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第86話

 なるほど、ケンタウロスが俺たちを簡単に連れてきた理由が分かった。


 ケンタウロスは野生動物に近い。本能で、目の前の事態が自分たちで対応できるかどうか、誰かの助けが必要か、必要になる誰かは誰か、読み取ることができる。だから、最初敵だと疑っていた俺たちを素直にここまで連れてきたんだ。


 ……恐らくは。敵対勢力もその本能からケンタウロスを魔獣化させる相手に狙ったんだろう。


 魔獣化したケンタウロスを見た限り、ほとんど敵対勢力の命令と本能しか聞かない獣と化していた。人間の武器である知恵はそこでは出せない。だから、ケンタウロスの予知にも近い本能……危険察知能力とでもいうものに目をつけた。目の前の敵に勝てそうなら攻めるし、負けそうなら特定の命令された場所まで退却する、それくらいの本能と知性があれば十分魔獣化しても役に立つ。


 ……ほんっとムカつくな、敵対勢力。


 考えに浸っていると、上下の揺れが少なくなった。


「俺のことは気にしなくていいから……」


「いいや、違う。着いた」


「着いた?」


「オレたちが捕らえられたところだ」


「え、もう?」


 ゆっくりとスピードを落とし、立ち止まる。


 見下ろせば、無数の蹄跡。


 混乱したケンタウロスたちが逃げ回ったんだろう、蹄の跡は滅茶苦茶で、あちこちに逃げ回ったんだろう。


「次に、プフェーアト殿」


 俺を乗せていたプフェーアトがサーラの方を見る。


「並足の速さで、あの時言った距離を今から歩いてくれないか? ああ、シンゴは降りろ。速度が変わる」


 馬の背から滑り降り……。


 そのまま座り込む。


「うおえ?」


「どうしたシンゴ」


「すげー……」


 乾いた笑いが起きる。


「すごいって何が」


「足、立たねー……」


 膝は笑うし太ももは震えるし足首は力入らないし。神様ってのは疲れたりしないんじゃないのか?


 馬に乗るのが苦手そうなヤガリだって、しゃんと立っているのに。


「お前の世界に馬はいないのか」


 お前自転車乗ったことないの的に言われて、俺は笑うしかなかった。


「いるよ? いるけど、お金持ちしか乗れないんだよ。乗馬って上流のスポーツだし、競馬で乗るのは選ばれた騎手だけだし」


「馬なんて、何処にでもいるのに……」


「だからいないんだって。少なくとも気楽にちょっと隣行ってくるわ馬借りるね的な馬はいない。だから、俺の生まれた国で馬に乗ったことがある人間なんて、人口の半分以下なんじゃないかなあ……」


 俺? もちろん俺が乗れるわけない。この醜態見ればわかるだろ。競馬場行ったこともないしな。


「じゃあお前たちは遠隔地に行く時にどうしているんだ」


「俺が主に使っていたのは自転車だな。二つの車輪を足で漕いで進むんだ」


「疲れそうだな」


「馬よりは疲れない。俺にとっては」


 パールトとカルが不思議そうな顔をしている。いけねえ、俺が異世界から来た生神ってのは内緒だったのに監視員がいなくなった途端に口から出てしまった。


「お前の国に馬はいないのか?」


「いない。ケンタウロスもいない」


 背筋に疲れとは別のイヤーな汗が流れるが、カルに向けた顔は笑顔だった。これを人は演技と言う。


「馬は高貴な生き物だから、俺には乗れなかった」


「なるほど」


「お前の国は我らの血を尊んでいるのだな」


「うん、まあ、そう」


 そう言うことにしておこう。


「道理で乗り方が慣れていなかったわけだ。プフェーアトの背から落ちぬか、心配したぞ」


「ハハハ……」


 笑う笑う。笑ってごまかせわっはっは。


「で、サーラとプフェーアトさんは何処まで行ったんだろう……」


 彼方を見ると、凄まじい勢いで向かってくる影。


「おお、戻ってきた」


「プフェーアトにしては早い。背にいい女を乗せればよい所を見せざるを得んな」


 サーラはねー、やめといたほうがいいですよー? あの人頭に来るとこの草原全体丸焼けにだってしちゃうんですからー。フェザーマンの翼だって焼き尽くしちゃった人なんですからー。てうかサーラって本当に女かー? 確か最初に会って名前つけた時、サラマンダーかー、じゃあサーラだなー。でもサーラって女の名前だっけー? とか考えながらつけたから女の姿になっただけで、本当はどっちでもないみたいなことを言ってた気がするよ。


 これ以上考えたらこわいことになってしまうのでやめておこう。


 サーラを乗せたプフェールトはすごい勢いで走ってきた。


 俺たちの前で華麗に止まって見せる。動から静へ、一瞬で切り替えるその早業お見事。


「早かったな」


「サーラ殿が羽根のように軽いからだ。何も乗せていないようだったぞ」


 ……多分浮いてたな。浮けるからな。


「シンゴ、考えてないで地図を出せ」


「はいはい」


 ……考え読んでたな。今はそれどころじゃないから心の中で俺に突っ込んでこないだけだな。それはそれでいいけどな。


 俺が取り出した端末に、サーラは指を伸ばした。


「現在地がここ」


 ぴ。と真ん中に印が入る。


「で、プフェールト殿の言う「巨犬木と奥の岩を並足で」と言う時間から考えられるのは、この辺り」


 真ん中の印を囲むように、神にしか使えない端末に円を描く。


「で、ここから来たから、この近辺は候補から外される」


 円の一部が消える。


「さっきまで行っていた巨犬木と奥の岩の辺りも、崖や丘、地割れはなかった。だからこの近辺も外される」


「限られて来たな」


 レーヴェが覗き込んで細い自身の顎に手をやる。


「何がだ?」


 不思議そうにケンタウロスが覗き込んでくる。


「この、色がついている部分」


 サーラがさりげなくとん、と端末を叩くと、草原の地図が表れ、そして色の付いた部分が出た。


「変わった地図だな」


「知らんのか? 東の方の上流階級が開発したものだ」


 サーラ……相手が東を知らないと思って適当言ってるな……。


「この、色のついている部分。敵が転移魔法でも使えない限り、この部分にいる可能性が高い。で、お聞きしたいのだが」


 サーラが三人のケンタウロスを見た。


「君たちはこの草原に詳しいだろう。この色のついている辺りに、崖、洞窟、そのような、ケンタウロスを閉じ込められるような場所はあるだろうか」

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