我自身が我を許せんのだ。我が守護する者たちなのに、我のせいでひどい目に遭った。……記憶を消すことで我の罪が消えるとは思えんが」


 守護獣としては、辛いんだろうなあ。ケンタウロスも何人も死んでいるはずだし。


「分かった。とりあえず、ここを出よう。ケンタウロスたちに姿を見せてやってくれ」

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