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第82話

「成人の旅?」


 聞き返した俺に、今度は逆にレーヴェが聞き返す。


「何だ、知らんのか、成人の旅を」


 昔、テレビで観た成人儀礼のようなものかなあ。耳に穴をあけるとか、高い所からロープ一本でバンジーするとか。


「ばんじいとはどんなものかは知らんが大体その認識であっていると思う。人間の、どの種族にも、あるんだ。成人になったら大人として何か与えられるとか、あるいは成人になるためにクリアしなければならないミッションがあるとか。フェザーマンのグリフォンを与えられるのなんて正にそのものだ、一人前になったのだからフェザーマンの一人として仲間と共に働けと言うことだ」


「アウルムも大きくなったらグリフォンもらうんだー。フェザーマンよりも早くずーっと空を飛ぶんだよー」


 グライフの鷲の頭が、一瞬ビクンッと震えた。……そうだな、お前は嘴を剥いたほど大人のアイルムを嫌ってたからなー……。


「お前がグリフォンに認められるのはまだまだ先だ、グライフに乗せてもらえるだけでもありがたいのだとちゃんとグライフを労わるんだぞ」


「……はあい」


 現アウルムの認識では、グライフは俺がフェザーマンから引き取ったグリフォンで、足の弱いアウルムに特別に貸してやっている、と言うことになっている。アウルムは大人の仲間入りをしたようで喜んでいたけど、グライフは露骨に嫌そうな顔してたもんなあ……。いや、鷲の顔色なんてわからないけど、アウルムへの態度とか、行動とか、そう言うのがいやいややってるって俺にも分かるほどなんだもんな。


 それでもブランにしなかったのは、ブランが神驢アシヌスだったからだ。ドワーフの神獣で、ロバと比べてもかなり小柄だけど、重い荷物を平然と運ぶ炭坑用に生み出した神獣は、ヤガリの所有獣だったからだ。


 アウルムが勘違いして、この神獣が自分のものと思った時、どうなるか想像したくないとサーラが呟いたのに大人全員サーラの顔、見たからな。


 グライフ……フェザーマンの成人に与えられるグリフォンなら余計勘違いするんじゃないだろかと俺は思ったけど、グライフは神の権限によって俺のものになったのだとアウルムが認識していて、自分に与えられるのは大人になった時だけで、それまで「特別に下賜されている」とミクンとサーラが二人がかりで教え込んだ。大人の証は欲しいけどまだ早いとアウルムも思ったようで、神妙に頷いていた。まあ、やっと彼女から逃れて俺の下に来たグライフには、いい迷惑だけど。


 「悪いグライフ、せめてアウルムが旅に慣れて二本足でそれなりの距離を歩けるようになるまで馬替わりを」と頼んだ時、人間の言葉も分かる賢いグライフはほんっとうに、ほんっっっとうに嫌そうな顔で了承したからなあ。そしてコトラとブランに何やら慰められていた。獣たちは獣たちで仲がいい。いいことだ。


「出発するぞー」


「はーい」


 まだ歩けないアウルムが一番元気よく返事して、旅は再開された。


 だけど……またすぐにストップするんだろうなあ……。


 俺の固有スキル【索敵】に引っかかるものがあったからだ。


 一番後ろを歩くサーラとヤガリを振り向く。


 流石は守護獣にドワーフの戦士、俺の視線の意味をすぐに悟って、索敵モードに入った。


 レーヴェもそれを察してさりげなく腰に手をやる。


 そしてそれらに気付かないミクンじゃない。グライフにかけていた手綱を手に取り、俺の方を向いた。


「上に行く?」


「いや」


 俺は小声で答える。


「戦闘ってのがどんなものかを見せておきたい」


「それには同意するけどね。まだ安全第一でしょ?」


「ミクンがいれば安全だろ」


「え?」


 きょとんとした声。


「自信ないのか?」


「そっか……安全ね。あたしがいれば安全」


 安全、安全と口の中で香茶を楽しむように言葉を繰り返し、そしてミクンはニッと笑った。


「大丈夫! あたしがいるから!」


「おう、任せた」


 ブランとグライフが足を止める。


 微かな害意に気付いたのだ。それで足を止めたのは臆病だからじゃない、立ち向かうためだ。アシヌスもグリフォンも戦闘となれば頼もしい味方になる。もちろん荷物を背負っていてもらっているので正面切って戦われても困るけど、独自の判断で敵に荷物を奪われないよう動いている。グライフはきっちりミクンとアウルムを守ってくれるだろう。……嫌でも、な。そうするヤツだと俺は思っている、いや、信じている……いいや、確信してる。


 俺は剣を抜いて、《《それ》》の方向を見た。

 南西から……一直線に向かってくる気配。三・四体。魔獣か魔物かは……判別できない。今まで感じてきた気配とは全く違うんだ。【索敵】の気配だけで相手の正体が読めないなんてこと、今までなかったのに。


 ただ、本能的に……ひどく、嫌悪感を、感じた。


 そして、俺が何とかしなきゃいけないと言う、使命感。


 モーメントに降り立った生神に与えられた本能とでもいうべき部分が、俺に訴えている。


 俺が何とかしなきゃいけないのだと。


「どうした、シンゴ」


「サーラは感じないのか?」


 サーラが不思議そうに問いかけて来たので逆に返すと、サーラは俺の頭の中をのぞいて、首を振った。


「すまん、お前の本能を、守護獣は理解できん。ただ、これだけは言える」


 一旦言葉を切って、サーラは随分近付いた《《それ》》の方を向きながら言った。


「その本能は、モーメントと、そこに過ごす生物を守るためのものだ。逆らわない方がいい」


 それと同時に、枯れ果てた木々を薙ぎ倒し、何かが街道に飛び出してきた。

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