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第96話

『救出……感謝、する……』


「サーラもじき来る」


火蜥蜴サラマンダーの、今の名か……』


 掠れる意識が流れ込んでくる。


「とりあえず、グライフ、頼めるか」


「ぐる」


 グライフは悠然と歩き、土山に頭をつける。


 グライフは神子じゃないけど、神獣で、俺とは主従関係にはあるし、天馬と属性が近いから、俺と天馬を繋ぐ溶媒になってくれるだろう。


 グライフの背中に手を当て、俺は生命力を送り込んだ。


「ぐぅっ?!」


 一瞬グライフの身体が強張ったけど、ちゃんと生命力はグライフを通じて天馬に送り込めた。


「悪いグライフ、無茶だったか?」


「ぐるる。ぐるぅぐる」


 大丈夫、と言いたげなグライフににっこり笑って頭を撫でてやって、土山を軽く叩く。


「大丈夫か?」


『生神の生命力……感謝する』


 さっきよりはっきりした意識が届いた。


『だが、情けない話だ』


 自己嫌悪のにじむ声。


『守護獣でありながら、守護する者を守ることも出来ず己を守ることも出来ず……彼らが切り刻まれるのを見ているしかないなどとは……』


「……俺もだよ」


 俺は首を竦めた。


「人間を救うために来た俺なのに、こんな所でこんなヤバい研究されてるなんて思わなかった。俺がもう少し早く来れば、もう少し被害者が少なかったかもしれない……そう思うと、嫌になる」


『生神もか……』


 お互いに溜め息をつき合って、俺は心話を飛ばした。


(ああ、シンゴ。天馬は見つけたんだな? いい風が吹いている)


(完璧にじゃないけどな。まだ天馬は土山の中。俺の生命力を送り込んであるけど、守護獣を解放させる正しい方法俺知らないから)


(神子契約を結べばいいではないか)


 サーラは何でもないことのように言うけど。


(天馬は守りたい相手がいるだろう)


 そう、守護すべき存在を守れず悔やむ守護獣を神子にして連れ出すわけにはいかない。


(シャーナを忘れたか?)


(え)


 忘れるわけがない。俺の最初の神子、世界を救ってくれと頼んできた、誰もいない神殿でただ一人俺が来るのを待っていた女性。厳しい旅には耐えられないからと神殿に残って俺たちのフォローをすると決めた強い人。


(神子契約は確かに神子と生神を繋ぐ特別な絆だ。神子に信仰心がある限り、それは例え地の果てと果てに分かたれていたとしても絆は切れん。シャーナはお前と心を繋げるし、お前もシャーナの今を知ることができる。そうだろう?)


 そうだ、シャーナは滅多な事じゃ声をかけてこないけど、俺を心配してくれている気配だけはいつも感じる。俺の無事を祈り、皆の無事を、モーメントの未来を祈ってくれている気配、それが絶えることなく伝わってくる。


 ……そうだな、後は守護獣次第か。


 俺は再び土山に手を当てた。


「天馬、俺の、神子になるか?」


(願ってもないこと、我が守護すべき存在を守れるだけの力が与えられるのだから)


 そして玲瓏とした声が響く。


「生神よ、我に名を授けよ! 汝と共に征く我を繋ぐ新たな名を!」


 土山が真っ二つに裂けて、背に大きな翼を持った真白の馬が姿を現した。風と大地の守護獣、天馬ペガサス


 んー……。


「ベガ」


 俺は名を呼んだ。


「お前は今日からベガ、俺の神子だ!」


【神子候補:べガ 信仰心レベル50000 属性:風/大地/神/聖】


 端末をタップした瞬間、天馬を包んでいた真白の光が、荒れ狂う風となって空間を吹き荒らした。


「うああっ」


 魔物たちが清浄なる風に打たれて悲鳴を上げる。そう、魔の者を浄化する降魔の風だ。


 すぅぅ、と四方八方に魔物を追い散らしていた風が、俺の目の前で渦を巻いて形を成した。


「ベガ……ベガか」


 呟くような声。


「では、我はこれよりベガだ、よろしく頼む、生神よ」


 背の高い、クールビューティーが立っていた。


 ……また女。


 なんで俺が名付けると女になっちゃうわけ? と思って、星のベガが織姫星だったことを思い出した。俺がペガサスからペガ、ベガと変えただけなんだけど、無意識で女にしちゃったか。


 そっか、これも俺の好みかあ。胸は確かにこの顔立ちと体型から行けばスレンダーな方がいいな。しかし生神様とか言っておきながら好みのタイプの女性集めてるって性癖晒して歩いているようなものじゃないだろうか。


「さて」


 膝を折るプフェーアトと、騒動の隙に逃げ出そうとしていてプフェーアトに炎の縄で縛り上げられた魔物と、念入りにひづめの跡をつけられてこれまたギッチリ縛り上げられた魔族のオグロ。


「済まなかったな、我の力が足りなんだが故に。そして、よくぞ生神を案内してくれた。汝の判断がなければ、生神が遅れ、被害者も増えたと思う。その功績を持って、プフェーアトをケンタウロスの成人と認めよう」


「守護獣御自ら……ありがたき……お言葉……!」


 そこへ、足音が聞こえてきた。


「来たか」


 サーラがずるずると魔物たちを引きずって現れた。レーヴェとミクンも引きずっている。


「大漁だな」


「囮にしたからな」


 サーラはニッと笑った。


「子供を閉じ込めてある部屋の二つある入口の一つに潜んで、入ってくるたびに捕まえてふんじばった。天馬はお前とプフェーアトが助け出すだろうからな。私は逃がさないように全員捕まえて……」


「捕まえて?」


「さあ天馬、どうする?」


 ベガも二ッと笑い返した。


「我の守護する存在を切り刻み、痛めつけ、殺しの道具とした……その罪を負ってもらわねばな」


 ひぃぃ、と魔物が声をあげる。


「わ、私が何故縄目を受けねばならんのだ! 私は神の声に従って任務を果たしただけ、神が神の邪魔をするなど……」


「神の質が違う」


 オグロの悲鳴に近い言い訳に、サーラは冷ややかな目で突っぱねた。


「貴様に命じた神と、貴様を捕えた神。決して互いを理解できない。敵対する神を殺す研究を、しかもその守るべき存在を傷つけ、刻み込んだ貴様を、捕らえた神が許すとでも?」

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