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第88話

 カルさんとパールトさんは、勢いに押されて頷いたものの絶句している。そりゃ、いきなり守護獣とか言われてもそりゃ信じられんよな。でも恐らく成人の旅に出る前に自分たちの守護獣を会っているらしいから、ケンタウロスでもないのにその正体を知っているのは守護獣か神だけとなるんだから。……俺は神だけど例外だな。


「ケンタウロスの方々に、我らが神殿に征くことをお許し願えまいか」


「いいや、それは……」


「《《気配》》がそう言っているのだ、我らは従うのみ」


 そう言ったのはプフェーアトさんだった。見ると、サーラに向かって膝を折っている。ヘルプ機能の豆知識で、ケンタウロスは信頼した相手にしか膝を折らないって出てたな。背中に乗せて、それで何か分かったのか。


「大地の民の守護獣よ、我らの代わりに神殿の無事を確認してはもらえまいか」


「プフェーアト!」


「ケンタウロスは三度、神殿には行けない。パールトはダメだ」


「我はどうするのだ」


「カルは行ける。だがカル、お前はこの方々を信頼してはいないだろう」


「当たり前だ。唐突に守護獣など……守護獣とは獣。人の姿をしているではないか」


「守護獣ならば人の姿も作れよう。そして、サーラ様が大地と炎の守護獣であるのならば、風と大地……同じ属性を持つ我らが守護獣を知っていてもおかしくはない」


 あれ? サーラってケンタウロスに会ったことがないって言ってたような?


「ケンタウロスにはな」


 心の中を読んで答えるのは声でも意思でもやめて欲しい。


「天馬とは仲が良かった。我らは積極的に人間と関わる方針だったから、私がドワーフの、あいつがケンタウロスの守護獣として人界に降りると決めた時に別れを決めた。ドワーフとケンタウロスは同じ大地でも岩と草原。交わることも難しいだろうと、袂を分かった。六千年ばかり前のことだ」


「そんな、まさか」


「ちなみにオレは守護獣様のこともその御姿も語っていない。なのに守護獣様の存在を知り正体を知り、そして《《気配》》が言う存在だ、信じない方がおかしい」


「でも、ケンタウロスの聖地に踏み込むのは……」


「その聖地が荒らされていて、天馬が封じられている可能性もあるのだ。守護獣は封じられていても守護する人間に恩恵を与えることができる。あいつは弱っている」


 サーラは彼方を……神殿があると言う方向を見た。ひゅう、と風が舞う。


「風が助けを求めている。私がここにいることに気付いている。早く来いと」


 ぽつり、サーラが呟いた。


「風の声が聞けるのか!」


「ケンタウロスでも滅多に聞けないと言うに?!」


「だから言っているだろう、守護獣と」


 サーラは苛立ったように言った。


「天馬が助けを求めている。誇り高いあいつがこのような弱弱しい風を吹かせてまで呼んでいるということは、天馬は今自分では何もできない状態だと言うことだ。あいつが優先するはケンタウロス。ケンタウロスが滅びかけていて何もできない状態を見過ごすことはできない。だから助けてくれと、呼んでいる」


 サーラは苛立ったように言った。


「いい、この風を追っていけば神殿に辿り着けるだろう。シンゴ、行くぞ」


「こ、この広い草原の、彼方北にある神殿に、二本足で行くと言うのか?!」


「サーラ……正体ばれまくって、どうすんだよ」


「天馬が必死で助けてくれと叫んでいるのだ。ケンタウロスの守護も出来ぬ己を不甲斐なく思い、私に頼む風が吹く。助けてくれと。来てくれと。恐らく封印されて、風を飛ばすのも精一杯、……敵対勢力が気付けなこの風に気付かれれば、自分の居場所すら告げられなくなる。ケンタウロスをのんびり説得している間はない。シンゴ、雲を出せ。あれなら道も迷わず一直線にこの草原を飛べる」


「ま、待て待て待て!」


 パールトさんが慌てて口を出してきた。


「守護獣がヒューマンとエルフとドワーフとフェザーマンを連れて、ドワーフの守護をおいてこんな所まで来ているというおかしい話が……」


「シンゴ、いや」


 サーラは言った。


「我が主たる生神よ。神子の頼みを聞いてほしい。我が朋友と、朋友が守護する種族を救うため、神具、自在雲と導きの球を使ってくれ」


 俺は溜め息をついた。


 ここまで焦っているサーラは初めて見る。同じ守護獣で仲が良かったのであれば、救いたいと思うだろう。


 助けを求める人を助けられる人間に。


 それが、おじさんの言ったことだった。


 だから、俺は。


 もももももっと空間から出てきた雲に、ケンタウロス三人が目を丸くした。


「生神、だと?」


 パールトさんが呟いた。


「世界が滅亡する時再生するために降臨する生神が? 守護獣を連れ?」


 俺はもう一個、導きの球も引っ張り出し、自在雲の真ん前に置く。


「導きの球よ、天馬の居場所を告げろ!」


 ほわんと水晶球に宿った光が、真っ直ぐ北を指した。


「それってそうやって使うものなんだあ」


 ミクンが感心したように言った。そう言えば前に空から落ちてきた大人のアウルムを救う時使ったっきり、後で見せてやるって約束してたっけな。


「グライフ、君も乗ってくれ」


「ぐる?」


「君の戦闘力も必要になるかもしれない」


「ぐるる」


 雲は乗る人間が増えるごとに広がる。


 ブランとコトラが乗って、かなりの大きさになった。


「オレも行く!」


 プフェーアトさんが叫んだ。


「ケンタウロスの守護獣が危険ならば、仲間が危険ならば、本当ならオレたちが行かなければならないはずだった! 生神様と炎の守護獣様が出向かれると言うのにケンタウロスが誰一人行かないわけにも行くまい! オレも行く! いずれはオレが行かなければならない場所だ!」


「じゃあ、プフェーアトさんも乗って」


「オレの足でもか?」


「全力で神具を飛ばす。それに、敵対勢力がいるようなところに疲労根倍した人を連れて行くことはできない」


「シンゴ、いや、生神様」


 プフェーアトさんは雲に飛び乗って言った。


「他のケンタウロスの分も、役立って見せる」


「プフェーアト!」


 抗議するようなパールトさんやカルさんが聞こえるが、ここまで焦っているサーラは初めてだ。本当に急がなきゃならない。


「抗議と詫びは後でする!」


 俺は自在雲を急発進させた。

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