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第79話

 今俺たちが目指しているのは、アウルムの更に東、ハーフリングの草原でなく、地球のサバンナに似た熱帯草原地帯だ。


 そこに住んでいるのは、上半身がヒューマンで下半身が馬と言う、人間の中でも珍しい四つ足の種族、ケンタウロス。


 ハーフリングが草原の民の他に「丘の民」と呼ばれるのは、ケンタウロスとの区別をつける為でもある。


 草原を馬の下半身で駆け獣を狩る彼らは、動物寄りだと他の人間に言われるけど、その分生命力も強く何でも自分たちで出来て、交流や品物のやり取りと言った他種族の助けも借りず自力で生きていける強い種族なのだ。


 ヒューマンやエルフ、ドワーフやフェザーマンが、あの四種会議のように話し合って品物をやり取りをしなくても、自分たちだけで生活を成立できるってのは、人間の中でも珍しい。


 ただ、それも熱帯草原が無事にあればの話。


 サーラが言うには、他種族の力を借りないことがケンタウロスの誇りなのだと言う。自由を誇りとするハーフリングにそう言うところは似ている。だから、今でも力を借りることなく草原に住んでいる彼らはヤバい状況にあるとは簡単に想像できる。


 大陸中央の原初の神殿から大樹海に向かったのは単にそこが神殿から近い人間の居住区だったから。ついでに北へ向かって無窮山脈を目指したので、後回しになってしまった。


 ……俺が二人いればなあ。神威で俺を【増加】させるってできるだろうか。いや、俺が二人いてもM端末は一つだし……。


(余計なことを考えるなよ、シンゴ)


  ビクゥッ!


 意識だけで会話できるのは便利だけど、サーラほど信仰心が高いと言うか神に近しい存在だと、こちらの考えていることが筒抜けになってしまう欠点がある。欠点か? 欠点だな。ぼーっと考え事をしているとサーラが頭の中を勝手に覗いてくるんだから。


(生神が二人になれば、いくら元が同一とは言え、分かれた時点で別の存在になる。意見がぶつかれば神同士の争いとなる、世界が滅亡にまっしぐらだ)


(……はい)


 サーラの意見はいちいち正しいので反論すらできない。


「お兄ちゃん?」


 アウルムの声が聞こえた。


「え? あっごめん、何?」


「何か難しい顔してるから。大丈夫? アウルムが何か心配させた?」


「何でもないよ。ケンタウロスってどんな種族なんだろうなあって思ってただけ」


 素直だな。純粋で優しい。


 そんな子も、甘やかせば《《ああ》》なるとは。教育ってのは難しいよなあ。


 それでいくと、俺のおじさんは本当に俺に色々教えてくれた。兄の子供だからって独身だから断っていいのに、俺を引き取って真っ当に育ててくれたおじさんは、本当に尊敬する人だ。甘やかすでなく、虐待するでなく、ただ生きるのに必要な知識と考え方を伸ばしてくれた。


 今おじさんと話せたら、きっと色々教えてくれただろうにな……。


 おじさんは立派な人間だった。もしかしたら何処かの世界で同じように生神してるかも。おじさんの創る世界ならきっといい世界だろうな。


 おっと、おじさんのことばかり考えていてもしょうがない。


「ケンタウロスに誰か会ったことはある?」


 いーやと全員が首を振った。あら、サーラまで?


「私は炎とドワーフの守護獣として生まれたからな。草原駆ける民とはあまり関りがなかった」


「あたしもとうさんから聞いた程度でしかないなあ」


「どんな話を聞いたんだ?」


「背の高い草生える草原を自在に駆ける、真に誇り高い民。ハーフリングとケンタウロスが力を合わせれば、他の種族は太刀打ちできないって」


「何故だ?」


「レーヴェは騎士でしょ。今は馬に乗ってないけど」


「ぐ……いずれ乗る」


「だったら、騎士が馬に乗った時の強さを知っているよね。騎士が馬に乗ると騎士プラス鎧プラス人間分の重さが馬にかかるけど、ケンタウロスはそれがない。臆病な馬を軍馬にする必要はないし、馬と意思疎通する必要もない。自分の望むままに草原を駆ける。歩兵はそれで十分に倒せる。足元が弱いっていうのが弱点だけど、そこをカバーできるのがハーフリング。何より場所は違っても同じ草原の民として尊敬しあっているってとうさんは言ってた。今はどうか分からないけどね」


「そうだな、ミクンの草原も滅茶苦茶だったし……」


 あの腐り果てた草原と、そこにしがみつくように住んでいたハーフリングたちを思い出す。


 ハーフリングも草原諸共滅ぼうとしていたんだ、ケンタウロスはどんな考えに行きつくんだろう……。他の種族とつながりを持たないってことは、いざって時助けてもらえないってことでもあるし……。


「ぅな」


 突然コトラがジャンプして、頭の上に飛び乗った。


「うわ、あぶねえ。首の骨折ったらどうすんだ」


「ぅなーお」


「腹が減ったんじゃないか?」


 ヤガリの言葉に、そう言えば半日ほど歩いていたと思いだす。


 アウルムがどれくらい戦力になるか分からない以上、足手まといとして話を進めるしかない。危険を避けるため、灰色虎に前を行ってもらい、野生の勘で魔獣や魔物の出現を警戒してもらっていた。それが半日。歩いてないアウルムやミクン、疲れない俺やサーラと比べて、ヤガリやレーヴェは神子となったことで身体強化はされているけれど、ぶっ続けで歩けば辛くないはずがない。


「休憩しようか」


 がふんとグライフが頷き、ブランがぶしゅうと鼻息を漏らす。早速レーヴェが聖域サンクチュアリの魔法で周囲を安全な空間にして、ヤガリがブランから荷物を下ろして人数分の毛布を下ろして手早く座布団(この世界には座布団はないけどそれに近いんで)を並べ、真ん中で火をたく。


 俺は生きているけど神様なので、サーラと同じく自分への信仰心を栄養とするから食事は食べなくても平気。ただ、口寂しい時がある。普通の人間だったころの癖だろうか。とにかく携帯用のパンと干し肉と燻製魚に飽きてきた。もうちょっと美味しく味変できないかなあ。調味料とかないから無理かなあ……。

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